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Smashing! 佐久間イヌネコ病院

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佐久間鬼丸獣医師(受)と喜多村千弦動物看護士(攻)とその友人達のお話。 どうぞお楽しみ下さい!
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2021年12月の記事一覧

佐久間イヌネコ病院 luv.28 こきくるくるくれこい

千弦がなにかしらの忘年会に呼ばれて 帰ってきたのがなぜかまだ午後7時 えおま今から盛り上がる時間じゃないの? 俺はさもう散々盛り上げて パ…、パパの同僚の先生とジュンレツ歌って 貸してくれたタキシードで踊って めっさサービスしてきたの 打ち止めなの これはお土産 そう言ってキレイなバラの花束を 跪いて渡してきて 「綺麗なもんだなあ」 花束なんてもらったことないから ちょっとだけ嬉しくて眺めてたら 真剣な顔して 「そんなに好きなら毎日買ってくる」 いいんだ いい

smashing! こころづくしのそのあいを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。年末29日から年始は10日までお休みです。 11月あたりから少しづつ大掃除を進め、クリスマス後すぐに注連縄も飾り、病院を掃除し塩と酒で清めて終了。あとは餅やら酒やらオードブルなんかはギリで買い出しに行こうってことに。 「千弦、俺はここから動けん」 「わかる俺もだ鬼丸」 伊達、雲母家に続き、佐久間家にも「それ」はやってきた。リビングの一部を陣取る家具調長方形コタツである。喜多村が雲母のところに差し入れを持って

smashing! オレのいせかいひざくりげ・下

「マタタビの匂いがしたので、もしやと思ってました」 「ハルちゃんも変わってないよね」 伊達さんとケモリンのスグルンと、三人で進んでいった先は鬱蒼とした薄暗い洞窟のさらに奥。隔離された小さな牢のようなその場所には、簡単な寝台や家具。天井のように見える岩の隙間から、灯取りのように外界からの光が降り注ぎ、その下に雲母さんが佇んでいる。僕は洞窟の中であれば幻影として移動できる。ただ実体では、ここからは出られない。そう言って寂しそうに笑った。 「ここが、今の僕の世界の全てです」 「

smashing! オレのいせかいひざくりげ・中

キィィィ…ン 凪いだ水面に緩やかに広がる波紋のように、空気が震えた。ずいぶんと長いこと眠っていたようだ。男は寝台から体を起こすと、天から射す薄明光線に目を細めた。天使の梯子と呼ばれる現象だ。彼をここに捕らえているのは、目には見えない呪の鎖。 気付けばまるで深い深い井戸の底。泥の中で藻掻いて、手の伸ばしても上には届かない。だからただひたすら待つのだ。自分の知らないあの空の下に、どうかここから連れ出してはくれないかと。 ある日釣瓶が落とされ、掴んだ手ごと一瞬で外の世界に引きず

smashing! オレのいせかいひざくりげ・上

オレは設楽泰司。クリスマス当日、オレの付き合ってる伊達さんと、伊達さんの付き合ってる雲母さんとのさんぴー…じゃなかった三人で宴会を企画していたが、実家からの「年末手伝って」呼び出しに応じねばならなくなった。だが急遽雲母さんのアシストにより、「年末年始」が「クリスマス当日」に期間短縮してもらえたのだ。 大急ぎで車飛ばして実家に着いたら他の兄がまだ誰もいない。それこそ6人分(6人兄弟だけに)一人でフル稼働。オレの作れる範囲のおせちと家の中の大掃除を片付けた。途中から末弟の泰良も

smashing! きみがまもるこころのきずを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして伊達は後輩の設楽泰司とも恋人同士。 「じゃあ雲母さん、いったん実家行ってきます」 「気をつけてくださいね設楽くん。年末ですから」 「御意」 クリスマス本番の今日、伊達、雲母、設楽はゆっくりまったりと聖夜を楽しもうと、数日前から豪勢な食材を買い込み、準備を整えていた。しかし設楽は実家から「25

smashing! してんをかえみつめるひを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。 今日は朝から男の娘・結城卓がヘルプに来ていた。ここの動物看護士・喜多村が、実家の父から申し訳なさげな招集がかかり、学校関係のイベントに駆り出されたのだ。奇しくも今日はクリスマスイブ、サンタコスチュームが俺を待っている、などとよくわからないことを言いながら、結城に業務を託してリイコと共に出かけて行った。 年末だがさすがにこの日はそれほど患畜は訪れず、暇ではないが多忙でもない丁度良さ。結城はテーマカラーのピンク

