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自分の心理状態を確かめる心理療法「書き出し療法」

「心のストレッチルーム」前田泰章です。

今回は、当ルームでよくおこなう心理療法「書き出し療法」をご紹介します。

この記事(10900文字)はボリュームがあるので、時間のあるときにじっくりお読みになってくださいね。

カウンセリングの現場では、自分の話をすることが苦手というご相談者さんが少なくありません。ですので、何を話していいのか、気持ちの整理もつかずカウンセリングを終えられる方もいました。

そのような方に、気持ちの整理をし、自分の話をしてもらうためにはどうしたらいいのか? と独自に開発したのが「書き出し療法」です。

書き出し療法は5つの質問から構成されており、カウンセリングでは、1つの質問が書き終わったら発表してもらいます。そうすることで、カウンセラーとの間にリズムのような心地よい感覚が生まれ、本音を語りやすくなります。

心理ワークでは、あなたの書き出した内容を聞くことができませんので、補足説明を多くし、事例などもちりばめて作成しています。

ただ、ここで紹介するのは、1つの考え方ですので、絶対にこのようにしなければいけないわけではありません。もし、違和感を感じるようでしたら、「こんな考えもあるんだ~」くらいにとどめておいてくださいね。

では、はじめてまいりましょう!
(前田泰章)

【留意事項】
■記事を読みながら進める方は、紙とペンを用意しておこなってみてください。
■記事の内容は、PDFでプリントアウトすることもできます。(リンクを記事下に記載)



なぜ、書き出すと気持ちが整理されるのか?

この心理療法は、自分の心の中にある不安や悩み、願望などを「書く」ことで、気持ちを楽にする効果があります。自分の感情を書き出してストレスを軽減する「筆記療法」という心理療法がありますが、この療法もその一種です。

では、書くことで心が整理され、気持ちが楽になるのはなぜでしょうか。

よく「無限の想像力」と言われますが、人の頭の中で空想の世界はどこまでも広がっていきます。それが楽しい空想ならいいのですが、悩みを抱えているとき、つらい状況に置かれているときは、ネガティブな考えばかりが次々と浮かんできます。
まるで果てしなく広がる真っ黒い闇のごとく、苦しみがいつまでも続くように感じてしまうでしょう。

一方、書くことには物理的な限界があります。頭の中に浮かんだことを書きつくすことはできません。永遠に書き続けようと思っても、それは不可能ですよね。

自分の悩みやつらい気持ちを言葉にして書き出してみると、必ず書くことがなくなります。すると、そこでいったんネガティブな感情に区切りがつくので、悪いほうへ悪いほうへと考えてしまう自分にブレーキがかかるのです。

また、頭の中にある漠然とした思いを文字にすることで、自分の気持ちを客観視できます。

自分が考えていることや感じていることも、頭の中から取り出して文字で表現すると、自分から切り離すことができるからです。

結果「自分はこんなことを考えていたんだ」ということに気づき、気持ちが整理されます。ときには、「そこまで深刻に考えるほどでもないな」と心が軽くなる場合もあるでしょう。

カウンセリングを必要とする人の中には、漠然とした不安や苦しさに悩んでいる人も少なくありません。なぜ、不安になるのか、苦しいのかがわからないのです。
そういった方も、書き出し療法を実践すると、自分の悩みの原因に気づくことができます。

悩んでいる人の思考パターン

約20年間、夫からの暴力を受けていたという女性のクライエントがいました。

カウンセリングへ通いはじめたときにはすでに離婚して約6年が経過しており、3人の子どもも無事に独立。ご本人は実家で母親と暮らしながら、看護師としてやりがいを持って働いていて、周囲からの評判もいいとのことでした。
しかし、夫からあびさせられたひどい言葉や殴られた痛みを思い出して、今でも苦しくなるというのです。

今現在は、夫と離れた安全な場所にいるのに、過去の出来事によってつらい気持ちになってしまう。この女性のように、過去に受けたトラウマ(心的外傷)によって生きづらさを感じている人は大勢います。

現在は過去の延長線上にありますが、それは「現在の心は過去に囚われやすい」と言い換えることもできます。
過去にひどくつらい出来事があると、それに縛られて、過去の感情までが蘇ってつらくなってしまうのです。

