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日産リバイバルプランの思い出

コロナですっかりニュース性が薄れてしまいましたが、昨年の今頃は楽器ケースに隠れてレバノンに逃亡した日産のゴーン前会長の話題で持ち切りでした。その華麗な経歴からは想像も出来ないコソコソした泥臭い逃亡手法で、散々笑いものにされたのは記憶に新しいところです(面白すぎて「箱隠れゴン蔵」Tシャツを思わず買ってしまいました)。今ではただの犯罪者になってしまったゴーンさんですが、少なくとも日本に来た当初は日産を救う経営者として、一躍時の人となっていたわけです。その頃のヒット曲「明日があるさ」(ウルフルズ)の“新しい上司はフランス人”という歌詞を覚えておられる方も多いと思います。

当時私は今の会社を立ち上げたばかりでしたが、縁あってゴーンさんが進めていた「日産リバイバルプラン」の一翼を担うことになりました。プロジェクト内容の詳細はここではお伝え出来ないのですが、当時ものすごく印象に残ったことがあります。

プロジェクトがスタートした初日のことでした。会議室に30名以上の日産の方が陣取り、私達コンサルタントチームのプレゼン内容を聞いていました。ゴーンさんの右腕という触れ込みのフランス人常務を筆頭に、関連部署の方々が勢ぞろい。20代の若手の方から50代の本部長クラスまで、全員厳しい表情で私達の話を聞いていました。その常務さんが日本語を解さないということで、発表や質疑応答はすべて英語で行いました。

私達のプレゼンが終わったあと、英語の得意な若手の方を中心に質疑応答が始まったのですが、大半の日産メンバーの方は難しい顔をして腕組みをしているか、隣の人とひそひそ話をするだけで一向に参加する姿勢を見せません。英語が話せないのだろうなと見当をつけていたのですが、なんせ立場もある方々なので私達もどう扱って良いやら困ってしまいました。

驚いたのは、二回目のミーティング時です。前回大勢いたはずの参加者がいきなり半分くらいになっており、会議室が広く感じられるほどになっていました。プロジェクト自体は淡々と進行していたので問題なかったのですが、参加しなくなったメンバーがたくさんいることに私達も不安を感じるほどでした。

三回目のミーティング時には参加者はさらに半分以下、常務を含めわずか数名になっていたのです。さすがに気になって、残っていた日産側の参加者の方(英語が出来る若手の方)にミーティング終了後、参加されなくなった方々はどうしたのか聞いてみました。すると「ああ、彼らはプロジェクトに貢献出来ない人達ということで、常務直々の指示で部署を外されました」と言うのです。ここまでやるのか、と正直驚きましたが、「なるほど、これが噂に聞いたゴーン流か。日本企業と違って恐ろしくダイレクトかつ決断が速いんだな」と非常に印象深く感じたことを覚えています。

ゴーンさんのやったことには今日になって色々とケチがつけられ、功罪相半ばというよりは罪の方が大きく取り上げられていますが、少なくとも古色蒼然たる化石のような“伝統的日本企業”だった日産を一時期とはいえ国際競争力のある企業に変身させた功績は評価に値すると思うのです。その一環として、それまでの役職や業績に関係なく改革に貢献するつもりがあるのかどうか、新しいプロジェクトに貢献できるのかどうかを素早く判断し即断即決、いわゆる「偉い人」がどんどんポジションを追われ、意欲のある若手が引き上げられたことは間違いないと思います。その過程で既得権益を失った守旧派の人たちは、きっと今頃留飲を下げているのだと思いますが。

多くの伝統的日本企業、特に超大手企業のお手伝いをしてきましたが、残念ながら今日でも前述したような「会議で腕組みしてしかめっ面しているだけの人」が一部見受けられます。自ら意見を言うことは無く、若手の意見にダメ出しをすることは大得意。何かを推進するための意見ではなく、出来ない理由、難しい理由を説明してアイディアを否定する。こんなタイプの幹部がまだまだ多く存在し、日本企業の生産性、ダイナミックな動きを邪魔していると感じます。こういった上司がいたら、若手社員のやる気が出るはずがありません。

ちょうど私達の世代、いわゆるバブル世代は人数も多く、まだ日本企業特に大企業に多く残っています。年齢で言うと50代半ばから後半にあたり、役員クラスに上り詰めているごく一部の人を除くとそろそろ役職定年や出向などに直面している人が多い世代です。自分自身でも思いますが、どうしてもこのくらいの年齢になると若手の考えや意見に対し、まず批判的な発想が出てきてしまい否定しがちです。経験を積んでいる分、失敗するリスクや障壁の方が先に気になってしまうのは、同じ年代の方ならご理解頂けると思います。しかしこういった発想の癖こそが、企業のエネルギーやダイナミズムを削いでいるのも事実です。

日産はその後おかしな方向に進んでしまいましたが、少なくとも一時期は活性化しました。日産のような外圧にさらされなくとも内部の自浄作用で、守旧派ではなく改革意欲に富んだ人材が力を発揮できるよう、組織を改革していくことが重要です。さもなければ、いつ何時また「箱隠れゴン蔵」みたいな人がやってきて、否応なしに組織をズタズタにされてしまうかもしれないのです。

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