岸辺 純

ラブコメからホラーまで。3000本を超えた映画鑑賞履歴から端的に、どこかで少しだけ話せ…

岸辺 純

ラブコメからホラーまで。3000本を超えた映画鑑賞履歴から端的に、どこかで少しだけ話せるくらいの密度で記します。映画の良さは自由の良さ。観た人ごとに意見や感想や感じ方がある、それこそが映画の真髄だと思っています。お楽しみいただけるとうれしいです。

最近の記事

愛と財布が試される!「マネー・ピット」について

若いカップルが飛びついた激安中古住宅は広くて外見も良好だが、中身がボロボロの不良物件!次々と修繕が必要なお金の落とし穴に転がり落ちる2人の運命や如何に!?なコメディ映画です 水道管よ!おまえもか! 素人がDIYで家全体を修繕しようとするあたりがアメリカっぽいんですが、小さな階段の壊れに始まり、愛しき我が家は床、壁、天井とまさにピタゴラスイッチな予想外の大崩壊をみせます。 水道管よ!おまえもか!と、ローマ皇帝ばりに絶望する若き日のトム・ハンクス。傍で見てる分には、これはキ

    • 遠雷、そして嵐の予感「オーバーフェンス」について

      遠雷が聴こえ、嵐の予感がする映画でした。函館の短い夏、職業訓練校に通う男と水商売の女、もう若くはなく可能性も希望も擦り減った2人が出会う話です。 オダギリジョーと蒼井優の表情たるや 「こっちへ来て」と綱を引いてみせる女のパントマイムが男の乾いた心に雨を落とし、鳥の求愛を真似る女の横顔が凪だった男の感情を波立てるのが見えるようです。 もう、ホントにたまらない表情で、この表情だけのために何度でも観たいと思えます。あらためて、映画の大きな魅力はやっぱり役者さんだなぁと実感する

      • B級映画、どう選ぶ?vol.2 これは”海のゼロ・グラビティ”だ!と声を大にしていいたい「ロスト・バケーション」について

        B級映画の代表格はやっぱりワニとサメ、ということで、サメ物の傑作と思っている映画をご紹介します。刻々と潮が満ちて沈みゆく岩礁、回遊するサメ、浜まで200m、というシチュエーションスリラーです。 これは、海の"ゼロ・グラビティ"だ! 「たかがサメ映画でしょ」と侮るなかれ、これは宇宙空間からの生還を目指すSF映画の傑作、「ゼロ・グラビティ」にも比肩すると思うのです。この映画は、極限状況に置かれたことで生き延びる理由が明確になり、生きることに目覚める海のゼロ・グラビティだ!と声

        • B級映画、どう選ぶ?vol.1 ワニ物にハズレなし「クロール 凶暴領域」について

          家でゆっくり映画が観たいな、と思うタイミングがありますよね。しかも、重いのじゃなくてビール飲みながら観られそうなやつ、という条件付き。 そんなときはアクション映画やB級映画が候補にあがると思うのですが、B級映画は負け試合も多く、映画全般のなかでもギャンブル性が高いジャンルと言えます。 わたしはB級映画も大好きで、とんでもない駄作も数多経験しながら面白いB級映画を開拓してきました。その経験から導いた法則が「ワニものにハズレなし」です。まぁ、ハズレなしというのはさすがにちょっ

        愛と財布が試される!「マネー・ピット」について

        • 遠雷、そして嵐の予感「オーバーフェンス」について

        • B級映画、どう選ぶ?vol.2 これは”海のゼロ・グラビティ”だ!と声を大にしていいたい「ロスト・バケーション」について

        • B級映画、どう選ぶ?vol.1 ワニ物にハズレなし「クロール 凶暴領域」について

          既存のトランスフォーマーシリーズとは何かが違う 「バンブルビー」について

          家庭にも学校にも居場所を見つけられない孤独な少女と地球に逃げ落ちた宇宙機械生命体の運命的な出会いと友情の物語です。 マイケル・ベイは爆破がお好き トランスフォーマーシリーズは過去5作全てがマイケル・ベイ監督によるもので、売りは「ベイ・ヘム」と呼ばれる爆破と破壊のアクションシーンです。特に4作目のロスト・エイジは今まで観た映画のなかで最も爆破シーンが多かったのでは?と思うほどでした。 娯楽性の追求を否定はしない ほぼ同じテンプレート上で展開し、娯楽性を追求した爆破とキメ

