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Vol.23 檜垣万里子さんインタビュー「描こうと思って観察すると見え方が全然違ってくる」【3月30日(木)開催キヅキランドワークショップ開催】

新しい季節、新しい1年が、すぐそこまでやってきています。大人もこどももドキドキワクワク……そんな時こそ、キヅキランドのワークショップでモノの見方をちょっと変えてみませんか。今まで気がつかなかったことに「!」と気が付いたり、今まで当たり前だと思っていたことが「?」と不思議に感じたりするかもしれません。「おや!」「なぜだろう?」をきっかけに、自分らしい考えを膨らませてみましょう! 
春休みの後半、3月30日(木)のワークショップには、プロダクトデザイナーで「#観察スケッチ」に取り組んでいる、檜垣万里子さんがキヅキセンパイとして登場します。「プロダクトデザイナーってなに?」「観察スケッチってなに?」、疑問を持った方はぜひこのインタビューを読んで、檜垣さんの「ものの見方」に触れてみてください。それで興味が深まったら、お子さんと一緒にぜひワークショップにご参加ください!

檜垣万里子さん/プロダクトデザイナー慶應義塾大学環境情報学部卒業後、山中俊治氏が率いるLEADING EDGE DESIGNに参加。インダストリアルデザイン、展覧会、教育のプロジェクトに関わる。のちにArtCenter College of Design(パサデナ、アメリカ)へ留学、2015年プロダクトデザイン学科卒業。現在はフリーのプロダクトデザイナーとして商品やサービスの開発・デザインに関わる一方、慶應SFCで非常勤講師としてデザインを教えている。主な受賞歴に、IDSA金賞、James Dyson Award 国際 TOP20など。著書に『気になるモノを描いて楽しむ 観察スケッチ』(ホビージャパン)。


「なぜそういう形になったのか」ものに込められた意図を想像してみるのが面白い

——檜垣さんは2019年に『気になるモノを描いて楽しむ 観察スケッチ』という本を出されました。これは身の回りのモノをただ使うだけでなく観察して描いてみようという、SNSで広がった取り組みだということで。

檜垣:そうなんです。空間デザイナーのヤマシタマサトシさんがデザインのスキルのトレーニング方法として呼びかけたもので、「#観察スケッチ」というハッシュタグをつけてみんなで自分のスケッチを投稿するというものです。

——檜垣さんの本業である、プロダクトデザインにもこの観察スケッチはとっても関係が深そうですね。


檜垣:そもそも、プロダクトデザインというのは、インダストリアルデザインとか工業デザインとも呼ばれますが、みなさんの身の回りにある工業製品、それらはすべて誰かによってデザインされているものなんですね。見た目とか色とか形はもちろんですが、それだけでなく、実際に人々がどういう商品を必要としているかというところから考えて製品を提案したりします。

——色や形も、その製品の使い勝手や機能を考えた上で、デザインするということですね。

檜垣:そうですね。それで、観察スケッチは、その普段の逆をやるわけです。普段は考えて形を作っていきますが、観察スケッチは形を見てなぜそうなったのかの過程を考える。デザインした人を憑依させるというか、デザイナーの気持ちを想像するんですね。観察すると、「どうしてここに溝があるんだろう」とか「どうしてこっちの表面はザラザラしているのに反対側はツルツルなんだろう」とか普段気づかなかったことを発見します。そしてそれをデザインした人の意図を想像します。いろいろな人の決断がものには詰まっていますから、それを想像するのが、観察スケッチの面白いところです。

——人工物だけでなく、自然物でもそれってできるものでしょうか?

檜垣:はい、できると思います。というのは、たとえばなにかの植物の葉っぱの切り込みがギザギザ深いのにはなにか進化の過程でその形を選んだ理由があるはずですよね。進化の過程で生き残った形や色なわけで、そこには何か理由が背景にある……ということを想像できます。しかも、「なんでだろう?」「変だな?」みたいな不思議は、自然界の方が結構あると思います。

観察してよく見るということは、そこから何か情報を得ようすること

——そうやって観察して想像して描いてみて、そのあとにまた観察に戻ることもありますか?

檜垣:あります。「よし、わかったぞ」と思っていざ描き始めると、全然わかっていない、見れていなかったことに気がつくんです。描きながら「ここ思ってたより細いな」とか「あれこのマークってなんだろう?」とか。

——描き始めると新たにわからないことに気がつく、ということ?

檜垣:そうです、そうです! 大切にしている恩師の言葉で「To Draw is To See」というのがあります。「描くことは見ること」という意味ですが、まさにそれなんです。観察して描いて観察して描いて観察して……の繰り返しなんですね。

——キヅキランドも「動画をよく見る」という行為がスタートです。それで気づいたことを画面に書きこむわけですが、そもそも「見る」ということと、「よく見る・観察する」ということの違いはどういう点にあるとお考えですか?

