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三島由紀夫論2.0

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#谷崎潤一郎

近代文学2.0の中間報告

近代文学2.0の中間報告

読んでる人いる?

 一応そろそろこれまでやってきたこと、これからやることを整理しておきたいと思います。

 この記事で述べたように近代文学2.0では「丁寧に読む」という信条によってこれまで、

・谷崎潤一郎の初期作品が極めて政治的なもの、体制批判的なものであり、ドミナとは捏造されるものであること
・夏目漱石作品もまた明治政府・明治天皇制に批判的であり、その粗筋がほぼ読み誤られたまま多くの人々に論

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三島由紀夫の書簡を読む⑩ 仮面は残って首が落ちた

三島由紀夫の書簡を読む⑩ 仮面は残って首が落ちた

天皇制は愚劣だ

 この三島由紀夫の書簡集は宛先のあいうえお順で、時間を何度も行き来するのでめまいがしそうだ。

 高橋清次は大日本雄弁会講談社の「少年倶楽部」の編集者であったようだ。

 この時三島はノンポリ、そしてやせっぽちの「夜の仕度」を書いたばかりの学生であり、この二十代の集いに、ぎりぎり二十代の加藤周一、中村真一郎、福永武彦らが混ざっていたとしたならば、弁舌ではやはりとても歯が立たなかっ

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「ふーん」の近代文学24   谷崎の「ふーん」

「ふーん」の近代文学24 谷崎の「ふーん」

 谷崎の文学世界は不自然だと三島由紀夫は書いている。(『「国を守る」とは何か』)。不自然というのは「時代と歴史の運命から超然としている」からだ。

 そのことは谷崎の初期作品に猛烈な天皇批判を見出してみればさも尤もな話で、正直私自身は、三島由紀夫が絶賛するようには後期作品を素直に読むことができない。谷崎源氏まではいいとして『瘋癲老人日記』となると、片仮名がやかましいというのではなく、わざとらしさが

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「ふーん」の近代文学21  三島由紀夫から見た芥川龍之介②

「ふーん」の近代文学21 三島由紀夫から見た芥川龍之介②

 マジックワード3を使って書きはじめられた『横光利一と川端康成』は、明治以降の作家の「文章」を大別する。やはり三島由紀夫は文体の人なのだ。

 紅葉露伴一葉はどうした?

 それにしてもこの三大別には全く同意できない。意識的にも泉鏡花は尾崎紅葉に連なるだろうし、そこに樋口一葉が這入れば芥川と泉鏡花は同じグループには入るまい。泉鏡花につらなるのは谷崎潤一郎だろう。

 また堀辰雄を芥川から引き離すの

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「ふーん」の近代文学⑱ 谷崎潤一郎なんか誰も読まない?

「ふーん」の近代文学⑱ 谷崎潤一郎なんか誰も読まない?

 先に余談。三島由紀夫は谷崎潤一郎の『刺青』に関して何度か書いていて、『決定版 三島由紀夫全集 27巻』でも『「刺青」と「少年」のこと』『谷崎潤一郎』『谷崎潤一郎「刺青」について』と三度も『刺青』に関して言及している。

 そしてそこから読み取れることは、

・『誕生』より『刺青』の方が早く書かれており、本当の意味の処女作だと見做していること
・『刺青』の「紂王の寵妃、末喜」には気が付いていないこ

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三島由紀夫と谷崎潤一郎① あるいは『蘿洞先生』を読む

三島由紀夫と谷崎潤一郎① あるいは『蘿洞先生』を読む

 久しぶりに三島由紀夫が掲示板で話題にされていたのでちらりと覗いてみると、やはり酷い有様でうんざりした。テレビなどではもう少し真面に取り扱われることが多いが、やはり一般のネットユーザーからしてみれば、三島由紀夫は無計画なゲイのテロリストでしかないようだ。無論三島由紀夫もほかの文学者同様真面ではないことは間違いない。

 しかしまず「右翼」というのはシンプルな間違いである。三島の最期は「右翼たちに目

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谷崎潤一郎の『鶴唳』を読む 後で何とでも言い訳ができる

谷崎潤一郎の『鶴唳』を読む 後で何とでも言い訳ができる

 私がこのnoteの読者は谷崎君一人ではないかと疑うことを、根拠のない悪ふざけだと決めつけたい人もいるかもしれないが、どうもそれは事実らしい。私が「舌打ちの流儀」を書いたのを読んで、谷崎君はこんなことを書いてきた。

 つまり舌打ちとは本来無意識のものであろうはずがなく、意図してそう発しているのだと、そう谷崎君は云いたいわけだ。そして私が谷崎の日本批判に関心があり、『蘇東坡』でその尖った支那趣味に

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谷崎潤一郎の『不幸な母の話』を読む (/ω\)イヤンな母親

谷崎潤一郎の『不幸な母の話』を読む (/ω\)イヤンな母親

 こんなことを私が書くまでもないが、村上春樹さんという人はとても常識的で優しい人で、真面目、作家としては珍しく、「真面ではないところ」の少ない人だと思う。そのことはエッセイ等を読めばわかると思うのだが、その一方で、極めて真っ当なテーゼと、極めて過剰な感受性の持ち主であることはあまり言われない。
 まず極めて真っ当なテーゼというのは『中国行きのスロウ・ボート』あたりから明確にみられ、また『本当の戦争

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作家にとって思想とは何か①

作家にとって思想とは何か①

 この二週間ばかり、考え続けていることがある。まずは何の先入観も持たないで、このツイートを眺めて欲しい。

どうして萩の月は食べるとなくなってしまうのか

 ……なるほど。「どうして萩の月は食べるとなくなってしまうのか?」この問題は「食べたから」という以上の答えを持ちうるだろうか。寧ろこの人は萩の月のおいしさ、もっと食べたいという感情、そういうものを表現しているのであって「どうして萩の月は食べると

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シンプルな読みに向けて

シンプルな読みに向けて

 これまで私は夏目漱石から谷崎潤一郎までのいくつかの作品について、何か書いてきた。それを「新解釈とは言えないまでも私なりの感想のようなものをまとめてみました」とでも書いてしまえばいささかでもお行儀が良かろうものを、私は「宇宙で初めての新解釈です」と云わんばかりに書いてきた。これはどう考えても私なりの感想のようなものではない。現に、『途上』のからくりにさえ、誰一人気が付いていなかったのではないか? 

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