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【書評】昭和の名短編

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●荒川洋治編『昭和の名短編』<中公文庫>(21)

現代詩作家の荒川洋治さんが、1945年~1989年の戦後文学14作を選定したもの。①志賀直哉「灰色の月」、②高見順「草のいのちを」、③中野重治「萩のもんかきや」、④三島由紀夫「橋づくし」、⑤小林勝「軍用露語教程」、⑥佐多稲子「水」、⑦深沢七郎「おくま嘘歌」、⑧耕治人「一条の光」、⑨阿部昭「明治四十二年夏」、⑩竹西寛子「神馬」、⑪田中小実昌「ポロポロ」、⑫野間宏「泥海」、⑬吉行淳之介「葛飾」、⑭色川武大「百」。

登場人物は少年工だが、戦後の虚無感に繋がるかのような①、新しい時代を迎えて、はじけるようで、どこか躁的な人々を描く②、戦争未亡人の女職人を通して戦争が透けて見える③、2人の芸者に料亭の娘とお供の少女、4人の人格の書き分けが見事で、ストーリー展開もドキドキする④、予科士官学校でロシア語を学ぼうとする主人公が、勉学が意味を成さなくなる立場となる、これも戦争の悲劇をリアルに描いた⑤、出稼ぎの少女が母親の危篤に帰れず悲嘆に暮れる、戦後ならではのテーマを持つ⑥、田舎の老女を書かせると抜群の⑦、真意と行動の微妙な差が味わい深い。

戦時中の生活の中で光を感じる⑧、海軍軍人だった父親の旧友からの手紙を元に、少年時代の父親に思いを馳せる⑨、神社で飼われている神馬の繰り返す動きに漂う哀愁⑩、小さな教会で唱われる祈りにもならないような言葉「ポロポロ」。タイトルを含めて独特の世界が面白い⑪、海面を失った海、そこに生きる海老の群れなどSF的な感覚もある⑫、老整体師の謎めき具合が絶妙な⑬、問題行動を起こす元軍人の九十歳代の父親と子供の人生が交錯する⑭。

名を成す作家の厳選された作品集につき、文章表現の美しさやソリッドさは十分堪能できる。戦後から昭和の終わりまでという括りも活きている。音楽で言えば、時系列に並べながらリンクする部分も感じられる、良質なコンピ盤のような完成度だ。解説で、泣く泣く選から漏れた作品も上げられているのが、荒川さんの本気度を伝えている。





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