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”初めて”がどんどん遠ざかる「レディ・バード」について
アラニス・モリセットの「Hand in my pocket」が耳に残りました。強烈に自己を主張し、家族とケンカをし、大人と子供の踊り場で様々な”初体験”に不安と期待を混じらせる高校最後の1年を描く青春映画です。
この街もお母さんも大嫌い!
ヒロインは本名ではなく、レディ・バードと名乗ります。それは干渉してくる母と何にもない田舎町への反発です。何者でもなく、何も持たない、それでも一個の自己を主張したい、そんな誰しもが思い当たる普遍的な青春の1ページから物語は始まります。
Hailing a taxi cab(タクシーを呼び止める
劇中でアラニス・モリセットの「Hand in my pocket」が 印象的に流れます。片手はポケットに入れているけど、もう片手は何かを掴みたくてウズウズしている、この手でタクシーを止めちゃうよ、そんな意味の歌です。
母と故郷に反目して、ここから出ていきたい!そんな青春真っただ中にあるティーンエイジャーが主人公の映画にぴったりの見事な選曲でした。ポール・トーマス・アンダーソン監督との仕事も多く、エイミー・マンのプロデュースでも知られるジョン・オブライオンが音楽を担当していて、なるほどと思います。
”初めて”はどんどん遠ざかって
一方、大人がこの曲を聴きながら映画を観るとまた少し違った印象です。かつての自分を重ねて恥ずかしいような気持ちになると同時に、最初の期待と不安と無様な失敗を追体験し、傷を増やしながらもどうにか大人になったことに思い至ります。それは、誰かに見守られて、助けられての道だったはずで、さまざまな”初めて”は遠ざかるほどに価値を感じるのかもしれません。
てんとう虫はお天道様の虫
レディバードは「てんとう虫」の意味です。てんとう虫はお天道様の虫です。黒点のある羽根は太陽の見立てであり、赤い地色から聖母マリアの象徴でもあるそうです。
母と故郷の町に反発し、「私は幸運も慈愛も授かってない」とでもいうように、自らに幸運と慈愛の名をつけた”レディ・バード”がどんな場所、気持ちに辿り着くのか。大人が観ても若者が観ても、違った意味での感謝や共感を呼ぶとてもいい映画でした。ぜひどうぞ。
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