見出し画像

smashing! オレはあんたたちのもの

俺は雲母ハルちゃんが大好きだ。
そりゃもちろん設楽のことも大切だけど、自分を愛してくれるやつ全て受け入れたいと思う感情と、雲母に対してのものは何かが異なる。
恐らくは今まで、この自分と付き合ってきた人間が抱いていたであろうその種のもの。伊達にとっては初めて心の中に生じた感情。独占欲、とも違うような気がするが、それが一番近い表現かもしれない。

もともと浮ついたこんな自分が散々遊びほうけて雲母の元に帰って「君しかいないんだ」そんな台詞をしかも本気に吐くのだ。あろうことかそれを雲母は全て受け入れる。自分が何をしてても、どこにいても。嫉妬に狂うでもなく問い詰めるでもなく、ただ幸せそうに自分を抱き締めてくれる。沢山の人に愛されたあなたを独り占めできる。それは僕にとっての最上級の幸福なんです。
雲母は、そう言うのだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「え?ハルちゃん、なんて?」
「雲母さん?」
「昨日編集したものがあるんです、さ、ご一緒に♡」
【【 ??????? 】】

手際良くSSDを差し込まれた有機4Kテレビ画面。そこには手ブレなく美しく編集された映像が。伊達はその場で石化。見覚えはもちろんないけど覚えはありまくる。だってこれどう見ても外からの画だもの!!!!十中八九俺らはその本人だもの!!!!

「今、ちゃんと音は消してありますから。マナーですからね♡」
「そのおシゴト用のやつで録るやつじゃないよそれぇ!」
「すごいな。どうやって」
「ンフ。毎回設置場所が違うんですよ?これはね…」

雲母と設楽がキャッキャウフフ。んなんでええええ。リビングの真ん中で伊達は叫ぶ。んなもん叫んだってどこにも届かないけど。フル画面で無声映画のように繰り広げられる自分と設楽のピーーー。自分のイキ顔晒されるのって恥ずかしい通り越して爆笑よね。いたたまれない時間がようやく終了した。今日ほどハルちゃん家でよかった思った日ないわ。そんでなんで設楽は満足そうな顔してるんだ。

「ああ、素晴らしかったですお二人とも♡」
「ねハルち(プチ視姦)…あれ?勃ってない…」
「芸術作品に対しては興奮しませんので…」
「ゲイジュツ !? これゲイジュツでいいの?いいの設楽あ!」

芸術なんだ、と雲母は言う。その感覚はいまいち共感できないが、設楽と寝るのは正直とても気持ち良くて楽しい。人目忍んでとか寝取るとか。そんな罪悪感的なものからは最も遠いところで、お互いの熱を重ね合って。力ずくで同化していくような不思議。あれが幸せという感覚というのなら、そう呼ばれるのもありかもしれない。

お二人のために鬼丸くん達おすすめのルーロー飯をテイクアウトしてあるんですよ。SSDを片付けた雲母がまさに弾むようにキッチンへ向かった。最近思うんだけども、ほっそいウサギちゃんみたいな子よね。向かい側に座る設楽に、伊達は小声で話しかけた。

「…設楽は、さ」
「はい?」
「ハルちゃんが楽しそうに盗撮したりするん、大丈夫?」
「問題ないです。オレもそういうの大好きなんで」

そっか。伊達が少し安心したように笑う。設楽の差し出した手が伊達の頬を摩る。いつもの口の端を上げてのニヤリじゃなくて、たまにしか見ることのない、おそらく設楽の「ニュートラル」な表情。

「なんもかも大丈夫なんです。だって」
「だって?」
「あんた達はオレのものじゃないから、オレを好きにしてくれて構わないんです」

雲母がキッチンからルーロー飯やイカ揚げ団子なんかを運んできた。今日は台湾スペシャルですよ。珍しく合わせた日本酒は洗心。心洗う、か洗われるか。そんな雲母のセンスも微笑ましい。手伝いますよ。自分が動く前に設楽がヘルプに立つ。その時、設楽は伊達に小さな声で呟いた。

(でもオレはいい意味で、あんたたちのものだと思ってます)


ああ、俺は設楽も大好きだ。
自分からでなく相手に求められてその中にあえて溶け込む、その心まるごと。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?