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1000万部売れたアフリカの小説『崩れゆく絆』

こんにちわ。今日は小説のお話です。

みなさん、アフリカの文学ってどう思いますか?あまりピンとこない気がします。

日々生きていくのが精いっぱい。そんな環境で文学どころじゃないでしょ、って思うかもしれません。

でも、アフリカ文学素晴らしいんです。

そこで、チヌア・アチュベによる「崩れゆく絆」 です。出版社の紹介文です。

古くからの呪術や慣習が根づく大地で、黙々と畑を耕し、獰猛に戦い、一代で名声と財産を築いた男オコンクウォ。しかし彼の誇りと、村の人々の生活を蝕み始めたのは、凶作でも戦争でもなく、新しい宗教の形で忍び寄る欧州の植民地支配だった。「アフリカ文学の父」の最高傑作。

アフリカが400年間味わってきた苦悩の重さを、360ページの一冊に凝縮させたような小説です。ほぼ1ページ1年です。

ネタバレしない程度に、ざっくり要約します。

一人前の男性として立派な所帯を持つ主人公オコンクウォだが、村の掟を破って亡命することになる。
戻ってきた頃には、白人のキリスト教徒が力と金によって部族を懐柔していた。オコンクウォの息子もキリスト教の教えに惹かれていく。
以降、事態はますます切迫しオコンクウォを含む村の指導者たちは、遂に村をあげて白人傀儡政府に蜂起するかどうかの幹部会議を開く。

部族共同体、マチズモと掟、植民地主義、キリスト教、白人、女性とマイノリティ、こういった事柄が、あたかも実在した話かのように巧みに織り込まれて、1ページも冗長だな、退屈だな、と思う所がありません。

日本でも戦国時代、スペインの白人が銃を売りキリスト教を布教をする一方で、日本人を海外へ奴隷として売っていました。

でも、この本は白人キリスト教社会を批判、指弾するだけの本ではありません。村の伝統の理不尽さや、キリスト教の弱者に対する博愛精神も描かれ、そういった一面的な見方を排しています。

その意味でも、戦後特に影響を受けたキリスト教文化の功罪とどう向き合うかは、私たちの問題でもあります。

小説は最後、悲劇的な終わり方をします。ここから伝わってくるアフリカ社会のヒリヒリした緊張は、たやすく消化できません。恨みと許し、この両極で宙づり状態にあるアフリカという「状況」を伝える書です。

小難しいことを言っていますが、平易な文章でポンポンと早いテンポで展開します。だから、次がどうなるんだろうと生唾を飲み込むようなスリルに満ち溢れているんです。

アフリカ文学の父

実はこの作家、ノーベル文学賞の候補になっています。この本は世界で1000万部以上売れ、50以上の言語に翻訳されています。

アフリカ文学における彼の位置は、映画でいえばチャップリンみたいな、そのくらいの人です。そう、「アフリカ文学の父」なのです。

この人、作家になる前はイギリスのBBCで働いていました。この本も英語で書いているんですね。だから先進国の文化を知り尽くしていたわけです。どういったアプローチなら世界にアフリカの声を届けることができるか、考え抜いた末にこの小説を書いたんだと思います。

日本人にとって盲点なのですが、アフリカってものすごく欧州に近いです。マドリードからセネガルなんてのは、東京から台湾くらいです。うまくやれば弾丸で日帰りもできる。

だから、アフリカ自体は貧しくても、欧州に移民したり出稼ぎで働いているアフリカ人の中には、アチュベのように欧州人に引けを取らないくらいの教養人がいるんですね。

最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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