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短編小説

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2020年11月の記事一覧

陽のあたるリビングで  #短編小説

陽のあたるリビングで  #短編小説

実家へ行くと、いつもの青いはんてん姿の父がいた。
「何かすることある?」
「じゃあ、これをパソコンで、打って。」
父の好きな歌の歌詞だった。

自分のと設定が違うパソコンで、思うように入力できず、ちょっと手間取る。

余命宣告されている父。入院先の病院から、少しでも本人の好きなところで過ごせるように、無理をいって、自宅に帰ってきた。
今日は母が美容室に出かけるので、代わりに私が父のところに来たのだ

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中央線の朝  #短編小説

中央線の朝  #短編小説

朝7時

駅を出てすぐのコーヒーショップに入る。
年配の男性が新聞を読みながら朝食をとっている。
ミカもパンとコーヒーを注文し、窓側のカウンター席から、朝日が差し込む白いビルを眺める。

地方の会社から東京へ出向してきて1か月。地元では、仕事前にカフェで朝食なんてありえない。とても新鮮な時間だ。会社の時間を気にしながら、20分くらい本を読む。

満員電車に耐えられず、少しでも空いているほうがいいと

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現場のオニ  #短編小説

かみ合わない現場だった。
ひとりひとりは、性格も穏やかで、知識もあり能力も高い。しかし、ちょっとした連絡事項が、全然、現場全体に伝わっていない。

所長は、鋭い目つきで立っている。がっしりした体格。アメフトか何かしていたのだろう。大きな工事現場をまとめるには、あれくらいの迫力がないといけないのだろうか。

ミカも、この工事現場に、監理として出入りしている。設計図どおりに施工されているか、鉄筋本数を

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暮れゆく園庭

暮れゆく園庭

保育園に迎えに行くと、子供達は、満足するまで園庭で遊んでからでないと帰らない。

今日は金曜日。やっと1週間が終わる。疲れがたまり、頭痛がする。晩御飯は何をしよう、冷蔵庫に何もなかったな····
そんなことを考えながら、走りまわる子供達を見守る。

「ママー、ごちゅうもんは、
 なにがいいですか?」
娘がお店やさんをはじめる。
「ええと、じゃあ、
 カレーライスください。」
「はーい、
 かしこま

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