見出し画像

【シナリオ】見えないウイルスに怯え、外に出るのが怖くなった少女の話。


〇それぞれ、電話口での会話。

メグ「それでさ、夏休みはみんなで江ノ島に行くことになったんだ。」
ミア「へぇ、いいね。楽しそう。」
メグ「うん!それでさ、髪色も変えようと思って、それに合わせて。」
ミア「いいじゃん。何色?」
メグ「何色がいいかなー。ミアは何色が似合うと思う?」
ミア「えー…今何色なんだっけ?」
メグ「今ねー…アハハ、結構色落ちしちゃってただの金(笑)元は赤っぽいの入れてたんだけどさー。」
ミア「赤かー。見たかったな。」
メグ「あれ、写真送ったじゃん!」
ミア「あ、そうだっけ、見たっけ。」
メグ「そうだよー。」
ミア「んー、じゃあ今度は、紫とかどう?インナー紫とか多分似合うと思うよ、メグ」
メグ「紫!いいね。濃いの?薄いの?」
ミア「濃いの。メグは濃いのが似合うよ。」
メグ「そっかー。ありがとう。また写真送るよ、染めたら。」
ミア「うん。…外、暑い?」
メグ「暑い〜。…あれ、よく外にいるってわかったね。」
ミア「凄いよ?蝉の声。」
メグ「マジか、聞こえるんだ。めっちゃ元気だよね。」
ミア「熱中症にならないようにね。」
メグ「大丈夫。ありがとう。」

メグ「…ミア。」
ミア「ん?」
メグ「…最近ね、自炊始めたんだ。」
ミア「え、すごいね!!」
メグ「そう、肉じゃがとかね、作れるようになった。」
ミア「肉じゃがって意外と難しいんでしょ?」
メグ「まぁ。でも好きだから。ミアも好きって言ってたよね?」
ミア「うん好き!最近食べてないけど。」
メグ「…じゃあ、今度作り行ってもいいかな?」
ミア「え?」
メグ「美味しい肉じゃが!ミアの家に作りに行きたい。」
ミア「…」
メグ「…ダメかな?」

沈黙。

メグ「全然、部屋から出てこなくてもいいよ。そう、キッチン。キッチンさえ使わせてくれれば、私勝手に作るし。それもダメなら、作って持ってくし!」
ミア「…。」
メグ「…やっぱダメかな。…ミアに美味しい物食べて欲しくて。」
ミア「…ありがとう、いつも。」
メグ「ううん。ごめん、こんなこと言って欲しくないって分かってたんだけど。」
ミア「そうだろうなって思った。気を使わせちゃってごめんね、いつも。」
メグ「そんなことないよ。」

メグ「マスクもちゃんとするし、したままにするし、消毒もちゃんとする。キッチン使ったら、ちゃんと消毒してから帰る。頭に三角巾もするよ。」
ミア「…。」
メグ「ミアが不安に思うこと、何もしないから。」
ミア「…ありがとう、メグ。」

ミア「ごめんね。」
メグ「…ううん。こっちこそごめんね。」
ミア「…言っていいかな。」
メグ「ん?」
ミア「弱いこと、言うよ。」

電話越しのミアの声が、震えているのがわかる。

メグ「うん。」
ミア「…(鼻をすすり、呼吸が荒い)」
メグ「…。」
ミア「…外に出たい。」
メグ「…うん。」
ミア「…怖い。」
メグ「うん。」
ミア「また、誰かから菌をもらって、それを…それを誰かに移して…また誰かを…怖い…。」
メグ「うん。怖いよね。」
ミア「ごめんね、ごめんなさい。」
メグ「大丈夫。怖いのはミアだけじゃないよ。」
ミア「私、わたし…メグ、会いたい…。」

啜り泣くミアの音。

メグ「うん。私はいつでもいいからね。」
ミア「ごめんなさい…」

メグ、手に持っていた紙袋を、目の前の家の、ドアノブにかける。

メグ「後で玄関出てみて。」
ミア「え?」
メグ「触れなかったら、そのままにしておいて。そしたら明日の朝、また取りに来るから。」
ミア「…何?」
メグ「…じゃあ今日は切るわ。」

メグ、その家を見上げる。

メグ「また明日の同じ時間ね。」
ミア「今そこにいるの?」
メグ「…残念、さっきまでね。」
ミア「そんな…ごめん。」
メグ「勝手に来ただけだよ。安心して。どこにも触れてないから、ドアノブにも。」
ミア「…ありがとう。」
メグ「…じゃあね。」
ミア「待って。」

階段を掛け降り、靴を履く音がする。
メグ、行動を察し、急いで死角に隠れる。
ミア、ゆっくり、恐る恐るドアを開け、外側にかかっていた紙袋を見る。

メグ「(笑いながら)何、今見に来たの?」
ミア「肉じゃが?」
メグ「うん。作りたてはまた今度ね。食べられそうだったら、チンして食べて。」
ミア「…ありがとう。ほんとうに。」
メグ「…じゃあね。」
ミア「うん。」

2人、電話を切る。
メグ、ミアに見えないように、様子を見る。

ミア、紙袋の中を見つめ続け、ただただ涙を流す。
つけていたマスクは濡れ、つけていたメガネのレンズは視界を悪くした。
だけどただ、涙を流し続ける。その涙は拭かない。

その後、家の中に入り、そっとドアを閉める。
紙袋には、触れないままで。

ミア、笑う。乾いた笑い。
そしてどんどん、涙が出てくる。
そのまま立ち上がり、玄関の方へ。
残された紙袋を取り、抱きしめ、その場にしゃがみ込む。

ドア越しに泣く2人。
啜り泣くから、自分の泣き声しか聞こえない。


おしまい

この記事が参加している募集

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?