          既存のトランスフォーマーシリーズとは何かが違う 「バンブルビー」について

          ”初めて”がどんどん遠ざかる「レディ・バード」について

          アラニス・モリセットの「Hand in my pocket」が耳に残りました。強烈に自己を主張し、家族とケンカをし、大人と子供の踊り場で様々な”初体験”に不安と期待を混じらせる高校最後の1年を描く青春映画です。 この街もお母さんも大嫌い! ヒロインは本名ではなく、レディ・バードと名乗ります。それは干渉してくる母と何にもない田舎町への反発です。何者でもなく、何も持たない、それでも一個の自己を主張したい、そんな誰しもが思い当たる普遍的な青春の1ページから物語は始まります。

          ”初めて”がどんどん遠ざかる「レディ・バード」について

          ハッピーとリアルのバランス「ワンダー 君は太陽 」について

          遺伝性疾患で「普通と違う顔」に生まれ、奇異の目から自分を守るためにヘルメットを被った少年が10歳にして初めて学校へ通うお話です。 なるほど、「レント」「ウォールフラワー」の人か 「これは絶対泣く映画」と思ったら案の定そうなのですが、不思議と押しつけがましさがありません。知れば納得、迷える若者たちを描いた名作「レント」「ウォール・フラワー」を手掛けたスティーブン・チョボスキー監督による映画なのです。 現実的な重力の良さ 本作で特徴的なのは主人公の少年だけでなく、姉や同級

          ハッピーとリアルのバランス「ワンダー 君は太陽 」について

          美男も美女も出てこないのが良い 映画「シェイプ・オブ・ウォーター」について

          失語症の女性が研究所に捕らえられた半人半魚の奇妙な生物と出会う話です。ふたりの間に交流がうまれますが、”彼”は実験材料にされる運命で・・・。 本作では鶏卵が印象的に映されます。かつて鶏卵は春にしか産まれない貴重品で、冬(死の暗喩)の終わりを告げる再生と豊穣の象徴でした。捕らえられた怪物と隠れるように暮らす女性が鶏卵を介して孤独の殻を破る姿はまさに、再生のイメージそのものでした。 2人のあいだには会話が成立しませんので、互いに何を理解しあって、何を共有したことで惹かれ合うの

          美男も美女も出てこないのが良い 映画「シェイプ・オブ・ウォーター」について

          フジファブリックがかけた映画音楽の魔法 映画「ここは退屈迎えに来て」について

          「ここは退屈迎えに来て」は山内マリコの同名小説を橋本愛、門脇麦、成田凌で映画化した青春群像劇です。都会に出た者と地元に残った者、それぞれの夢と現実が交差する様子が描かれています。 ”椎名にとってのあたしは、あたしにとっての遠藤じゃないよね?”と語られる山内マリコによる原作は、青春の蹉跌の切り取り方がとてもリアルで、なりたくなかったものに、いつのまにかなっているんじゃないか、なんて、どうにも刺さってしまいます。 この停滞と後悔の物語で音楽を担当しているのがフジファブリックで

          フジファブリックがかけた映画音楽の魔法 映画「ここは退屈迎えに来て」について

          「フランシス・ハ」のここがスゴイ&次に観るなら

          ダンサーの夢、彼氏との関係、友人とのルームシェア、全てが半端で人生曲がり角なニューヨーク在住27歳の女性、フランシスのお話です。 本作を端的に言うなら「回収力がスゴイ」です。この不思議なタイトルは、行き当たりばったりな彼女の性格も含めて、あるとき、瞬間的に回収されます。3000本以上観たなかでもこれほど鮮やかに、軽やかにタイトルを回収した映画はなかなか思い当たらないです。 走って、転んで、すりむいて、失敗続きでもフランシスはめげずに立ち上がります。お金が掛かる現実の街・ニ

          「フランシス・ハ」のここがスゴイ&次に観るなら

          「グリーン・ブック」のここがスゴイ&次に観るなら

          1962年、黒人ピアニストが粗野なイタリア系を運転手兼用心棒に雇い、人種差別が残るアメリカ南部ツアーに出発するというお話。なお、〈グリーン・ブック〉は黒人が利用できる施設を記載した黒人旅行者向けの案内書です。 本作を端的に言うなら「フライドチキンがスゴイ」です。正反対の2人がフライドチキンの食べ方でモメるシーンが最高でした。「チキンは手づかみで食うんだよ!」「そんな食べ方はできない」差別者と被差別者が嫌々ながらも交流する姿は、差別の根幹としての「知らないこと」がひとつずつ減

