JW311 船出前
【丹波平定編】エピソード18 船出前
第十代天皇、崇神天皇(すじんてんのう)の御世。
丹波(たにわ)の豪族、陸耳御笠(くがみみのみかさ)(以下、みかさ)は討ち取られた。
平定を終えた、彦坐王(ひこいます・のきみ)(以下、イマス)は、戦勝報告のため、出雲(いずも)に向かうと言う。
そんな中、加佐(かさ)の住人、サムとジェフがやって来たのであった。
サム「皇子(みこ)! 『みかさ』はんを討ち取ったとのことで、お祝い申し上げますぅ。」
ジェフ「ホンマに、長い戦いやったなぁ。」
イマス「おお! サム! ジェフ! 寿(ことほ)ぎに来てくれたのか?」
サム「そうですぅ。わてらも、なんやかんや、戦いに加わりましたからなぁ。」
ジェフ「それに、皇子に伝えておきたいことも有りまして・・・。」
イマス「伝えておきたいこと? なんじゃ?」
サム「エピソード303で紹介された、『鳴生(なりう)』って覚えてはりますか?」
ジェフ「二千年後の京都府舞鶴市(まいづるし)の成生(なりう、なりゅう)のことやでぇ。」
イマス「覚えておるぞ。光り輝き、鳴り響く岩が現れたのう。」
サム「そうですぅ・・・。それでですなぁ。そないな霊験(れいけん)あらたかな出来事が有ったんやさかい、社(やしろ)を建てよか・・・っちゅうことになりまして・・・。」
ジェフ「まあ、それで、建てたんですわ。」
イマス「ほう。社を建てたと申すか・・・。して、社の名は?」
サム「その名も、鳴生神社(なりうじんじゃ)やでぇ。」
ジェフ「そのまんま・・・とかの『ツッコミ』は無しやでぇ。」
イマス「当然、舞鶴市成生に鎮座(ちんざ)しておるのであろう?」
サム「何、言うてんねんっ。当たり前やろっ。」
イマス「すまん、すまん。して、祭神は? 何処(いずこ)の神ぞ?」
ジェフ「祭神は、皇子やでぇ。」
イマス「なにっ! 我(われ)を祀(まつ)りし社か?!」
サム「せやで。皇子を祀らんで、あと、誰を祀るねん?」
イマス「ま・・・まあ、そうじゃのう。」
ジェフ「そういうことですんで、よろしゅう頼んますぅ。」
イマス「うむ。船出前(ふなで・まえ)に、良き話が聞けたぞ。かたじけない。」
サム「こっちこそ、かたじけないことやでぇ。」
ジェフ「ほな、気ぃつけてなぁ。」
イマス「汝(いまし)らも達者でな。」
するとそこに「イマス」の息子にして、四道将軍(しどうしょうぐん)の丹波道主王(たにわのみちぬし・のきみ)(以下、ミッチー)が駆け寄って来た。
ミッチー「父上ぇぇ! それがしも参りまするぞ!」
イマス「されど、汝(なれ)は伝承に出て来ぬではないか・・・。」
ミッチー「父上ぇぇ。それがしは四道将軍にござりまするぞ。四道将軍が赴かねば、大王(おおきみ)の面目(めんもく)が立ちますまい。」
イマス「汝(なれ)は、新婚ホヤホヤなのじゃ。妻と睦(むつ)まじゅうしておれば良い。それに、四道将軍の使いとして、我(われ)が赴いたことにすれば済(す)むことぞ。」
ミッチー「妻と離れ離れは、心苦しゅうござりまするが、父を使いに送る将軍など、聞いたことが有りませぬ! それを許しては、息子として、それがしの面目が立ちませぬっ。」
サム「ええんやないか? 付いて行くぐらい・・・。」
ジェフ「伝承に関わらんかったら、ええんやろ?」
ミッチー「サム殿や、ジェフ殿の申す通り、伝承には関わりませぬっ。」
イマス「では、あるが・・・。」
ミッチー「父上! 此度(こたび)の旅、合いの手が要(い)り様(よう)のはず・・・。誰かを連れて行かねばならぬのなら、それがしの他に、誰がおりましょうや?」
イマス「分かった、分かった。さすれば、汝(なれ)も付いて参れっ。」
ミッチー「かたじけのうござりまする。ついでに、黄沼前来日(きぬさき・の・くるひ)こと『クール』も連れて参ろうと思うておりまする。」
それを聞いて、傍で佇んでいた「クール」が、驚きの声を上げる。
クール「なっ! なんだいや!? わえ(私)も行くんか?!」
ミッチー「汝(なれ)は、県主(あがたぬし)にもなっておらず、二千年後の言い方をすれば『フリー』であろう?」
クール「フ・・・フリ?」
サム「ええやないか! 『クール』はんも、行ったら、ええねん。」
ジェフ「せやで。何事も経験やでぇ。」
「クール」の父、黄沼前県主(きぬさき・の・あがたぬし)の穴目杵(あなめき)(以下、アナン)も、激しく同意する。
アナン「息子よ。サム殿やジェフ殿の申す通りだっちゃ。行きねぇな(行きなさい)。」
クール「ち・・・父上・・・。」
イマス「よしっ。では『クール』も付いて参れっ。」
クール「かしこまりもうした。」
イマス「して『アナン』には、他に頼みたいことが有る。」
アナン「なんだいや?」
イマス「狂(くるい)の土蜘蛛(つちぐも)こと『くるっち』たちに、米を送って欲しいのじゃ。もし、あの者らが、自らも作りたいと申すのであれば、稲作を教えてやって欲しい。」
アナン「分かったわいや。」
イマス「では、これより船出致ぁぁす!」
こうして一行は、出雲に向けて出航した。
それから、しばらく進んだ時のことである。
「イマス」たちは、たくさんの人出(ひとで)で賑(にぎ)わう浜辺に遭遇した。
イマス「なんじゃ? あれは?」
ミッチー「出迎えのようですな?」
浜辺の人々は、一体、何者なのであろうか?
次回につづく
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