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パンドーラーの池の底

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#現代詩

セルゲイの遺書

セルゲイの遺書

この世界には二通りの人間がいる
星を産む者と星を食む者だ

欄干のない橋のような人生を
それでも懸命に歩き続けた君の
震える背中を遊び半分で押した
白々しい者たちへ
僕が贈るべきものとは何なのか
夜空に星が飾られる夜には
いつも考えていたんだ

(死に場所を探すために彷徨う)なんて
どこでくたばっても地球の上だろ
僕はあらゆる手段でそう伝えたけれど
それは君が生きる言い訳にはならなかった

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現代詩 「ギヨタンの夢」

夢の中で仕事をしていて
上手にできないのが切なくて
目が覚めた
早く目を瞑り
再び仕事にとりかからねば
可及的速やかに
朝はもう其処まで来ている
夜を徹して職工たちは
今も慌ただしく労働している
だがしかし
無策に寝ても詮方ない
革新的な作業工程を考えなけりゃあ
斯うして起きた意味がない
其う 意味がない

ぬばたまの未明の閨に
胡座をかいて僕は
仕事の要領を考えた
ううむふむむと考える
だがしか

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漢詩の言葉「冬夜書を讀む」/翻案「片付けられない」

漢詩の勉強です

冬夜書を讀む  <菅山茶>
雪は山堂を擁して 樹影深し
檐鈴(えんれい)動かず 夜沈沈
閑かに乱帙(らんちつ)を収めて 疑義を思う
一穂(いっすいの)の青燈(せいとう) 萬古(ばんこ)の心(こころ)

【語句解説】

檐鈴(えんれい)…檐は訓読みで「のき」。軒のこと。鈴は風鈴。軒下に吊られた風鈴を呼ぶ。

夜沈沈…春宵値千金にも出てくるフレーズ。ちんちんと読んでいるけれど、しんし

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漢詩の言葉「胡隠君を尋ぬ」/翻案「集金」

漢詩の勉強です

胡隠君を尋ぬ 高啓
渡水、復た渡水
看花、還た看花
春風 江上の路
不覚に到る君の家

【語句の解説】

胡隠君…隠君は隠者のこと。胡は名字。隠者の胡さん。俗世から離れた田舎に隠れて住んでいる。

渡水…通常、水を渡ると書き下す。
看花…通常、花を看ると書き下す。

江上の路…川辺の道。

不覚に至る…知らぬ間に着いてしまった。

【大意】
春風に吹かれながら悠々と散歩する間に

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漢詩「去る者は日に以て疎し」/翻案「死んだあなたを忘れる」

漢詩の勉強です

去る者は日に以て疎し 無名氏

去る者は日に以て疎く
来る者は日に以て親しむ
郭門を出でて直ぐ視れば
但だ丘と墳とを見るばかり
古墓は犁(す)かれて田と為り
松柏は摧(くだ)かれて薪と 為る
白楊(はくよう) に悲風(ひふう)多からん
蕭蕭(しょうしょう)として人を愁殺(しゅうさつ)す
故の里閭(りりょ)に還らんと思い
帰らんと欲するも 道 因る無し

【語句解説】

疎し…薄ら

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あ

思考より言葉のほうがよほど賢しく、意味だけとなった残骸は容易く人間を支配する。

本能よりも哲学的なものは、まだこの世界に存在を確認されていない。

パラレルパラソルp??「世界の解剖法」より

(生まれ変わりの有無、その可否については未確認、天国に問い合わせ中です)

──急停車します、ご注意下さい。ところで、この世界に絶対はないのかな。

少なくとも、言葉には意味はない。

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ペン先

ペン先

ペン先を舐めながら
サディスティックな作家が言うには
お前が傷つくのは筋違いだ、と

切り捨ててくれれば良いのだ
恋にもなれなかった何かは
最早この季節を持て余している

なおもその作家は言う
暑さに融解する詩心には必ず
裁断を請求する機能が備わっている、と

濡れたペン先が震えている
緋色の原稿用紙が真夏の都会に
燃えている
燃えている

越えるには覚悟が必要だ
照りつける嫉妬を睨み返せ

誰が

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「ごめんなさい」

「ごめんなさい」

彼は優しい物語の読みすぎで
思考が見事に崩壊したらしい
目の前に転がる現実との乖離に
ごめんなさい。とだけ呟いて

私がようやく彼を訪ねると
白い部屋に紫陽花が飾られていたので
「梅雨ですものね」と言うと
「ごめんなさい」。

ランチの時間になったので
持ってきたサンドイッチを差し出し
「トマトはお好きでしたよね」と言うと
「ごめんなさい」。

それからボードレールの読み聞かせをしても

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赤が足りない

赤が足りない

夕闇の中で
一面の彼岸花畑に火をつけた
画家の供述記録より

「赤が足りなかった。
圧倒的に赤が足りなかった。
彼岸花の分際で、
中には白いものさえあった。

太陽が赤いなんていつ誰が決めた?
どう見ても赤くないじゃないか。
天気予報の表示に騙されてるな。

問題は彼岸花畑だ。
それを構成すべき一本一本だ。
奴らには赤が足りない。
もっときちんと正しく赤ければ
あり合わせの絵の具で事足りた

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白の紫陽花

白の紫陽花

白い紫陽花を見つけたので
可哀想だと思ってもぎました
咲いていても甲斐がないと
そう教えられたものですから

私の赤で良ければあげますが
傘の意味がわからなくて
さして、みました

白い紫陽花はまだ咲いていました
雨雲を嗤うように真綿のように
気高く図々しくありました
憎むならこれだと確信しました

私の青で良ければ差し出しますが
victimの意味を辞書で引いて
堕ちて、みました

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十分詩 黒

ボタンをおすと
目の前のせんぷうきが
くるくるまわって
上司へ風を送った

上司はまだまだ足りなかったようで
「中」のボタンを押した
目の前のせんぷうきが
くるくるくるまわって
上司へ風を送った

上司はまだまだまだ足りなかったようで
「強」のボタンを押した
目の前のせんぷうきが
くるくるくるくるまわって
上司へ風を送った

しかしせんぷうきも
あんまり回り続けたから
疲れてしまったようで
「強」

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白島 真の詩

白島 真の詩

剽窃                       

 

剽窃したい人はそこに居て、夏のセロリをしっぽから齧っている。水は生温いが金魚鉢の赤い魚たちは夢を追わずきょうも元気だ。猫は背を丸めしっぽりと寝ている。猫を抱きしめる主体は私だが、猫は私に抱きしめられたとは思っていない。そのように、あなたは私の透けた静脈をみつめる。セロリをほとんど食べ尽くして。

 

剽窃したい人はそこに居て、その時間に

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