一方、過去ではなく未来のことを考えて、悩みや不安を抱えてしまうことも多々あります。

たとえば「サザエさん症候群」はそのいい例でしょう。

「サザエさん症候群」とは、学生や会社員などが、日曜日の夕方、「サザエさん」のアニメが放送されるころになると、翌日からの学校や仕事のことを考えて憂うつになってしまう現象です。

過去・現在・未来はつながっていますから、今までにつらい経験をしていると、「未来もきっとつらいだろう」とネガティブな想像をしてしまい、苦しくなってしまうのです。

過去の出来事にとらわれて悩んでいる人も、つらい未来を予想して不安になる人も、共通しているのは、「現在」にいながら、思考は「現在」でなく、「過去」や「未来」にあるということです。

悩んでいる人の多くは、実は今現在ではなく、終わったはずの過去の出来事や、まだ起こってもいない未来のことを考えて、不安になったり、苦しくなったりしているのです。

つまり、思考を現在へと戻せれば、不安や苦しみを減らせるということです。

これから紹介する書き出し療法には、思考を今現在へと集中させる効果もあります。
自分の思いや考えを書き出す療法ですから、過去や未来ではなく、現在の自分と向き合うことになるからです。また、書くという行為だけに集中することで、思考は自然と「今、ここ」に集中します。

ちなみにGoogleやAppleといった世界的企業が研修に取り入れていることで注目されている「マインドフルネス」も、「今、ここ」にだけ心を向ける瞑想です。

たとえば自分の呼吸にだけ意識を向けたり、歩きながら歩行にだけ集中したりします。
今生きているこの瞬間にだけ意識を向けることで、過去を悔やんだり未来を心配したりして乱れがちな心を安定させ、集中力を高めたり、ストレスを解消したりする効果があると言われています。

「書き出し療法」にも同様の効果が期待できます。

「書き出す」ときのポイント

ここからは書き出し療法の実践方法を説明していきます。この療法は、①~④の質問に対して、その答えを書き出すものです。

まずは、書き出すときに心がけてほしい3つのポイントをお伝えします。

(1)きれいな文章を書かなくていい

この療法で大切なのは、自分の頭の中にあるものをそのまま紙に書き出すということです。人に見せるために書くものではありませんので、きれいにまとめようとしなくて大丈夫です。自分が見直して意味がわかればいいので、文法的におかしくても問題ありません。
むしろ「正しい文章を書こう」「わかりやすくまとめよう」とすると、自分の本心とはかけ離れた内容になってしまう恐れもあります。
自分の思っていることを素直にそのまま書き出すことを大切にしてください。

(2)漢字で書く必要はない

最近はパソコンやスマートフォン(スマホ)を使って文字を書くことが多くなり、いざ、手書きで文章を書こうとすると、「漢字が思い出せない」ということがよく起こります。そういうときもわざわざ漢字を調べる必要はありません。ひらがなやカタカナで書けばOKです。
さきほども述べたように、人に見せるために書くものではないので、すべてがひらがなで書かれていても、字が間違えていても、自分が読めて、理解できれば問題ありません。
同じ理由で、「きれいな字で書こう」「読みやすくなるように文字の配置に気をつけよう」といった配慮も必要ありません。

(3)書きたくないことは書かなくていい

自分の頭の中にある気持ちをそのまま書き出すことが大切とお伝えしましたが、すべてを赤裸々に書かなくてはならないというわけではありません。
人に見られたら自分の立場が危うくなることなど、「隠しておきたい」と思うことは書く必要はありません。だれかに見せるものではありませんが、文字として記録することにリスクを感じるなら、書かないほうがいいでしょう。

これらのポイントは、カウンセリングの現場で紹介する心理療法のワークシートを書くときにも当てはまります。とにかく、自分の本心を文字として残せるように、あまり深く考えず、リラックスして書くことを心がけましょう。

それでは、例を参考に実際に書き出してみましょう。

質問 ①-1
今、あなたが抱えている悩み・不安・心配・症状・問題は何でしょう?

