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SS/おもいでのおれ④ →小越優羽

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佐久間鬼丸と結城卓は仲が良い。
鬼丸が俺と付き合う少し前からの間柄。二人にしかわかんないこともあるみたいで、ちょっと遠出の買い物なんかに出掛けたりしてる。今日は朝から卓が運転してくれるから、どこそこのなになにに行ってくるよ。毎度鬼丸のお留守情報は「鬼丸がいない」以外に俺の頭にはなんも残らない。

今より少し前、あいつらと知り合った頃のこと。


今日は一人だから久々にカップ麵とか食べようかな。一体いつぶりなのか覚えてないけど、ウチの食料庫にはちょっとだけ常備されてて、期限切れの前に二人で片付けたりしたいな、と思っていたやつ(一緒に住んでまだそんな年数経ってないわけですよまだまだシコシコいシンコンなんではいシコ)

あちこちごそごそ探してたら玄関からカウベルの音。はいはいはい言いながらドア開けると、そこにいたのは結城卓の彼ぴ、小越優羽。

「あれ優羽、ソロ珍しいね?」
「ねえねえ千弦さんあのさ、これ一緒にやってくれない?」

優羽の持ってきたトートには、なにやら保冷ケース入りお弁当?とゲームソフト。優羽はウチの冷蔵庫にお弁当をしまうと、リビングでゲーム機のセッティングを始めた。若いせいかな、配線を扱う手先に迷いがない。若いせいかな(二度)

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「…優羽これ無理だわ、釣れるやついないって…」
「俺の友達が目の前で釣ったんですよ…できる筈なんだよね…」

釣りゲー裏マニアック攻略。二人してアップされてる攻略動画見たりしたけどいまいちコツが掴めない。
そして、何度も挑戦しているうちに見つけた「綻び」。どんなゲームにも「穴」は存在する。それがたとえ針の穴以下であっても、ゲーマーにはとんでもなく広大なオアシスへのゲートになる。
優羽が漸く釣り上げたのは「リュウグウノツカイ」。グラフィックの粋を凝らした虹色に輝く鱗が、途方もなく美しかった。王冠マークもいっぱいついてるし。てか攻略した後の開放感な。ここリビングだしけっこう冷や汗もかいちゃったけど、本気で水遊びした気分だ。

優羽の持ってきた「お昼ご飯」はお手製サンドウィッチ。あの四捨五入するとアラフォーの美しき男(の娘)をその腕に擁する若きスパダリは、けっこうお料理上手でもある。ハムとキュウリとスライスチーズ、とカニカマ。ちゃんと水分も切ってある。しかも和えた辛子マヨのうんまい事。
悠々自適な身とは言え、中々に忙しくしている卓のために色々やっているのだという。気に入るとそればっかり食べちゃうから。どっかの鬼丸かあちゃんみたいに世話焼きの優羽は、それでもすごく幸せそうな顔してたりする。
そして、時々不思議な事を言う。

「人も水を絶やさないようにしないと、すぐしおれちゃうから」
「?すぐるんのこと?うん、あいつすげえ綺麗だもんな」

優羽はまるで木々や植物に対峙するように、俺ら一人一人に丁寧に向き合う。この庭師の彼はまだまだ底知れない能力を持ち、あと、人に対する立ち回りを、誰よりも心得ている。相手は隅々まで世話を焼かれるその快さに、見えない蔓や花を天へと伸ばしていけるのだろう。

じゃあ、俺は?俺は?
そしたら優羽が嬉しそうに笑いながら。

「千弦さんは俺とおんなじで、整えて回らないといけない側なんだ」


まずは鬼丸さんから、ね。




喜多村千弦

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佐久間イヌネコ病院

院長。蓮の水鉢が綺麗だったので
玄関の脇に設置しようとしたら
リイコ(犬)がプールだと思って…その…

仕切り直し




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