JW323 寄進、創建、天魔王
【東方見聞編】エピソード6 寄進、創建、天魔王
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
高志国(こし・のくに:北陸地方)を旅する、大彦(おおひこ)たち。
従う者たちは、下記の通り。
葛城宮戸彦(かずらき・の・みやとひこ)(以下、みやさん)。
それから、和珥彦国葺(わに・の・ひこくにふく)(以下、くにお)。
そして、赤ん坊の得彦(えひこ)である。
彼らは、崇神天皇の皇子、大入杵(おおいりき)(以下、リキ)と別れ、更に北へと向かうのであった。
くにお「して、ここは何処(いずこ)にござりまするか?」
大彦「石川県輪島市(わじまし)の河井町(かわいまち)なんだな。」
みやさん「能登国(のと・のくに)の地名にござるよ。」
くにお「して、なにゆえ、この地に参られたのでござるか?」
リキ「それは、この地に、重蔵神社(じゅうぞうじんじゃ)が有るからや。」
くにお「ん? 『リキ』様? なにゆえ、ここに?」
リキ「ここは、能登国やで? せやから、まだ居(お)ってもええやろ? なぁ? 得彦?」
得彦「あうあっ。あわうっ。」
リキ「ほれ、見てみぃ。得彦も、ええって言うてるで。」
くにお「別に、悪いとは言っておりませぬぞ・・・。」
大彦「ところで・・・解説を続けても良いのかな?」
リキ「あっ! すんまへんっ。お続けくださいっ。」
大彦「・・・ということで、こちらの神社に『田んぼ』を寄進(きしん)したいと思うんだな。」
くにお「寄進? 寄付のようなモノにござりまするか?」
みやさん「その通りにござるよ。この『田んぼ』で採れた米が、祭祀儀礼(さいし・ぎれい)の運営費になるのでござるよ。」
リキ「こういった『田んぼ』のことを『神田(かんだ)』って言うんやで。」
くにお「なるほど・・・。神の『田んぼ』ゆえに、神田か・・・。」
リキ「せやっ! 神田という地名を見つけたら、そこには、神社に寄進された『田んぼ』が有ったっちゅうことになるわけや。」
大彦「ちなみに、神社の御祭神は、大国主大神(おおくにぬしのおおかみ)と、天之冬衣命(あめのふゆきぬ・のみこと)なんだな。」
くにお「天之冬衣命(あめのふゆきぬ・のみこと)とは、初耳にござりまする。」
大彦「この神様は、大国主様の御尊父(ごそんぷ)なんだな。」
くにお「では、どちらも出雲(いずも)の神様ということになりまするな?」
みやさん「社伝によると、冬衣命が、出雲から能登に来臨(らいりん)し、同地を平定したそうにござるよ。」
リキ「そういうことで、わてらが来る、遥か昔から、ここに鎮座(ちんざ)してるみたいやで。」
くにお「なるほど・・・。して、此度(こたび)、寄進する運びとなったのか・・・。」
大彦「そういうことなんだな。」
リキ「ほな、これで、能登の伝承紹介は終わりやで。」
みやさん「次は、富山県に向かうのでござるよ。」
リキ「ついに、ホンマの、お別れの時やなぁ。」
くにお「このまま付いて来れば、良いのでは?」
リキ「そういうわけにも、いかんのや。ホンマ、あとのこと、得彦のこと、頼むでぇ。」
大彦「任せて欲しいんだな。」
こうして、再び『リキ』と別れた一行は、富山県に入ったのであった。
くにお「して、ここは何処にござりましょうや?」
大彦「富山県富山市(とやまし)に入ったんだな。」
みやさん「二千年後の県庁所在地にござるよ。」
くにお「けんちょしょざち? して、なにゆえ、ここに?」
大彦「この地に社(やしろ)を建てようと思っているんだな。」
みやさん「その名も、鵜坂神社(うさかじんじゃ)にござるよ。」
くにお「そのような伝承が有るのですな?」
大彦「その通りなんだな。それがしによって、創建されたと伝わっているんだな。ちなみに、祭神は、男神の淤母陀流神(おもだるのかみ)と、女神の阿夜訶志古泥神(あやかしこねのかみ)なんだな。」
くにお「神世七代(かみよななよ)の六代目、男女一対の神としては、四組目の神様にござりまするな?」
みやさん「実は『古事記(こじき)』では、四組目にござるが、『日本書紀(にほんしょき)』では、三組目になるのでござるよ。」
くにお「そ・・・そのような細(こま)かなことを申さずとも・・・。」
みやさん「他意(たい)は無いのでござるよ。許して欲しいのでござるよ。」
大彦「とにかく、秋津洲(あきつしま)が造られる前の神様なんだな。」
みやさん「ちなみに、中世になると、仏教の第六天魔王(だいろくてんまおう)と同一神になったのでござるよ。」
くにお「されど、男女一対にござりまするぞ?! 男神の方だけということにござるか?!」
得彦「あうあう・・・。」
大彦「得彦も気になってるみたいなんだな。」
みやさん「そ・・・そこは、何と言うか・・・。気にしないで欲しいのでござるよ!」
くにお「聞いた拙者(せっしゃ)が、悪うござった。」
大彦「まあ、とにかく、この地に、二柱(ふたはしら)を祀(まつ)ったということなんだな。」
くにお「して、富山市の何処に鎮座なされたのです?」
みやさん「詳しい鎮座地は、富山市婦中町鵜坂(ふちゅうまち・うさか)にござるよ。」
くにお「されど、なにゆえ、この地に創建しようと?」
大彦「これぞ、ロマンなんだな!」
くにお「聞いた拙者が、悪うござりました。」
こうして、神社を創建した一行は、更に北へと向かい、新潟県に突入したのであった。
つづく
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