【記入例】
・自分が嫌い
・不倫の恋がやめられない
・虫歯が気になる
・上司との関係がうまくいかない
・仕事に集中できない
・髪がぼさぼさで気持ち悪い 
・部屋が片付けられない

【書き込み欄】



問題を縦に並べると、整理しやすい

さきほどの「①今、あなたの抱えている悩み・不安・心配・症状・問題は何でしょう?」
という質問に対して、はじめは「たくさんありすぎて途方にくれる」「自分を苦しめる問題が永遠になくならないのではと、憂うつになる」と思った方も多いことでしょう。

けれども、それを紙に書き出してみるとどうでしょう? 
自分の中に「漠然と」「たくさんある」と思われていた問題が明確になり、少し気持ちが楽になったのではないでしょうか?

とはいえ、書き出してみたところで「目の前の問題を自分で解決できるとは思えない」「どうやって解決したらいいかわからない」という人がほとんどだと思います。

そこで重要になるのが問題の並べ方です。

たとえば、次のような7つの悩みを抱えている人がいたとします。
「上司との関係がうまくいかない、不倫の恋がやめられない、自分が嫌い、仕事に集中できない、部屋が片付かない、髪がボサボサで気持ち悪い、虫歯が気になる」

このように問題を並列に(横に)並べるとどこから手をつけてよいかわからなくて、結局何もできなかったり、反対にすべてをどうにかしようとして今以上につらくなったりします。

そこでおすすめしたいのが、悩みに優先順位をつけることです。解決したい問題や悩みは、横にではなく、縦に並べてください。つまり、問題に優先順位をつけるのです。

さきほど例にあげた7つの悩みを縦に並べてみます。

  • 上司との関係がうまくいかない

  • 仕事に集中できない

  • 自分が嫌い

  • 不倫の恋がやめられない

  • 虫歯が気になる 

  • 部屋が片付けられない

  • 髪がぼさぼさで気持ち悪い 

そうすると、自分が今向き合うべき問題は何なのか、まずは何をすべきかが一目瞭然になります。

仕事でも、その日、1日でやるべきことを優先順に高い順に縦に書き出して、To Doリストを作る人がいると思いますが、それと同じです。
自分の悩みや問題も、縦に並べて書いて、同じように上から順に片付けていけばいいのです。

また、問題が1つ解決すれば、それが成功体験となり、新たな問題にも自信をもって取り組めます。
加えて、1つ問題を解決すると、案外、ドミノ倒しのように、その他の問題も次々クリアされていくこともよくあります。というのも、一見関係のないように見える問題も、つながっていたりするからです。

たとえば、

上司との関係が改善される
  ▼
仕事がやりやすくなって集中できるようになる
  ▼
仕事でよい結果が出て、自分に自信がつく
  ▼
人に依存する必要がなくなって、不倫を終わりにできる

ということも考えられます。

ただ、ここで大切なのは問題を解決できるかどうかではありません。あなたの中にある問題を明確にし、整理することで、「自分でも問題を解決していけそう」と思えれば十分です。

それだけでも気持ちが楽になって、少し前向きになれるはずです。

あらためて「①今、あなたが抱えている悩み・不安・心配・症状・問題は何でしょう?」で書き出したものを縦に並べてみてください。

どんな基準で縦に並べるかはあなたの自由です。
自分が解決したい順に並べてもいいですし、簡単に解決できそうな順に並べてもOKです。

1つひとつ解決していくイメージで、上から順に書いていくといいでしょう。

質問 ①-2
今、あなたが抱えている悩み・不安・心配・症状・問題は何でしょう?
①-1で書き出したものを、縦に並べてみてください。

問題などが多いようでしたら、まずは5~7つに絞り「自分が解決したい順」「簡単に解決できそうな順」など、縦に並べてみましょう。

【書き込み欄】


思い通りにならないことがある人は〇〇していない

それでは、次の質問です。

質問②
今、思い通りにしたいのに思い通りにならないことは何でしょう?

