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東大院卒と働く中卒が学業を放棄するまでの話④/⑨

〜前回までのお話〜

帰国子女の巨漢同級生から
「アメリカで最も人気があるロックバンド」として
Guns N' Roses(以下GNR)の存在を知らされた
14歳の私は本屋さんで見つけたそのバンドの
写真から漂う危なそうな雰囲気にド肝を抜かれ、
彼らの音楽がどんなものか興味を抱いてしまった。

・まくら

「人は見た目では判断できない」とは
その通りだ、とも言えるし
必ずしもそうとは限らないとも言える。

とりあえず、ここで言う「見た目」とは
髪型、服装、体格としよう。
何気にこれらで少なくとも「好きな音楽」だけは
けっこうバレたりする。
昔は、という注釈はつくが。

・細身で革ジャン革パンの黒装束=ロックンロール
・短髪でガタイがよく、オーバーサイズのパーカーとボトム=ヒップホップ
・長髪でTシャツ、ジーンズ=メタル
・不健康そうな猫背でネルシャツ、破れたジーンズの裾を引きずってる=オルタナ
って、こんなに単純に括っていいものかと思うほど
とんでもなくテキトーだがこんな感じだろう。

バンプ・オブ・チキンの登場あたりから
普段着としか思えない服装でステージに上がる
メジャーアーティストは増えたが、
90年代の国内のバンドにはヴィジュアル系は
もちろんイエローモンキーやミッシェルガンエレファントなどステージ衣装でもカッコよさを
示すアーティストがいた。

2010年代以降のバンドマンの見た目は
・髪型はサラサラのマッシュ
・パーカーとスニーカー
・おとなしそう
みたいなのがほとんどなイメージだ。
実際、私が活動していたころに
一緒のライブにブッキングされた
若いバンドはどこもそんな感じで
誰がどのバンドのメンバーか
わからなかったしマジで覚えていない。
無個性で鳴らす音も無害だった。

素行についても、メチャクチャな
アーティストはオアシスあたりを
最後にほぼ聞かなくなった。

日本では、くるりの岸田繁氏や
サカナクションの山口一郎氏など
品行方正で音楽でないビジネスでも
普通に成功したであろう聡明な人物が少なくない。

不祥事一発で活動停止に追い込まれる御時世だが
もっと音楽やプロモーション方法のみでなく、
メチャクチャな行動やファッションも
表現の一部として愛されるバンドが
そろそろ出てきてほしいと
思う今日このごろである。

・CD購入大作戦

さてGNRの音楽が聴きたくて色々な想像を
巡らせていた中学二年生の私。
今のようにYouTubeにどんな音楽でも
転がってはいない時代。
乱暴な言い方をすれば
音楽、楽曲というコンテンツ自体が
純粋な価値を持っていた時代だ。
音楽を、特に外タレの音を聴くには
CDを購入する以外に方法がなかった。

そのときの全財産など、あっても1,000円くらい
だったに違いない。
海外アーティストの国内盤CDは2,500円。
当時は1,000円弱も安い輸入盤の存在すら
知るよしもなく親からもらえる小遣い日を
待たずに一日でも早くCDを購入する方法を考えた。

そして私は母親に
明日から弁当は作ってくれなくて大丈夫だから
毎日300円ちょーだい、と提案。
母親は訝しがりつつも承諾してくれた。
よし作戦成功。
五日間、昼飯を我慢すれば、手持ちの金と
合わせてCDが手に入る。
そのとき好奇心は五日間、味わう空腹感の
侘びしさなんてもんを悠に超えていたと
いうことだ。

・USE YOUR ILLUSION Ⅱ

こうして無事に2,500円を貯めた私は
例の帰国子女同級生を今は移転したらしいが
かつてあった池袋駅西口のHMVへ付き合わせた。

ジャンル「Heavy Metal」頭文字「G」で
目当ての名が書かれた「しきり」を探す。
その時点でGNRは4枚のアルバムを
リリースしていた。

どれを買うべきか…。
そこで同級生に尋ねた
「ターミーネーター2の曲はどれに入ってる?」
実に安直である。しかし、それくらいしか情報が
なかったのだ。判断材料も当然、少ない。

そこで同級生がラックから引き抜いたのは
意味不明、テーマ不明のサイケデリックな
青色のジャケットのアルバム。
こんな奇妙なアルバムジャケットは
邦楽のアーティストの作品にはまず使用されない。
そして未だにあのジャケの意味は私の理解を
超えている。

「このアルバムの一曲目もいいぞ」
そう言われれば迷いはない。
その青ジャケCDを持ってレジへ並び、
五日間の空腹の対価として
念願の「危ないバンド」のCDを手に入れた。
怖いもの見たさが半分、アメリカのロックへの
憧れと幻想がもう半分。
膨らんだ好奇心を帰宅するまで抑えることができず
帰りの電車の中でCDを開封したのを覚えている。

・ライナーノーツで知るGNRのエピソード

CDケースから引き抜いた歌詞カードは
やたらと分厚かった。
英語の歌詞と各パートを担当したメンバーが
一曲ずつ詳細に記載された前半に
中盤に日本語の訳詞。
そして、それ以降10ページほどに亘り、
バンドの年表がビッシリと書かれている。
その内容が実にヤバかった。

・ギタリストが飛行機内のトイレが空いてない
 ので、その場で立ち小便をして逮捕。
・楽屋にいた先輩バンドメンバーの奥さんを
 楽屋から追い出し、それにキレた先輩に
    殴られる。
・隣人から騒音の苦情を言われたボーカルが
 逆ギレし、ワインボトルを投げつけて逮捕。
・ライブ演奏中にカメラを構えていた観客に
 ボーカルがブチ切れて客席にダイブ。
 カメラを取り上げたのちライブを途中で
 放棄して帰ってしまう。

受賞歴やチャートの席巻など輝かしい逸話も
あったが素行不良の逸話が想像以上にヒドい。

やはり見た目のヤバさを裏切らない人々。
彼らに関しては言えば
「人は見た目で判断できる」類の人種である。
少年の私は「これがロックだ」と安直に理解した。
実に素直な少年だ。

のちのちGNRは特にヤバいが他にも
素行不良のバンドは枚挙に暇がないことを知るが
そんなのが珍しくない時代だったのだ。

・そしてCDは再生装置へ

帰宅して即、自部屋に直行した私は
今では骨董品扱いされているであろう
ラジカセというCD再生機器の電源を入れ、
これ以上ないほどの期待と興奮を胸に
CDをトレイにセットした。
そしてスピーカーから飛び出してきた音は…。

その話は、また次回。

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