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フジファブリックがかけた映画音楽の魔法 映画「ここは退屈迎えに来て」について

「ここは退屈迎えに来て」は山内マリコの同名小説を橋本愛、門脇麦、成田凌で映画化した青春群像劇です。都会に出た者と地元に残った者、それぞれの夢と現実が交差する様子が描かれています。

”椎名にとってのあたしは、あたしにとっての遠藤じゃないよね?”と語られる山内マリコによる原作は、青春の蹉跌の切り取り方がとてもリアルで、なりたくなかったものに、いつのまにかなっているんじゃないか、なんて、どうにも刺さってしまいます。

この停滞と後悔の物語で音楽を担当しているのがフジファブリックです。劇中、登場人物たちはそれぞれの場所、それぞれの背景で「どこにいても、星は見えなくはない」と俯き加減で、あるいは涙ながらに 「茜色の夕日」を口ずさみます。

そして、エンディングでは 「コーヒーを飲もう。さあもう進んでくんだろ」 と惰眠からの目覚めを誘うように唄われる書き下ろしの主題歌 「Water Lily Flower」が流れてきます。

これらの歌詞と揺蕩うようなメロディが、何かになりたかったけれど、いまだ何にもなれず、むしろなりたくなかったものになりつつあるのではないか、それでもまだ何かになりたいと願う登場人物たちの揺れる気持ちと奇跡的に融合しています。

原作小説にない「音楽」というパーツが表情で語られる映像に奥行きをもたらし、原作と映像の魅力が何倍にも膨れ上がっているように思います。まさにフジファブリックがかけた映画音楽の魔法と言えるほどの効果、ぜひどうぞ。

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