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ヤンチョー・ミクローシュ『Rome Wants Another Caesar』権力の神話はしづかに継承され…

ヤンチョー・ミクローシュ長編13作目。ヤンチョー・ミクローシュが『Red Psalm』(1972)と『Electra, My Love』(1974)の間に撮った二本のイタリアTV映画の片方。今回はカエサル時代の北アフリア、旧ヌミディア王国の砂漠が舞台である。サハラ地域から地中海沿岸諸国の交易と流通を掌握するために派遣されたティトゥス・セクスティウスは現地に暴政を敷き、現地に暮らすヌミディア人は虐殺され、彼らに同情の意を示したローマ人ですら逮捕されていた。抵抗の意を見せる主人公オッタビオは、反乱に加担してくれるという疑心暗鬼なヌミディア人と少数のローマ人同胞を尻目に、マイノリティがやがて時代の潮流となって強大なカエサルすら脅かす存在となるだろうと予言し、それを行動に移す。そして、剣を持って画面の中を縦横無尽に歩き回り、人々は手を繋いでその周りを歩き回る。なんだ、プスタの緑の大地が砂漠に変わっただけじゃないか。流石に登場する人間の数が少ないので、人海戦術的に画面に情報を詰め込むハンガリーでの作品に比べると控えめだが、主張としては海外製作ということでストレートさを増している(イタリアなので全裸女性は登場しない)。個人的には景色と手法が先に決まっていて、それに合いそうな物語を探してきてるでしょうとしか思えないが。

しかし、そういった反乱や団結を促すだけの反政権プロパガンダに終わらないのがヤンチョーである。物語の途中でカエサルの死の報が齎され、人々は解放される。しかし、本来の目的であるはずの"権力という神話の破壊"は成し遂げられないどころか、カエサル以外の誰かが権力を持つことでそっくりそのまま継承されていくのである。そして、その"誰か"とは、我々と共に戦ったはずのオッタビオ、基オクタウィアヌスなのである。そしてここで題名に戻ってくる。"ローマは次のカエサルを欲している"。

今回は一面黄土色の長回しで、政治的な会話しかないので、全体的な面白味には欠けている。ウロウロしながら喋ってるおじさんたちをダラダラ撮ってるようにしか見えなかった。ラストで海が出てきたのはハンガリーでは無理なので良かったけど。

・作品データ

原題:Roma rivuole Cesare
上映時間:78分
監督:Jancsó Miklós
製作:1974年(イタリア)

・評価:50点

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