司馬遼太郎『幕末』

芸がなくて恐縮ですが、また私が私淑している司馬遼太郎氏の本からの紹介です。

「幕末」という短編集をご紹介します。
氏の小説の中ではかなりマイナーなものになります。主人公もマイナーです。
この本は幕末期に頻発した暗殺を取り上げた連作集です。

その中の「彰義隊胸算用」という短編の一節を紹介します。
新太郎という主人公が、彰義隊結成のための会合に出かけるというシーンです。
彼はそこで天野八郎という彰義隊の首領となる人と再会します。
二年前に、さるところで出会ったことがある、という程度の縁です。

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「天野は微笑して、
『簫玉先生(しょうぎょく、新太郎の雅号)、詩の方はちかごろいかがです』
と、きいた。新太郎の雅号など、親兄弟でも知らないのに、この男は、ちゃんとおぼえていてくれた。
『ちかごろ忙しくて』
『それは惜しい。あの酒席であなたから示された詩句はまだ覚えている。春馬金鞍、酔ヲ扶ケテ帰ル、だったですな』
『はっ』
目のくらむような思いをした。
自分でさえも覚えていない二年前の座興の詩を、この名士はちゃんと記憶しているのである。
瞬間、天野のためには命を捨ててもいいような気がした」
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私はこの一節から、人と人の関係性構築の真髄を感じます。
相手の頭の中にあることを、知って、覚えて、気にかける、ということだと思います。こうやって知己を増やしていくんだと思います。

これさえできれば、他の能力(マネジメントとかリーダーシップとかプレゼンとか財務分析とか)が少々欠けていても、十分に取り返すことができます。
この類のことをしっかりやらんと、成功は覚束ないですわ。


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