見出し画像

いちごのプリンアラモード

人に恵まれていても、環境に恵まれていても、なんだか全て疲れてしまったと思うときが、誰にでもきっとある。


仲のいい友人とも恋人とも一緒にいたいと思えなかったその日、さっと軽いメイクをしてカフェに出かけた。

車で1時間、好きな曲を流しながら運転をした。予約もしていなかったから入れるか不安だったけれど、30分ほど待っていただければ、ということだったので散歩をしながら席が空くのを待った。


何も考えずにただのんびりと歩いた。雨上がり、たんぽぽの綿毛が萎んで小さくなっていた。もう春か。桜の季節だというのに雨ばかりで、桜はもうほぼ散ってしまっているのが残念だった。お花見、行かずじまいだったな。


そうこうしているうちに電話があり、お席が空きました、とのことだったので踵を返してお店に向かった。


甘いものが食べたかった。
だけどパフェを食べるほどのお腹の余裕はなかったので、いちごのプリンアラモードをチョイス。と、お決まりのブラックコーヒー。甘いものと苦いコーヒーの組み合わせが大好きだ。


待ち時間には益田ミリさんの『最初の、ひとくち』を読んだ。大人になるにつれて、何かを口にして感動する体験というのは少なくなっていくものだ。

思えば、子供時代って「すごいびっくりした!」食べ物によく出会っていた気がする。人生の経験値がまだ低いという理由もあると思うけど、でもそれだけじゃなかった気がする。

益田ミリ 『最初の、ひとくち』


美味しいな、とは思うけれど、あの味と似てるな、と感じるというか。感動の閾値が上がるということもあるのかもしれない。いずれにせよ、少し寂しい。


そこで、だ。この時食べたプリンアラモードは、私が久しぶりに感動するほど美味しかった食べ物だった。たくさんのいちごに、自家製のアイスクリーム。甘さ控えめの生クリームが、いちごの甘味を邪魔することなく引き立てている。

誰かと一緒もいいけれど、たまにはこうやってひとりで美味しいものを食べて、美味しさを噛み締める時間も大切だなぁと思う。

美味しいものを口にした瞬間に湧き上がってくる感情、興奮、感動。そういうものにひとり静かに向き合う時間が私の人生を豊かにしているのかもしれない、と思った瞬間だった。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?