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2023年11月の記事一覧
木石のここだかずそふ夜寒かな 芥川龍之介の俳句をどう読むか102
この頃の句
春雨の中やいづこの山の雪
おらが家の花も咲いたる番茶かな
[大正十三年二月二十七日 小穴隆一宛]
蛇笏に
春雨の中や雪おく甲斐の山
南京城中五分の三は麦隴なり
市中の穂麦も赤み行春ぞ
夜宿清光寺
木石の軒ばに迫る夜寒かな
小閑を得たり
おらが家の花も咲いたる番茶かな
[大正十三年三月十二日 滝井孝作宛]
龍門
荘厳の梁
芥川龍之介 和歌 大正十二年 和歌四首
君がたびし菓子やくひけむ吾子の口赤き涎を垂らしてゐたり
[大正十二年十二月十八日 室生犀星宛]
たてまつるこれの袴は木綿ゆゑ絹の着ものもつけたまひそね
[大正十二年十二月三十一日 下島勲宛]
ただに見てすぎむ巌ホぞ雲林の弟子とならむは転生ののち
のみ執るはあなむづかしと麦うるしここだもここだも使ふ指物師われは
天マぎらひふるアメリカにわがあらば牛飼ひぬべしひぬべしジエルシイの牛を
唐
御所解にうもる菫も凍りけり 芥川龍之介の俳句をどう読むか101
竹垂るる窓の穴べに君ならぬ菊池ひろしを見たるわびしさ
遠つ峯にかがよふ雪の幽かにも命を守ると君につげなむ
秋たくる庭にたかむら置く霜の音の幽けさ君知らざらむ
詩の御返事
露芝にまじる菫の凍りけり
震災後に芝山内をすぎ
松風をうつつに聞くよ古袷
久しぶりに姪に会ひ
かへり見る頬の肥りよ杏いろ
[大正十二年十二月十六日 室生犀星宛]
露芝にまじる菫の凍りけり
この句は
柿十一十一ほどの豊かさよ 芥川龍之介の俳句をどう読むか100
即笑
草の家に柿十一のゆたかさよ
[大正十二年十一月二日 下島勲宛]
柿が赤くて住めば住まれる家の木として 山頭火
草の家に柿をおくべき所なし緣に盛りあげて明るく思ほゆ
なぜ十一なのか考えてみる。柿十一個は多い。
柿ひとつ木守残る秋の善
一つはわびしい。
柿ひとつ袖からこかすきぬた哉
柿ひとつ買つて向ふや登り坂
柿二つは正岡子規の意味になる。
このはやり歌を
林檎とは詠めぬところが我鬼先生 芥川龍之介の俳句をどう読むか99
久しぶりに姪を見て
かへり見る頬の肥りよ杏いろ
[大正十二年十二月一日 飯田武治宛]
さまーずの三村が永野芽郁に対して「(おじさんが)二十歳に恋したっていいじゃない」と云っても特段いやな感じはしないが、島崎藤村が姪と関係を持ったことは何とも何ともな感じがする逸話である。
人が誰を好きになるのも勝手だが、それぞれの文明において一定のタブーというものが設けられていて、例えば姪は異性として
ほかほかの久米は艶子とちぎりけり 芥川龍之介の俳句をどう読むか98
夜寒さを知らぬ夫婦と別れけり
[大正十二年十一月十七日 久米正雄宛]
ようするにほかほかということだ。割と遅めの結婚なのでそれはもうほかほかしていたことであろう。
以上。
はい。次。
芥川龍之介 「わたしは詩人ぢやありません」
あなたの捉へ得たものをはなさずに、そのまゝずんずんお進みなさい(但しわたしは詩人ぢやありません。又詩のわからぬ人間たることを公言してゐるものであります。ですからですからわたしの言を信用しろとは云ひません信信用するしないはあなたの自由です)
[大正十二年十月十八日 堀辰雄宛]
なんだか漱石の受け売りで先生になっているようでもあり、後にあれだけ自分が詩人であることにこだわった芥川が、ここであっさ
永き日を壺滑らかに意趣被り 芥川龍之介の俳句をどう読むか97
温泉(デユ)の壺底なめらかに日永かな
[大正十二年三月二十五日 室生犀星宛]
永き日を呑んでは漬かる温泉壺かな
おやおやおや。
おやおやおやおや。
まあたまたまだろうが、誰かかまってやろうよ。
松風や赤ちょうちんでおでんかな 芥川龍之介の俳句をどう読むか95
原始仏教思想論に註がついて未詳とある。
これか。
とつ国に「四月の莫迦」と云ふならひありてふことを君は知らずや
かぎろひの春の四月のついたちにわが書きし文まことと思ひそ
谷川に佐佐木も落ちず我も亦佐佐木を負ひてかへりしことなし
[大正十二年四月十四日 南部修太郎宛]
松風や紅提灯も秋どなり
[大正十二年八月九日 下島勲宛]
またやらかしていますね。
これ大正七年の句です。
ふたばよりあぶらぎりたる菜種かな 芥川龍之介の俳句をどう読むか94
菜の花は雨によごれぬ育ちかな
[大正十二年四月十三日 下島勲宛]
この句も地球人全体から「ふーん」されているようだ。
雨に濡れない花はあるまい。
方百歩菜の花雨に白みけり
そして土ぼこりをかぶらない花もあるまい。
菜の花や重たき足の土埃
しかし油気の強い菜の花は雨をはじき凛と咲くか。
雨に暮るゝ日を菜の花の盛かな
菜の花は雨によごれぬ育ちかな
さてさてこの句の味わいは
小笹刈る深山のふもとの眺めかな 芥川龍之介の俳句をどう読むか93
僕もこの春は病院と警視庁と監獄との間を往来して暮らした
[大正十二年一月二十二日 松岡譲宛]
この年なにがあったんだっけ?
一 好 数学、博物、物理、漢文
二 悪 国語、化学(全然実験をせざりし故也)
三 支那文学か英文学の学者になるつもりなりき
四 十中八九、友人に創作家ありし悪影響による
[大正十二年二月六日 成城中学校学友会文芸部宛]
アガ歌ヲヨシト見ルキミ口ヒビクカミラモハシト
べつやうに眼置いたりみの蒲団 芥川龍之介の俳句をどう読むか92
森さんの歌は下手ですね僕の方がうまいでせうすなはち
秋ふくる昼ほのぼのと朝顔は花ひらき居り呉竹のうらに
[大正十一年十二月二十九日 香取秀真宛]
御一笑下さい、とある。これを笑ってあげなくてどうする。
なんと誰も笑っていない。季節外れの寝坊助の朝顔を皆無視する。
山々を枕にしきぬみの蒲団
[大正十二年一月六日 小穴隆一宛]
不二山を枕になしてねころべは足は堅田のうちにこそあれ
凩やうんこが出れば大丈夫 芥川龍之介の俳句をどう読むか91
凩や薬のみたる腹工合
[大正十一年十二月十七日 真野友彦宛]
即興とある。どういうわけか俳句一覧から漏れているように思われる。この時芥川は「神経衰弱、胃痙攣、腸カタル、ピリン疹、心悸昂進」と自分の症状を報告している。凩云々の句ではない。
こんなものはただくっつけただけだ。
小春日やドングリひらう老婆かな
さっきそんなものを見た。小春日だからドングリを拾わなくてはならないわけではない