まず、この問いの答えを書き出してみてください。
職場の人間関係や親との関係、金銭問題、病気のこと、自分の精神状態など、なんでも結構です。

【記入例】
・部下にやる気が感じられない
・同級生との対人関係
・感情をうまくコントロールできない

【書き込み欄】


カウンセリングでは、この問いの答えを書いてもらった後、クライエントに「どんな気持ちがしますか?」と尋ねます。するとたいていは、「情けなく感じる」「自分がダメな人間だと思う」「つらい気持ちになる」といったマイナスな答えが返ってきます。

あなたも自分の答えを見て、同じように感じるかもしれません。

けれども、この問いの答えは、見方を変えればプラスに捉えることもできます。

なぜなら「思い通りにならないことがある」=「思い通りにしたいことがある」ということだからです。
つまり、「自分はこうしたい!」という希望を持っているのです。思い通りにならないことがある人は“絶望”していないのです。

今、あなたはいくつもの問題や悩みを抱えて、つらい状況かもしれません。そして「自分には何もできない」「私はダメな人間だ」と思い込んでいるかもしれません。

けれども自分に絶望して人生をあきらめている人は、何事もどうでもよくなってしまうものです。ちょっとした希望も持てないでしょう。

希望がある(思い通りにしたいことがある)ということは、人生をあきらめていない証拠です。まだ、あなたには自分や人生を変えようとするエネルギーがあるのです。

このように、ある事柄を捉える「枠組み(フレーム)」を変えて、別の視点で物事を捉え直すことを心理学では「リフレーミング」と言います。

リフレーミングの例として有名なのが、コップに水が半分入っている時、「半分しか入っていない」と思うか、「半分も入っている」と思うかというもの。物事は、どの方向から見るか、その捉え方によって、マイナスにもプラスにも考えられるものなのです。

とはいえ、思い通りにならないことが多くて生きづらさを感じているのに、「それは、あなたに希望があるということですよ」と言われても、「そうですよね!」とすぐに納得できる人は少ないでしょう。

実際、カウンセリングでも、「やっぱり、希望なんて持てない」「そんなに前向きになれない」という方がほとんどです。

そういう方は、無理に「自分は絶望していない」「自分には希望がある」とポジティブに考えようとしなくて結構です。自分の心に嘘をついていることになりますから、余計つらくなってしまいます。

ただ、あなたが「思い通りにできないこと(思い通りにしたいこと)」は何かと聞かれて、書くことができたという事実は変わりません。
そのことだけを素直に受け止めましょう。

実感できなかったとしても、あなたには「こうしたい」「こうなりたい」という希望・願望があるのです。それが、未来を明るく変える力になります。

自分の問題と相手の問題を線引きする

次の質問は、

③この心理ワークの中で解決したい自分の問題は何でしょう?

というものです。

この3つ目の問いの一番のポイントは、「自分の」というところです。あなたが今、抱え込んでいる悩みは、本当に自分の問題でしょうか?

たとえば、職場でいつも機嫌が悪く、すぐに怒り出す上司に悩んでいたとします。
では、怒りっぽい性格をどうにかしなくてはいけないのは、だれでしょう。あなたではありませんよね?「部下にすぐに怒ってしまう」という問題は、上司が解決すべき問題です。
つまり、あなたが悩んだり、どうにかしようと思ったりする必要はないのです。

子どもが勉強をしないことに悩んでいる親御さんも多いでしょうが、これも自分の問題と他者の問題を混同している例の1つ。
勉強しなければ後々困るのは子どもですし、親が代わりに勉強してあげることもできないのですから、「子どもが勉強しないこと」は、子ども自身の問題なのです。

自分の問題と他者の問題を区別する必要性は、「自己啓発の父」とも言われる心理学者アルフレッド・アドラーも、「課題の分離」として提唱しています。

アドラーは、何か課題(問題)に直面したとき、まずはそれが自分の課題なのか、他者の課題なのかを考えるべきだと述べています。

課題を分離するとき、基準となるのが、「自分がコントロールできる問題なのか」ということ。

さきほどの例でいうと、上司の怒りっぽい性格をあなたがどうにかすることはできませんし、勉強しない子どもをあなたが無理やり勉強させることもできないでしょう。

自分ではどうにもできない(コントロールできない)問題は、自分の問題ではないのです。

精神科医エリック・バーンはこのように述べています。

「過去と他人は変えられない。しかし、今ここからはじまる未来と自分は変えられる」

他人は変えることもコントロールすることもできません。
つまり、他人の問題を自分が解決することもできません。悩むだけ無駄なので、すぐに手放してしまいましょう。

また、問い③の答えを考えるとき、「解決したいかどうか」という視点も必要です。

たとえば、問題を縦に並べるで例として出した「髪がボサボサで気持ち悪い」というのは、悩みの1つではあるかもしれませんが、後回しにしてもいいことかもしれません。

ちょっと放っておいても困らないなと思える問題は、頭の隅にしまってしまいましょう。また気になったときに、どうするか考えればいいのです。

責任感が強い人、完璧主義の人ほど多くの悩みを抱えがちですが、それは、他者の問題まで自分の問題のように考えてしまうことが原因だったりします。
今悩んでいる問題を改めて、自分の問題と他者の問題という視点で整理してみてください。

