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前職場で働いていたとき、唯一連絡先を交換した患者さんがいたのだけど、その方との話をしようと思う。


末期がんの方だった。私が職場を辞めるとき、その方の余命はもう、持って半年と言われていた。だからというわけではないけれど、せっかくここで出会ったのだし、そして私はもう辞めるのだし、患者と看護師ではなく歳の離れた友人として連絡を取るのもありかなぁと思って、連絡先を教えて欲しいとの要求にはいと答えた。


その患者さんは、私が辞めてからすぐに緩和ケア病棟への転院が決まった。退院するときも、新しい病院へ入院したときも、私の元職場だった病院へ再診に行ったときも、いつも連絡をくれた。“いつも、misakiちゃんが頑張っていたことを思い出します。私も頑張るから貴方も新しい場所で頑張ってね” と。


元気だよ、ともいつも言っていたけれど、私にはもうその方が前ほど元気ではないことは分かっていた。自分では歩けなくなり、食事も受け付けなくなり、腹圧もかからなくなる。起き上がることも、何かを口にすることも、排泄することも自分の力ではできなくなる。同じような方を何人も見てきたから、元気だよの言葉を聞くのが本当は苦しかった。

また歩きたいなぁ、リハビリしたら治るかな?そう言っていた姿が思い出される。きっとその言葉の時点でリハビリする体力はもう残っていなかったはず。最後にもう一度、一緒に歩いて桜を見に行きたかったね。


あんなにいつも連絡をくれていたのに、最後のお別れが近くなった時には一切連絡をくれなかった。次に連絡した時には、もう返事は返ってこなかった。

それが最後だとは思わず、でも最後に送られたメッセージには “体調はまあまあって感じですね” と書いてあった。あぁ、本当はもうきっとかなりきつかったんだ。心配させまいと思っていたのだろう。どんな時でも人に気を遣う、優しい人だったことを思い出した。


最後に話したかった。もっと早く連絡しておけば良かった。もう既読は付かないと分かっていても、メッセージを送らずにはいられなかった。

〇〇病院での勤務の中で、そして、私の看護師人生のはじまりのときに、〇〇さんに出会えてよかったです。ゆっくり休んでくださいね。またいつかどこかで、顔は見えないとしてもお会いできることを楽しみにしています。たくさん、ありがとうございました。


出会えて良かった。
本当にありがとうございました。


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