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ケリー・ライカート『ライフ・ゴーズ・オン 彼女たちの選択』さようなら、ジョナサン・レイモンド…

『Old Joy』以降のキャリアの中で、現時点で唯一ジョナサン・レイモンドが脚本に関わらなかった作品であり、そのせいなのか馴染みのオレゴンからモンタナへと舞台を移す。その旅立ちがどれほど効果的だったかは分からないが、タル・ベーラとクラスナホルカイ・ラースロー、テオ・アンゲロプロスとトニーノ・グエッラのような息の合った監督/脚本家コンビを解散する意味もなく、豪華なキャストによるアンサンブルと有機的に結合しない中編の寄せ集めという二つの地雷を同時に踏んでしまった作品になってしまった。

第一部はローラ・ダーン演じる弁護士が主人公になる。彼女は判決に不満を持った顧客を抱えているが、彼女の言うことを長らく聴いてくれない。ここに『Meek's Cutoff』のような女性蔑視への反抗というテーマは連続しているが、正直それだけという感じ。冒頭の寝室に登場した鏡に偶然写ったかのような彼女と、続く事務所で扉が偶然彼女を隠すようなシーンが良かった。残りは微妙。

第二部はライヒャルトのミューズだったミシェル・ウィリアムズを主人公に据えた作品。反抗期の娘とそれを甘やかす旦那に囲まれて息苦しい生活を送る妻の話だが、そういうありがちな設定を盛っただけで特に爆発せずに終わってしまう。端々から漂う西部開拓時代の名残香は勿論『Meek's Cutoff』を思い起こさせるが、あっと言う間に終わってしまって消化不良感が残る。同作で帰る家すら失くしてしまったライヒャルトは、彼女に家を作らせることで8年越しの伏線回収を図ったわけだが、なんかキャラゲーのファンムービー的な立ち位置にしか見えなかった。全然上手くない。

第三部はクリステン・スチュワート演じる夜間学校の教師が適当に潜っていた生徒と仲良くなる話である。犬の登場、移動手段としての車と馬、同性同士の友情、雪原と暗闇の対比などキャリア総括的な作品と言える。生徒の日常生活は孤独で物悲しく、ジェームズ・ベニングやピーター・ハットンのような実験作家の撮る風景のようだ(全体的にそうだけど、特にこの一編には強く感じる)。このパートだけは普段のクオリティに達していたように思える。この話ならもうちょっと膨らませて80分くらいの作品になった気もするんだが、レイモンド不在のライヒャルトは正直全然ダメだと思う。

ピーター・ストリックランドのエグみを丁寧に取り除いてくれたA24が彼女を拾ってくれた最新作は、彼女のキャリアをブーストしてくれるのだろうか。再びレイモンドを脚本に迎え、オレゴンに戻ってきた最新作『First Cow』は『Meek's Cutoff』の続きなのだろうか。同作で帰る家を失ったライヒャルトは、未だに帰る家を探しているに違いない。

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・作品データ

原題:Certain Women
上映時間:107分
監督:Kelly Reichardt
公開:2016年1月24日(アメリカ 映画祭)

・評価:50点

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