smashing! ゆるやかにおまえをからめとり

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。同僚の設楽泰司とは先輩後輩で、雲母と同じく恋人同士。 過去を知りたいとは思わない。オレは伊達さんと付き合うようになって更に実感している。暮らしの中で日々発見があって、その都度詰め寄ったり笑ったりしてるほうがずっといい。 オレがまだ伊達さんとそうなってなかった頃、伊達さんはうちらの大学の教授と付き合

smashing! うみのはて たからとともに

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。毎週水曜は午前のみ。 商店街の外れにある銭湯ウミノ湯。冬至であるこの日は毎年柚子湯を設えている。広い浴槽にたくさんの柚子が浮かんでいてなかなか評判がいい。そして入浴後は柚子ジュースか柚子サワーのサービスが付く。 佐久間の病院は水曜は午前中のみなので、喜多村と佐久間は昼からウミノ湯にやってきた。 「すごいな柚子が」 「なんかこう、みっしり浮いてるな…」 もうすぐ朝湯も終わるので他に人もいない。それなのに柚子の

smashing! きみのこころのちゅうしんで

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗。彼は佐久間の病院の経理担当である税理士・雲母春己の恋人だ。 郊外の伊達の所有する平屋。そこに滞在中の伊達と雲母は、昼過ぎから近所のいたどりショッピングモールまで買い物(というかお散歩デート)に出かけた。ちょろっと寄るだけなら歩いてこっか。伊達の提案を雲母は快諾した。 「すごいお買い得でした…年末も買い出しに行きたいですね」 「年末ね!設楽にハマ

smashing! がめんごしにふれるおまえと

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。 「先生本当にありがとうございました」 「いえ。何かありましたらまた呼んでくださいね?」 佐久間イヌネコ病院からすこし離れた、とある郊外の街。常連の飼い主さんから、親戚の家に連れて来ていたワンちゃんが少し元気がなくなってしまったのだという。辺りに動物病院がなく、まだ自宅に戻ることができない、と相談された。今日は運良く伊達が来てくれていたため、佐久間は昼過ぎからここに往診に来ることができた。 話を聞けば、滞在

smashing! オレはあんたたちのもの

俺は雲母ハルちゃんが大好きだ。 そりゃもちろん設楽のことも大切だけど、自分を愛してくれるやつ全て受け入れたいと思う感情と、雲母に対してのものは何かが異なる。 恐らくは今まで、この自分と付き合ってきた人間が抱いていたであろうその種のもの。伊達にとっては初めて心の中に生じた感情。独占欲、とも違うような気がするが、それが一番近い表現かもしれない。 もともと浮ついたこんな自分が散々遊びほうけて雲母の元に帰って「君しかいないんだ」そんな台詞をしかも本気に吐くのだ。あろうことかそれを雲

smashing! かわるこころ かわらないきみ :Re

千弦、俺とつきあってよ 伊達は昔、なにかの流れでそう喜多村に告げたことがあった。確かに。だが今は喜多村は佐久間と、自分は雲母、設楽とサンカクだけどマルい付き合いをしている。これが最上の答えだと思った。思ってた。そんで今いい感じにお前とのことは過去バナよね、なんてまとまりそうだった。なのに。…あれ?なんで俺は千弦の膝跨って抱き合うかんじになってんの? 「…あれえ?なんで俺…」 「抱っこしてって言ったの雅宗先輩じゃん」 こうなるまでの記憶が伊達からは飛んでいた。喜多村とコタ

smashing! かわるこころ かわらないきみ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。本日水曜は午前中のみ。 商店街の近隣にあるマンション最上階、雲母の家であるペントハウス。昼過ぎから差し入れを持ってやってきたのは喜多村千弦。今日、佐久間は商店街のコミュニティセンターで行われる将棋教室に出る日。少人数ということで棋士助手・喜多村は放免となった。その代わりワンちゃんが見たいという生徒さんのためにリイコが同行。不本意ではあるが。将棋教室に差し入れると言って佐久間と一緒に作った稲荷寿司。胡麻やひじきの