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Smashing! 佐久間イヌネコ病院

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佐久間鬼丸獣医師(受)と喜多村千弦動物看護士(攻)とその友人達のお話。 どうぞお楽しみ下さい!
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2021年7月の記事一覧

smashing! あいつらのやっばいトリセツ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。 土曜は午後から休診。 忙しい、そういう時は本当に患畜が沢山やってきて時間的に押すとか、物理的なことを言うのだが、なんとなく忙しない、なんか時間がない、そんな抽象的なだけの「忙しい」も、年に数度はあったりする。 佐久間は朝から謎の「忙しい」状態で、いつにも増してうろうろと動き回っていた。動いてはいるがかえって邪魔だったり、せっかく揃えたファイルの束を軒並み崩してしまったり。心此処にあらずなの?そうは言っても本

SS/おもいでのおれ⑦・了 →設楽泰司

「お寿司屋さんみたいな名前だね」 初対面、俺は2コ下の後輩・設楽泰司にそう言ったっけな。 設楽たいちゃんは、クールで頼りがいのある自称スーパーコンシェルジュ。 ーーーーーーーーーーーーーー 俺は数人しか居ない「シネマ鑑賞同好会」とかいうのに所属してて、それでも全然人来ないからって好き勝手に活動してた。大体DVD観てたり、供養用の千羽鶴折ったり、撮りためた画像データをプリントアウトしたり。携帯やなんかのデータ飛んで台無しにしてからは、俺はなるべく写真に起こしてアルバムで

SS/おもいでのおれ⑥ →雲母春己

結城卓と付き合いだしてから、小越優羽は初めて結城の友人を交えて会った。 それが雲母春己。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 卓と付き合うようになって、初めて外で待ち合わせた時。卓の隣にはハルさんが座っていたんだ。そりゃいろんなことが頭を過ぎった。すごい綺麗な…え誰?元カレ?今カレ?ご家族?結局そのどれでもなかったんだけど、ハルさんは動揺する俺を見て、優雅に立ち上がって会釈をした。 「優羽くん?初めまして。僕は卓くんのお友達なんですよ」 「この子、ハルちゃん。この

SS/おもいでのおれ⑤ →伊達雅宗

佐久間鬼丸と喜多村千弦の先輩で、飄々としてて掴み所がなくて、焦げ茶の癖毛が鬼丸みたいで。考えてることが読めない人。最初はそんな風に思ってた。 まさか俺の昔からの友人である雲母春己・ハルちゃんをこんな短期間でかっ攫っていくとは。なにエンゲージ交換したって(うっわ聞きたいそれ)全然想像もしてなかったし。皆と一緒に呑んだりどっか行ったりすることも増えてくると、すごく後輩思いで優しいんだな、そう思えるようになった。本当は俺のほうが少し年上なんだけど、この、伊達くんは俺と優羽のこ

SS/おもいでのおれ④ →小越優羽

佐久間鬼丸と結城卓は仲が良い。 鬼丸が俺と付き合う少し前からの間柄。二人にしかわかんないこともあるみたいで、ちょっと遠出の買い物なんかに出掛けたりしてる。今日は朝から卓が運転してくれるから、どこそこのなになにに行ってくるよ。毎度鬼丸のお留守情報は「鬼丸がいない」以外に俺の頭にはなんも残らない。 今より少し前、あいつらと知り合った頃のこと。 今日は一人だから久々にカップ麵とか食べようかな。一体いつぶりなのか覚えてないけど、ウチの食料庫にはちょっとだけ常備されてて、期限切

SS/おもいでのおれ③ →結城卓

僕は中三の時、事故で家族を亡くし「雲母春己」ただ一人になった。この世に舞い戻ったとは言え無傷では済まなかったから、それから数年は病院とリハビリの毎日。それでも治療だけに専念できたのは外でもない。父の旧友だった弁護士・白河夏己先生が僕の後見人になって下さったからだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「ハールぅー…」 「駄目ですよ。間食は日に一度だけです。僕が叱られてしまいますから」 白河先生の弁護士事務所兼住居のマンション。高卒資格を取り大学を目指すことを決めて

SS/おもいでのおれ② →喜多村千弦

埃っぽい。ここ映画同好会だっけか、なんかの部室。人いない事多いからってつい昼寝してたら、同じゼミで顔は知ってるけど前告られたけど好みじゃない男に押さえ込まれた。あー抵抗して怪我すんのやだな、何とか穏便に…そんな事思ってたら急に開いたドア。俺の上に乗っかってたその男がいきなり引き剥がされた。 「それ、俺のなんで」 唐突だな。その青年に一瞥され、男が戦意喪失してるのが伝わってくる。背が高くて黒い髪無造作にまとめてて、何よりその切れ長の大きな目。それが部屋の中と俺達を交互に

