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smashing! きみがまもるこころのきずを

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。そこで週1勤務をしている、大学付属動物病院の理学療法士・伊達雅宗と経理担当である税理士・雲母春己は付き合っている。そして伊達は後輩の設楽泰司とも恋人同士。

「じゃあ雲母さん、いったん実家行ってきます」
「気をつけてくださいね設楽くん。年末ですから」
「御意」

クリスマス本番の今日、伊達、雲母、設楽はゆっくりまったりと聖夜を楽しもうと、数日前から豪勢な食材を買い込み、準備を整えていた。しかし設楽は実家から「25日夜から数日おせち料理と大掃除のお手伝い」への参加を余儀なくされたのだが、どうにか25日のみにしてもらったのだ。もちろん交渉役は雲母である。

「設楽喜んでたん、一日で済むんなら一人で全部やってくるって」
「一番忙しい今日お手伝いすれば、他は断れるかもと思いまして」

今日は二人で映画でも楽しみましょうか。大型テレビの前、コタツに雲母が用意したモエシャンドン、とターキーの代わりに鴨肉の燻製、炙ったカマンベールチーズ。あとからケーキも食べようねえ。伊達お手製のガトーショコラは冷蔵庫。大食漢がいないからこのくらいでいいやね。伊達は回りの早いシャンパンをご機嫌で呑むうち、開始数十分で沈んだ。

「フフ。あまりピッチが早いと持ちませんよ?」
「シャンパン久しぶりだったん…」

伊達は早くも雲母の膝に寝転がる。雲母の指先が伊達の髪を緩く梳いてやると、気持ち良さげに伸びをした。画面から流れる賑やかな音がふと途切れ、静かな場面にさしかかった時。落ちたと思っていた伊達が静かな声で言った。

「すぐるんの誕生日が昨日だったって。千弦たちがゆってた」
「…千弦くんたちに、教えることができたんですね」
「それ、ハルちゃんは、知ってたん?」
「ええ。昔からの付き合いですから」

俺も知らなかったなあ。伊達は雲母を抱きしめるように体を丸め、呟いた。少し困ったように首を傾げ、雲母は伊達に微笑みかけた。

「卓くんには誕生日を教えたくない何かが、あるんでしょうね」
「ハルちゃんにも、分からないこと?」
「はっきりとは。ただ僕が言えるのは…」

僕が知り得るいかなる事実も、相手の是非を問うのがルール。その上で卓くんが教えたくないというのであれば、どんな理由があっても彼に従うだけです。

雲母は静かに、それでも丁寧に諭すように、伊達に意思を伝えていた。職業柄、というのも違う気がする。きっと雲母は生来、相手を慮る志が極めて高いのだ。きっとこの自分に何らかの問題が降りかかったとしても、雲母は身を投げ打ってでも護ろうとするのだろう。伊達は雲母の真摯な表情を見上げながら、そっと腕を伸ばし雲母に触れる。

「ごめんね、ちょっと拗ねちゃったん」
「…フフ。気にしてませんよ?」
「ハルちゃんのこと、まだ知らないことあんね」

これから知っていってくだされば。ひとつ、またひとつ。ゆっくりと身を起こした伊達に雲母の唇が重なる。苦くて、甘くて。シャンパンの香りがして。それでも。

大事な人間が心の奥に隠したものを、こんなに厳重に抱えててくれる。拾い物、どころか授かり物だねハルちゃんは。伊達は雲母には聞こえないくらいの小さな声で、囁いた。




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