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smashing! あいつらのやっばいトリセツ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。
土曜は午後から休診。

忙しい、そういう時は本当に患畜が沢山やってきて時間的に押すとか、物理的なことを言うのだが、なんとなく忙しない、なんか時間がない、そんな抽象的なだけの「忙しい」も、年に数度はあったりする。

佐久間は朝から謎の「忙しい」状態で、いつにも増してうろうろと動き回っていた。動いてはいるがかえって邪魔だったり、せっかく揃えたファイルの束を軒並み崩してしまったり。心此処にあらずなの?そうは言っても本人にも分からないから始末が悪い。

「鬼丸、今日傷だらけだな」
「…なんかさあっちこっちでぶつけるんだよね…」

絆創膏やら湿布やらで、本日の佐久間は患畜からの嫌われ度NO.1臭をぷんぷんさせている。ただ幸いなことに今日は朝から雨。佐久間が「忙しい」と感じていた朝診の間も実は患畜はほとんどなく、薬やフードを購入する飼い主さん達と喜多村が談笑したり歌ったりで終わってくれた。
待合室や診察室の掃除と消毒。雨なので病院の外はざっと水で流す。いつものルーティーンをこなして今日も終了。掃除を終えた喜多村は、少し元気なさそうにソファーに座る佐久間に大きな声で言った。

「こっち来て?今から癒やしたげるから!」

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まず、佐久間は風呂に放り込まれた。喜多村に全身を洗われ浴槽に浸からされ、洗い場ではどこから仕入れてきたのか怪しげなアロマオイルで揉みほぐされる。佐久間の定番・柑橘系のアレではなく、ものすごく微かなお花の香り。なんか脳の中の別のシナプスが刺激されるよな。喜多村が笑いながら自分にも全身なすりつけている。無論チソチソにも怠らず。もったいないからね。でも洗い流しちゃうとほぼ無香。こういうのって助かるよね。

奇跡的に何もせず(!)風呂から上がった喜多村は、佐久間の髪を乾かしリビングで待つよう指示。着慣れないバスローブの合わせを気にしながらも、佐久間はソファーに座った。なんでこんなバスローブがウチにあんだろ。

「さ、ご飯持ってくるから。待ってて」

これまた喜多村のバスローブ姿がとんでもねえ。いかん。シャレならんやつだわ。なんとかセクスィー部長だか課長やん。佐久間はちょっとだけ背筋が寒くなった。いつの間に作ってくれていたのか、喜多村はトレーに肴と酒類を山ほど乗っけてリビングに戻ってくる。

院長はここに座っててね。テーブルの上はお馴染みのセッティング。ただ今日の酒器は見たことのない新しいもの。切り子細工の美しいブルーのグラス。冷やした茜霧島、佐久間の好きなズッキーニの辛味噌炒め、寄せ植えみたいにカラフルに盛られた帆立貝柱とイクラ、とびこと…カニカマ?。

「そのカニカマさ、カニカマにしとくの惜しいカニカマだからね」

カニカマ言うの多いな。アペリティフなのかこのまま居酒屋風に流れるのか、佐久間はおずおずと用意された肴に手を付ける。…まい。旨い。茜霧島も買っといてくれたんだな。軽くて香りがいい。ウチは意外にスタンダードなのいいちこくらいしか置いてないもんな。思わず零れる佐久間の笑みに、喜多村は「よっしゃ」と内心小躍り。

湿気も程よく抜けた涼しいリビング。風呂上がりにバスローブ。切り子グラスに注がれた冷えた焼酎、食べ頃の刺身、どれも身体の熱を取ってくれて涼が取れる。その筈だったのだ。

「…あのさ千弦、エアコン効いてるかな?なんか暑くない?」
「俺も。てっきり酒のせいかと思ってた……あれ?25℃って高い?もっと下げたほうが…」

…これは外的反応じゃないな。考えたくないが、佐久間の脳裏に浮かんだのは、さっきの風呂でのあの「お花オイル」。

「千弦、さっきマッサージしてくれたオイル…!!ってうっわおま…どしたそれ!」
「…うっわー…」

佐久間は向かい側の喜多村の「コ間」を見て驚愕した。おまえのジョイスティックがフルスロットルやん。何やそれマグナムハンドガン?怖い。とりあえず俺お前の見慣れたチソチソなのにすっげ怖い今。

「千弦、あのオイル…誰に貰った?」
「…雅宗先輩とハルちゃんが…とても癒やされますよ♡って…」
「あの人らの基準が壊れてる…」

そういや俺残ったやつ全部塗りたくったったわ。喜多村が力なく笑う。だけど首から下は臨戦状態も甚だしい。佐久間にもかなり使われていたせいで、バスローブの合わせがちょっと恥ずかしい感じになってる。

「…俺、ちょっとここ片付けるわ。鬼丸はさ…」
「わかった、その間に準備する(きっぱり)」

照れるとか恥じらうとかこの際もうええわ。佐久間はもはやバスローブを脱ぎ捨て(暑いから)、全裸で浴室方面に向かっていった。なんて漢らしい。上気した肌にぷりぷり小尻キューツ。恥じらいを捨てた鬼丸も実にいい。ここで普段なら速攻押し倒して…なのだが、喜多村はそーっとそーっと静かに、極力己に刺激を与えないよう食器類を片付け始めた。喜多村の喜多村が、今何かしらの振動を与えたら超ビッグバンが免れないからだ。一回出しといた方がラクかなとも考えたが、敢えてそのままにした。何故なら。

一回でも出してみろ、そんなもん魔神降臨じゃ済まんだろ。超暗黒魔神化だろ。あいつを抱き潰す自信しかもうないぞ。どこもかもパッツンパッツンだぞどうすんだこれ。震える手でシンクに食器類を運ぶ。既に正気を失いかけている喜多村は、リビングの向こうで自分に呼びかける佐久間の声を耳にした途端。

ぶつり、と意識が途絶えたのだった。

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数日後。

伊達「え!あれ数滴でいいんよ !? お前らバカなの !?」






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