          「グリーン・ブック」のここがスゴイ&次に観るなら

          「スリー・ビルボード」のここがスゴイ&次に観るなら

          "犯人逮捕はまだ?" 娘を惨殺した犯人が逮捕されず、警察への怒りを募らせた母が町外れの3枚の広告看板を借りて抗議文を掲げるというお話。 この映画を端的に言うなら「目がスゴイ」です。周囲と衝突することで何かを掴もうともがく母を演じたフランシス・マクドーマンド、短絡的で差別主義者の若い警官を演じたサム・ロックウェル、それぞれの気持ちがとにかく目に凝縮されています。刻々と変化する目の演技、 ここまで目に惹きつけられる映画はそうそうあるもんじゃないです。 限界ギリギリの崖っぷち、

          「スリー・ビルボード」のここがスゴイ&次に観るなら

          「パラサイト 半地下の家族」のここがスゴイ&次に観るなら

          この映画の端的に言うなら「物差しの交差がスゴイ」です。目に見える居住地の高低差、目に見えない生活の匂い、このふたつの異なる物差しの交差で人物像が肉厚に立体可視化されています。匂いという繊細なパーツを精神的な階層性の暗喩としても機能させる表現力は圧倒的です。 そして、誰にでも平等に降るはずの雨が彼らの間の隔絶の大きさを絶望的なまでに際立たせます。高低差、匂い、雨、この三つの物差しの交差で上層と下層をじわじわと滲ませて混じりあわせるという、グレーゾーン、まさに「半」の表現手腕が

          「パラサイト 半地下の家族」のここがスゴイ&次に観るなら

          映画「クリムゾン・アイランド」世評は低いが気にするなかれ。これは面白い。

          呪われた土偶が人を襲う映画について記します。 1.ピニャータとは呪われた土偶が人を襲うというのが本作の大筋。ピニャータというのはメキシコや中南米で供されるお菓子や玩具を詰めた紙製の人形で、それを子供たちがくす玉のように割って遊びます。本作では人々が自らの悪しき心や災いを封印したパンドラの箱的な土偶がピニャータなのです。 https://filmarks.com/movies/47594 2.おそらく映画史上最もハレンチな競争B級映画において島で遊び呆ける大学生はいわば生

          映画「クリムゾン・アイランド」世評は低いが気にするなかれ。これは面白い。

          映画「ブルーサヴェージ」にみるB級映画と出木杉くんの絶望的な親和性の低さ

          太古の巨大ザメが人を襲う映画について記します。 1.メガロドンが出木杉くん太古に実在した巨大ザメ、メガロドンが人を襲うというのが本作の大筋。メガロドンはB級映画界では知らぬ者のいない、「メガロドン選んだの?安定だなぁ」とちょっとあざけりが入るくらいの鉄板設定です。メキシコの土偶ピニャータが襲ってくるとか、毎年クリスマスに切り倒されまくっているモミの木が人類に復讐するとか、トンデモ設定をひねり出してくる世界においては正直、インパクトに欠けます。 https://filmar

          映画「ブルーサヴェージ」にみるB級映画と出木杉くんの絶望的な親和性の低さ

          映画「モスキート」は名作への優れたオマージュかもしれない(あるいは予算とのせめぎあいの果てに)

          宇宙人の血を吸って巨大化した蚊が人を襲うというどうかしている設定の映画について記します。 1.なぜ巨大化するのか宇宙人の血を吸って巨大化した蚊が人を襲うというのが本作の大筋。B級映画における巨大化の理由は化学物質による汚染や遺伝子工学の失敗などが多く、宇宙人の血を吸って巨大化というのは激レアです。この臭気計が振り切れるほどの地雷臭、これを避けたらB級映画好きの名折れ!死して屍拾う者なし!・・・などと覚悟を決めて観たらこれがまたさまざまな名作映画の影響を感じるなかなかの名編で

          映画「モスキート」は名作への優れたオマージュかもしれない(あるいは予算とのせめぎあいの果てに)