見出し画像

smashing! オレのいせかいひざくりげ・上

オレは設楽泰司。クリスマス当日、オレの付き合ってる伊達さんと、伊達さんの付き合ってる雲母さんとのさんぴー…じゃなかった三人で宴会を企画していたが、実家からの「年末手伝って」呼び出しに応じねばならなくなった。だが急遽雲母さんのアシストにより、「年末年始」が「クリスマス当日」に期間短縮してもらえたのだ。

大急ぎで車飛ばして実家に着いたら他の兄がまだ誰もいない。それこそ6人分(6人兄弟だけに)一人でフル稼働。オレの作れる範囲のおせちと家の中の大掃除を片付けた。途中から末弟の泰良も加わり、ようやく一息つけたのは日付跨いだあたり。二人でカップちゃんぽん麺を啜りながら、泰良が以前、自室で発掘したというゲームソフトをハードにセットする泰良。

「まだそれ動くんだな。タイラやったことあるやつ?」
「これ友達から借パクしちゃったやつだわ」
「…時効?」
「うん。こないだ聞いたらあいつ覚えてなかった」

覚えのあるようなオープニングムービーが流れて、そこはスキップしないんだ?的な部分を弟の泰良は逐一真面目に観ている。生真面目さはウチの雲母さんにも張るなあ。そんなことを考えながら、テレビの前を陣取る泰良の後ろで横になりつつ、一緒に(口だけ出しながら)ゲームを進め始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「…で、…ますか?」

 ………んん?

「どちらを選びますか?」

どちら?え?何を選ぶって?いつのまにかあたりは薄暗い森になっていて、オレは見たことのないペラい服を着ていた。ジョブイメージで言うとシーフぽいやつ。ああ、このシリーズで異世界物をブッこんでくるとは。よくある「存在丸ごと全否定上書き」系じゃないといいな。だって早くウチ帰ってあの二人と酒呑まなきゃなんだから。オレの存在消されると困るんだ。

「で、どちらを」
「あ、スイマセン…」

しまった。誰かに話しかけられてたんだった。どっちを選ぶか、まずはそれをはっきりさせないといけないのか。話しかけてきた相手を見れば………佐久間さんじゃないか何でローブみたいの着てんですかオイ一体なにがあったんですか。

「?…俺はあんたにどちらかを選ばせるだけ。早くして」
「あ、ハイ」

うわあツン系もいいわあああああ…優しい佐久間さんしか知らないから。厳しめも実にいいわあ。そんで選ぶっていうのはどれだ?ローブ佐久間さんの手にはパンチンググローブと重厚な日本刀。あ、武器えらべってことね。御意。こんなVR的展開なら刀の方が面白いかもな。そう思ったオレは迷わず日本刀を受け取った。

「あんた運がいいね。ここは隠しダンジョンだから、それはここでしか手に入らないやつ」
「そうなんですか」

覚えとくといい、その刀は「    」っていうんだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

こんなナリだがオレはどうやらレベルはカンストしてて、この世界のどこかにあるという「謎の洞窟」に入ってラスボスをアレすればいいらしい。どうりで出会うモンスター全部逃げ腰のはずだ。初期装備に見せかけたアーティファクトね御意。無敵じゃん。

あの薄暗い森から抜け、しばらく行くと大きな街が見えてきた。足を踏み入れるとそこは賑やかな市場になっていて、いろんな武器防具や雑貨、旨そうな食べ物やなんかが並んでいる。初めて見るのに初めてな気がしない。何度も訪れた記憶は、小さなカセットや円盤の中のバーチャルワールド。そこに今初めてオレは立っている。

飯といったら酒場だったなと思い、中に入って山賊焼きみたいなやつを頼んだ。とりあえず持ち物の中にあった金貨。これ使えるかな、そう言って店主に渡すと大層驚き、テーブルに乗り切らないくらいのご馳走を運んできた。かなり腹が減っていたので、オレは周囲のざわめきにも気づかず食い始めた。異世界の飯も普通に旨いんだな。

すると一人の男がやってきて、オレの隣に座った。こんどは誰だ。あこの人知ってるすげえ色々知ってる。焦茶のふわふわ癖毛に困り眉。やだ伊達さんじゃないですかオレですよオレ。やっぱり「誰?」みたいな顔された。

「すごい刀だねえ。ね、俺にもご馳走して?」
「どうぞ」
「即答だなあ。警戒心ないのねえ」

警戒心から最も離れたことしてるあんたがそれを言うか。ここは「異世界」なんだから、こっちの伊達さんが俺を知らないのは仕方ない。いわば初対面だ。なのにこの人、初対面の男に飯食わせて、だと。知らない人についてっちゃダメってあれほど(略)。

「好きなだけ食っていいですよ、そのかわり…」
「んむ?」(もう謎の肉頬張ってる)

ーーーーーーーーー暗転ーーーーーーーーー

「ゆうべはお楽しみでしたね」

大事なことはいつも朝チュンで誤魔化されるよね知ってた。
宿屋の主人が喜多村さんだったのは見なかったことにする。似合いすぎる。なんて爽やか系なんだ。そしたら店の中にいた昨日のローブ姿の佐久間さんが、なぜかふらつきながら階段を上がっていった。お楽しみだったのあんたたちもか。

代金を支払う間、伊達さんはフラフラと売店やなんかを覗き込んだり、物珍しそうにオレの腰に下がった刀の鞘に触れたりしている。伊達さんの武器は特にない。魔法とか使えるんですか?そう聞いたら、俺は遊び人なんよね、とか。納得するしかない答えが返ってきた。

「オレ「謎の洞窟」に行ってボスを倒すらしいんです」
「あァ、俺道知ってるよ?馬車で行こっか近いけど」

近かったら徒歩でいいんじゃないですか。オレの意見なんて聞いてない伊達さんは、宿屋の外に待機していた馬車の御者?に声をかけている。てかそれ馬車じゃないな人力車だな。しかも俥夫さんが小越優羽くんじゃないか。なんでそんなに腹掛けと股引き法被が似合うんだサムライボーイ。

伊達さんとオレを乗せ人力車は悪路をすいすいと進み、あっという間に謎の洞窟のそばに着いた。力持ち。ここは道が悪いから人力車が最適よね。オレが優羽くんに払った金貨の他にも、伊達さんが謎の革袋を優羽くんに渡していた。

「あれ、何が入ってたんですか?」
「珍しいマタタビ。あの子ん家ネコミミケモリンがいてさ、通りかかるとジャパリパークへようこそ!とか言って連れこまれるの」
「どこに」
「ぼったくりマッサージエステ」

異世界とは、げにまっこと世知辛い。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
中 へ続きますよ!




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?