芥川龍之介 「わたしは詩人ぢやありません」
あなたの捉へ得たものをはなさずに、そのまゝずんずんお進みなさい(但しわたしは詩人ぢやありません。又詩のわからぬ人間たることを公言してゐるものであります。ですからですからわたしの言を信用しろとは云ひません信信用するしないはあなたの自由です)
[大正十二年十月十八日 堀辰雄宛]
なんだか漱石の受け売りで先生になっているようでもあり、後にあれだけ自分が詩人であることにこだわった芥川が、ここであっさり「わたしは詩人ぢやありません」と云っていることは興味深い。
しかしここまで芥川の詩歌を見てきて思うのは、まあ、詩人なんじゃないかなということ。
芥川は下手な謙遜はしない男なので、ここはどうも信念が揺らいでいるところかなと思う。いわゆる新体詩なるものにはこれというものが見られないばかりか、かなりへたくそな感じはあるが、俳句はなかなかにこなれていて、和歌のほうもそれなりだ。
これで「わたしは詩人ぢやありません」とはなかなか受け入れがたいところである。
これは時期的な問題もあるかもしれない。
大正十二年には、句も和歌もかなり少なくなっているように思える。
しかし芥川が、わたしはすけこましぢやありません、と言って信じる人はあるまい。
芥川はすけこましの詩人である。
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