改めておうかがいします。「③このワークの中で解決したい自分の問題」は何ですか?

【書き込み欄】


人が最終的に手に入れたいものは「気分」

最後の問い④について説明する前に、「人が本当に望んでいるものは何か?」についてお話ししたいと思います。

あなたの願望、夢は何ですか? 

「お金持ちになりたい」という人もいれば、「結婚したい」という人もいるでしょう。そのほか「出世したい」「海外に住みたい」「○○の資格をとりたい」など、人によってさまざまな願望があります。
 
では、その願望が叶えられれば、あなたは必ず幸せになれるでしょうか? 残念ながらそうとは限りませんよね? 

大金を手に入れられたら、そのときは幸せかもしれませんが、お金がなくなる恐怖で毎日が楽しくなくなる場合もあります。
また、結婚したはいいけれど、夫や妻の浮気や暴力などで不幸になる人もいるでしょう。

また、人の願望は、その人の経験や状況によって変わっていくものです。

仕事にしか興味がなかった人でも、年齢を重ねて、さまざまな人と出会う中で、仕事よりも家庭を大切にしたいと思うようになることだってありますし、その反対だってあるでしょう。
自分の本当の願望は、実はよくわからないものなのです。

ところが、一方で人が最終的に手に入れたいものは、わかっています。
それは何かというと、「気分」です。

「お金持ちになりたい」「結婚したい」のは、幸せな気分、うれしい気分、楽しい気分、充実した気分など「いい気分」になりたいからです。

「〜になりたい」「〜したい」というのはあくまでも手段であって、その手段を使って、心地よい気分を手に入れたいのが人間なのです。
 

それは日常生活での行動を振り返ってみてもよくわかります。
たとえば入浴や掃除、洗濯といった日々の習慣は、「気持ちいい」「スッキリする」など「いい気分」になれるから続けられるという側面もあるはずです。
また、お酒を飲んだり、おしゃれをしたり、テレビをみたりするのも「いい気分」を得るためでしょう。

いい気分を得るために、人は行動するのです。

「気分」を先取りする方法

「いい気分」は行動しなければ(願望を叶えなければ)手に入らないかというと、そうではありません。
実は、気分は先取りできます。

自分の願望が叶った姿を思い描くだけでも、「いい気分」を味わうことは可能です。
最後の質問「④このワークの後で、あなたはどうなっていますか?」は、そのためのものです。

今抱えている問題が解決した後、1~3年後くらいを想定して、あなたはどうなっているか、どんなことをしているかを書いてみてください。

そのとき、「幸せになっている」「年収1000万円稼いでいる」など、「~している」 「~になっている」という表現で書くようにしましょう。

これは、コーチングなどに使われる手法のひとつ「アファメーション(肯定的自己暗示)」を利用した方法です。
「~したい」という願望を「~している」と断定することで、潜在意識に働きかけ、ポジティブな感情や行動を促します。

ただ、まだわからない未来のことを「~している」「~になっている」と断言することに違和感を感じる人も多いでしょう。
とくに今大きな悩みを抱えて苦しい人が、何もかもうまくいっている未来を確信するのは難しいはずです。

心の底では「自分が幸せになれるはずない」と思っているのに、「幸せになっている!」と思い込もうとしても、いい気分になれるはずがありません。

そういう場合は、「かもの法則」を利用しましょう。
「かもの法則」は、日本におけるイメージトレーニング研究・指導のパイオニアで、2008年北京オリンピックで女子ソフトボール日本代表を金メダルに導いた西田文郎さんが提唱している心理メソッドです。

