JW626 坂の下の田
【景行即位編】エピソード15 坂の下の田
第十二代天皇、景行天皇の御世。
西暦82年、皇紀742年(景行天皇12)のある日。
景行天皇こと、大足彦忍代別尊(以下、シロ)は、大后の播磨稲日大郎姫(以下、ハリン)の出産に立ち会うため、針間国(現在の兵庫県南部)を訪れていた。
付き従うのは、告の首(以下、スズム)。
中臣の連の大鹿島(以下、オーカ)。
忌部の首の和謌富奴(以下、わかとん)である。
そして、一行は、なぜか「播磨国風土記」に記述された地を紹介する運びとなったのであった。
オーカ「・・・ということで、我々は、賀古郡城宮から、北に向かっておりますぅ。」
わかとん「賀古郡城宮は、二千年後の兵庫県加古川市は加古川町木村に有ったと言われておるぞ。」
シロ「されど『ハリン』の身身(出産のこと)がため、針間に来たというに、まさか『風土記』の地名伝承を紹介することになるとは・・・。」
スズム「ところで、大王? 行き先は、御存知なので?」
シロ「いや、よう分からぬ。それゆえ、とりあえずは、日岡神社を目指そうと思うておる。」
オーカ「安産を祈願する御仁・・・。気になりますなぁ。」
シロ「ん? あそこに、幾人かの旅人が・・・。」
わかとん「旅人にござりまするか?」
シロ「何やら、担いでおるぞ・・・。『スズム』よ。あの者らに、何を担いでおるのか聞いて参れ。」
スズム「御意!」
命を受けた「スズム」は、旅人に近寄っていった。
スズム「汝らに尋ねたき儀が有る。担いでおる物は、何じゃ? それと、何処より参ったのじゃ?」
旅人(い)「我らは『風土記』の地名伝承を紹介するため、出雲から来たんだっちゃ。」
スズム「何じゃと?!」
旅人(ろ)「所謂、作者の陰謀だに。」
旅人(は)「担いでいるのは、琴だに。武器とか、麻薬ではないんだが。」
スズム「地名紹介に、琴が、要り様だったのか?」
旅人(い)「そげだわね。」
旅人(ろ)「我々は、兵庫県たつの市揖西町構から西方にある坂で、休んでいたんだに。そのとき、一人の翁(老人男性のこと)が、娘と一緒に、坂の下の田を耕しているのを見つけたんだっちゃ。」
旅人(は)「そげなことで、我々は『おなごんこ』の気を引こうと思うて、琴を弾いて聞かせたんだに。」
スズム「う・・・うむ。」
旅人(い)「そのため、坂は『琴坂』と呼ばれるようになったげな。」
スズム「ん? 娘の気を引くことは出来たのか?」
旅人(ろ)「こうで、こっぽし。」
スズム「聞いた、我が、悪かった・・・。」
そして、一行は、日岡神社に辿り着いたのであった。
シロ「祈りの声が聞こえるのう。」
わかとん「されど、大音声にござりまするな・・・。」
シロ「とにかく、伺ってみようぞ。」
「スズム」が、拝殿の戸を開き、声を掛ける。
スズム「もし? 安産祈願をしている御仁にござるか?」
御仁「遅いぞ! 『シロ』! とにかく、入れ!」
わかとん「お・・・大王に対し、無礼であろう!」
御仁「汝こそ、無礼千万! それがしは、天伊佐佐比古命じゃぞ!」
わかとん「なっ!?」
シロ「御祭神にござりまするか?」
御仁「その通り! 祭神が、安産祈願をしたと伝わっておるのでな・・・。止むを得んっ!」
シロ「で・・・では、伊佐佐辺命にござりまするか?」
御仁「違う! 合っておるが、違う!」
シロ「は?」
御仁「祭神には、別の説が有るのじゃ!」
シロ「別の御仁であると?」
御仁「その通り! その名も・・・。よっ! 桃太郎ぉぉ!」
シロ「は? 戯言は、お止めくださりませ。桃太郎と申せば『タケ』先生にござりまするぞ。」
御仁「甘いのう・・・。桃太郎は『タケ』だけにあらず! もう一人いる!」
オーカ「も・・・もしや、大吉備津日子こと『芹彦』様にあらしゃいますか?」
芹彦「その通り! それがしが、しっかりと祈ってやったぞ! 安心せい! 『シロ』の子は、戦の如き、激しい安産の末、産まれてくるであろう! 以上!」
スズム「は・・・激しい安産?」
シロ「さりながら・・・『芹彦』様は、エピソード444にて、引退なされたはず?」
芹彦「それゆえ、神となっておるのよ! 喜べ!」
シロ「な・・・なるほど・・・。」
こうして、祭神の正体が判明したのであった。
つづく
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