見出し画像

smashing! かわるこころ かわらないきみ :Re

千弦、俺とつきあってよ

伊達は昔、なにかの流れでそう喜多村に告げたことがあった。確かに。だが今は喜多村は佐久間と、自分は雲母、設楽とサンカクだけどマルい付き合いをしている。これが最上の答えだと思った。思ってた。そんで今いい感じにお前とのことは過去バナよね、なんてまとまりそうだった。なのに。…あれ?なんで俺は千弦の膝跨って抱き合うかんじになってんの?

「…あれえ?なんで俺…」
「抱っこしてって言ったの雅宗先輩じゃん」

こうなるまでの記憶が伊達からは飛んでいた。喜多村とコタツに入ってテレビ見ながら稲荷寿司といくつかの肴。コタツでビールが最高よね、なんて言いながらけっこうな本数開けて。心地よい酔いにまかせて、喜多村に抱いていた「想い」を反芻していた。そして今に至るまでの諸々なんかを思い返して、昔と変わらない喜多村が嬉しかったんだ。そこまでは覚えている。

喜多村は伊達を抱えたままテレビをザッピングしながら、ビールのプルトップを開ける。先輩元気だなあ。無意識に腰を押し付けていた伊達の背を撫で、頬に軽く唇を掠めさせた。

「ちゅーしかしてないから、怒られないよ」
「俺、ちぃたんに絡んだ?」
「全然?乗っかってきただけ」

そっかあ。小さなため息をつき伊達は喜多村の首に腕を巻きつけ、体の力を抜く。それでもキスはしたんだなあ。言ってることとやってることが違うんだよねえ俺。合わさった胸元から喜多村の鼓動を感じる。正常値にもほどがある。伊達はこの時少しだけ、悔しいと思った。

「な、ちゅーしよ」
「さっきしたよ?」
「もっかい。俺覚えてないん」

しょうがないなあ。低い笑い声が途切れて、後ろ側のソファーにもたれ掛かった喜多村に、伊達が覆い被さる。何度も角度を変えて重なり、軽く、そして深く。キスが上手い、そう言われている自分でも、喜多村のキスは独特で嫌いじゃないと思う。ぶっきらぼうだが熱く退かず、どこまでも追い詰められ貪られる感覚。えっと息継ぎって何だっけ。朦朧とする頭でそんなことを考えながら。離れた後に息が上がるのは、決まって自分のほうだ。

「な千弦、勃った?」
「ん?全然かなあ」

なにそのスン顔。言葉通り、伊達と触れ合ったその部分はまったくの平静である。鎮静。チンだけに。ますます悔しさアップの伊達は、喜多村の髪を鷲掴み耳元に囁く。

「…ねこれ   していい?」
「だめ」

えー…。しょんぼりと喜多村から離れ、改めてコタツに潜り込む伊達の脇を掴み、思い切り擽って七転八倒させ、倒れたところに乗り上げた喜多村は、不敵に笑って言った。

「鬼丸がいいって言ったらね」

それ一番たっかいハードルよねえ。喜多村が差し出したビールを面倒くさそうに受け取る。上半身を起こして口付けたビールの飲み口が、ちょっとだけ温く感じられた。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?