西田さんは、「人があきらめるのは、『失敗するかも』『ダメかも』とネガティブな予想、予感をするからだ」と説いています。そんなとき、「私は成功する!」と思い込もうとしてもうまくはいきません。そういうときは「私は成功するかも」と「かも」をつけてみます。

それでも違和感がある人は「もしかしたら、私は成功するかも」と、さらに頭に「もしかしたら」をつけてみましょう。
これなら、悪い予感をいい予感に切り替えられるはずです。

マイナスな「かも」によってネガティブになってしまった感情は、プラスの「かも」を使うことでポジティブへと近づけることができます。

もちろん「~している」と断言しても、すんなり受け入れられるという人は、「もしかしたら~かも」をつける必要はありません。

自分が素直に受け止められる表現で、ちょっと先の幸せな自分の姿を書き出します。その姿をありありとイメージし、「いい気分」を先取りしましょう。
すると、自然と、自分を変えよう、行動しようというポジティブな感情もわいてくるのです。

質問④ 
このワークの後で、あなたはどうなっていますか?
(「~している」「~しているかも」「もしかしたら~しているかも」という表現にする)

【記入例】
・幸せになっている。
・年収1000万稼いでいるかも。
・もしかしたらオリンピックに出ているかも。

【書き込み欄】


脳を不快から快へ

人の感情は、いつも揺れ動いています。「楽しい」「おもしろい」というポジティブな感情のときもあれば、「苦しい」「つらい」というネガティブな感情に襲われるときもあるのが人間です。

さきほどご紹介した西田文郎さんは、『一瞬で人生が変わる恩返しの法則』(SBクリエイティブ)で次のようなことを述べています。

「人の心は、喜びと悲しみ、快・不快、ポジティブとネガティブ、楽しさと苦しさという2つの感情の間を振り子のように揺れ動いている。そして、心の振り子のバランスをとりながら感情をコントロールしている」

「人間の『感情脳(大脳辺縁系)』は揺れ動いていて、楽しいことやうれしいことが起こると『快』になり、苦しいことや嫌なことが起こると『不快』になる」

そして、このような感情の動きを西田さんは「振り子の法則」と名づけています。

「不快」な感情はないほうがいいと思われがちですが、人間の感情は、振り子が揺れるように、快になったり、不快になったりするほうが正常なのです。

大切なのはマイナスな出来事があったときに、そのままにしておかないこと。不快な感情が続くと、心も体もどんどん疲弊していって、感情の振り子は、不快のほうへ偏ってしまいます。
苦しい、つらいという状態が続いてしまうのです。

問い④の質問で「いい気分」を先取りしても、また嫌なことがあればすぐに感情の振り子は不快のほうに触れて、気分も落ち込みます。

そういうとき、感情の振り子を再び、快のほうへ近づけるのに役立つのが「見える化」です。

これはスポーツ選手などもよく行っているイメージトレーニングの方法で、たとえば、憧れの選手の写真や目標タイムを書いた紙などを見えるところに貼って、自分の願望を「見える化」します。

これにより、常に理想の自分や記録を達成した自分をイメージしやすくなり、やる気や自信を高める効果があります。

同じように、「幸せになっている」「年収1000万円稼いでいるかも」など、問い④の答えを別の紙に書き出して、目につくところに貼っておくと、見るたびに自分の理想の姿がイメージでき、そのたびに、感情を不快から快へ近づけられます。
いい気分を取り戻すのに役立つのです。

ダイエットしたい人は、理想の体型をしたモデルの写真や、やせたら着てみたい洋服の写真などを貼っておく。

お金持ちになりたいなら1万円札やお金の束が積み重なっている写真を貼っておくといった方法も効果があります。

気分の先取りをして、ネガティブな気持ちをポジティブに近づけられれば、それが新たな行動につながります。

行動を起こせば、必ず変化は起こるものですから、それが成功体験となり、また新たな行動につながって・・・・・といいサイクルが生まれていきます。

「心のストレッチルーム」
前田 泰章

書き出し療法PDF


[参考文献]
西田文郎『一瞬で人生が変わる恩返しの法則』SBクリエイティブ
矢野惣一『癒されながら夢が叶う!問題解決セラピー』総合法令出版
前田泰章『「なんとなく生きづらい」がフッとなくなるノート』クロスメディア・パブリッシング

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