SS/おもいでのおれ① →佐久間鬼丸

「でね、馬の癖にはふなゆすりっていうのがあって…」 「うんうん」 今日お寺に遊びに行ったら、鬼丸くんは月刊誌の付録についてた「馬のひみつ」を解説してくれた。よくクラスにいるような勝手に一人で説明しちゃうタイプじゃなくて、一生懸命コールアンドレスポンスするような感じ。興味のあるなしは別として、鬼丸くんの話はとてもわかりやすく、でもなんだかよくわかんない、けどわくわくする。説明した後には「哺乳綱奇蹄目」の載った図鑑で「馬」のページを見せてくれる。ロバもシマウマも仲間なんだそ

smashing! おれとしつけとほんのうと

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。本日は水曜につき午後は休診。 梅雨が明けた。近年稀に見るでっかい雷とゲリラ的豪雨を乗り越え、漸く喜多村の大好きな夏がやってきたのだった 病院の屋上。せめて直射日光は避けてくれと佐久間に言われている喜多村はハンギングパラソルの下、それでも上半身裸で悠々とベンチに横たわっていた。湿気も少なく爽やかで、太陽の光だけがじりじりと照りつけるこんな日は、更に夏大好きに拍車がかかる。 今日はペット用のちっさいプールをリイコ

smashing! そこはノーカンでな おれ

朝は8時過ぎに店を開け、大抵は夕方7時頃には閉める。喫茶メケメケのマスター、岸志田七星。前マスターは岸志田の叔父。彼もまた無類のコーヒー好きで、この商店街の面々が足繁く通っていたものだ。 コーヒーにも新豆・ニュークロップの時期がある。生産国によりばらつきはあるが、喫茶メケメケの常連はそれをなんとなく知っていて、この時期に入ってくる若く強い風味のコーヒーを飲みにやってくる。 この間エチオピアのいいのが入った。岸志田は数日前から合わせていた「佐久間院長謹製ブレンド」を漸く完成

smashing! ほしかったのはあなたと

ダミーを作る癖。大事な物ほど必ず用意する。物そして人であっても。もし無くしてしまってもそれなら大丈夫。だけど最後に手元に残るのはいつだって、いつも身につけていた偽物のほうだった。 しまい込んで安心していた「本物」。でも蓋を開けたらそこはいつも、 空っぽなんだ。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 「ハルちゃーん!忘れ物だいじょぶ?」 「すみませんお待たせしました。これで全部です」 佐久間イヌネコ病院から少し郊外に位置する伊達の平屋。月に数日、雲母は伊達と一緒にここに

佐久間イヌネコ病院 luv.14 鬼と傾奇

この人が 一番幸せそうで 一番楽しそうなのは 決まってこういう時な そりゃ頭身も変わるって 無事 卒・童貞 (無事、とは…) /佐久間鬼丸  伊達雅宗 ーーーーーーーーーーーーーー 佐久間イヌネコ病院 院長は裏巻きお稲荷さんが得意♡

smashing! なつのよとたわむれ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働いている佐久間イヌネコ病院。明日土曜日は午前中のみの診察。 「たまには銭湯もいいねえ…」 「あそこの食堂はさ本格的にも程があるよね」 「うん、この辺でダントツだもんな」 それは昼すぎのこと。 毎日続く蒸し暑さ。犬のリイコを洗ってやろうと喜多村は風呂に入り、彼との遊びが白熱、勢い余ってシャワー栓を破壊してしまった。よって今日から暫くは銭湯へ。修理のおっちゃんが週明けしか空きがないとかで、喜多村と佐久間は商店街の裏手、馴染みのウミノ湯

smashing! おれののぞみのよろこびよ・後

「設楽言ってた。伊達さんと…って。付き合うとかじゃないけど、とも」 伊達は黙ったまま、佐久間を見上げた。 「伊達さんはハルさんと…その…」 「…そうハルちゃん!俺はハルちゃんとエンゲージ交換したのうううう!聞く?聞く?佐久間ぁ!ハルちゃんてホントにさ…」 「…なのに、なんで設楽と」 いつもは不器用で、言いたい言葉も飲み込む佐久間の真摯なその目に浮かぶのは、怒りではない、蔑みでもない。ただそれは「何故」と伊達に問う。伊達は少し真面目に、それでも優しげな顔で、上に乗っかる佐