檜垣:やはり、観察するとかよく見るということは、そこから何か情報を得ようすることだと思うんですね。何かそこから気づきを得ようとして見る、能動的な行為なんじゃないかという気がします。ただ見るというのは視界に入ればなんでも「見る」になるので……「聞く」と「理解する」の違いに近いかもしれません。

——なるほど、ただ聞いていても理解できない。ただ見ていても何も得られない。

檜垣:例えば「駅の改札の絵を描いてください」と言われたら、だいたいの人は多分描けないと思うんですよ。いつも通って目にしているのに、いざ描こうとするとどこに何があったかわからない。人間の「見る」って意外といい加減なんですよね。

——でも、描こうと思って観察したり、何かを見つけようとしてよく見たりすることで見え方が全然違ってくる、ということですね。

檜垣:そうですね。しかも、観察スケッチでいうと、同じものをなんども繰り返して描くことでどんどん上手になるんです。観察する対象物への熟知度が上がってくるからなんですね。

——観察することとそれを手で描いて表現するということって、とても大事な組み合わせなのかもしれないですね。

檜垣:そう思います。キヅキランドも手描きなのがいいなと思っていて。手で描くことでなんというか身体的な体験になるので、気づいたことや疑問に思ったことが身体に染み込むという感じがします。

いろんな人の見方を知るということは自分の引き出しを増やすということ

——檜垣さんが観察するときに心がけていることってなんですか?

檜垣:そうですね、そのもの自体ではなく、それが使われている状況や使い方を意識すること。物と人との関わりを想像することですね。それから、先ほども言いましたが、なんでこうなっているのか、作る過程を想像すること。

——もしそこで、本来の意図とは違うことを想像した場合、「不正解」になってしまうんでしょうか?

檜垣:いえ、観察に不正解はありません。よく私は「読書感想文みたいに捉えてください」と言っているんですが、読書感想文は読んだ人が何を感じたかなので、正解不正解は関係ないと思うんです。それと同じで、ちゃんと観察して「きっとこうなんじゃないか」と導いた想像はOKだと思うんですよね。

——確かにそうですね。ちなみに、以前のキヅキセンパイがインタビューで「誤読が連鎖していくのは面白いし、それなしに新しいものは生まれないと思っていて」と言っていました。キヅキランドでは、みんながどんどん誤読することを推進したいです(笑)。

檜垣:それいい言葉ですね。読書感想文も観察スケッチもキヅキランドも、正解とか不正解とか得点とかを考えず、みんな自由に自分の観察から導いた考えを表現してほしいですね。

——なにかそういうふうに観察を広げていくための「コツ」はありますか?

檜垣:それは、まさにキヅキランドがやっていることなのですが、誰かと一緒に観察することです。やっぱり、自分が見ているものは自分だけの世界なので、違う視点を得るには誰かの視点を経由するのが手っ取り早い。言葉通り「視点が変わる」わけですから。誰かと一緒に観察することで、いろいろな見方を得ることができます。たとえば、以前の観察スケッチのワークショップでは、最初に「コアラのマーチ」を観察する時間を設けたのですが、そうすると各々違うやり方で始まるんです。すぐパッケージを展開する人もいれば食べ始める人もいる。まさにいる人の数だけアプローチがあるんです。

——確かにキヅキランドでは、他のみんなのキヅキを見ることで新しい見方をしてみたり、その人のキヅキに自分のキヅキを重ねたりと、オンラインだけれど誰かと一緒に体験できる感じを大切にしています。そういうのを「他の人のメガネを借りてものを見る」という表現をされたキヅキセンパイもいて

檜垣:いろんな人の見方を知って、真似したりしながら自分の引き出しを増やしていくことができるのって、とっても大事なことだと思うんですよね。それはいろんなやり方、いろんな考え方、究極的にはいろんな生き方があるということを知れるということですから。それを知らないと、なにかうまくいかなかった時にすごく落ち込むし挫折を味わうと思うんですが、いろんな引き出しがあると、自分が思っていた方向に進まなかった時の切り替えがパッと軽やかにできるんじゃないかなって気がします。

——ものを観察していろんな見方があることを知ることは、そういう頭と心の柔軟性にも繋がっていきますね。

檜垣:そう思います。「みんな違ってみんないい」って、年齢を重ねるとやっと体現するような気がするんですけど、学校のような「正解不正解」や「勝ち負け」のリニアな環境にいるとどうしてもそれがわからなくなってしまう。観察スケッチやキヅキランドのような場を通じて、多くの選択肢には正解がないことをこどもたちに体感してもらえるといいなと思います。

Illustration: Haruka Aramaki

ワークショップの詳細、応募はこちらから!

https://kizuki-ws2023spring.peatix.com/

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