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SS/おもいでのおれ⑤ →伊達雅宗

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佐久間鬼丸と喜多村千弦の先輩で、飄々としてて掴み所がなくて、焦げ茶の癖毛が鬼丸みたいで。考えてることが読めない人。最初はそんな風に思ってた。

まさか俺の昔からの友人である雲母春己・ハルちゃんをこんな短期間でかっ攫っていくとは。なにエンゲージ交換したって(うっわ聞きたいそれ)全然想像もしてなかったし。皆と一緒に呑んだりどっか行ったりすることも増えてくると、すごく後輩思いで優しいんだな、そう思えるようになった。本当は俺のほうが少し年上なんだけど、この、伊達くんは俺と優羽のことを「ちっちゃいものクラブ」と言ってすごく可愛がってくれてる。子供のようにではなく、それこそ小さき者を愛でる古の王のように。

俺はあの二人の先輩、伊達雅宗くんが気に入ってる。

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「ねえねえすぐるん、俺の試作品食べてほしいん」
「伊達くんさこないだのプリンすごい美味しかったけど、俺そろそろしょっぱいものクラブに昇格したい」
「大丈夫。今日のはね…タコ♡」
「…タコ…♡」

鬼丸の家でなんか留守番してた俺達。そこで伊達くんがご飯作ってくれた。キムチで漬けたタコをカラッと揚げた逸品でございます。衣にも一味が振ってあるんよ。この伊達くんは、ちょっとしたおつまみ系からケーキの類いまで何でも作れちゃう。便利。この大学関係者全て便利。なんで全員料理上手いんだろ。ウチの優羽もかなり美味しいの作ってくれるけど、何か修行してました感が半端ない。

前それとなく聞いたら…鬼丸は「お寺で大人数の手伝ってた」千弦は「家政夫さんに教わった」そんでこの伊達くんは。

「ああ、付き合ってたやつの見て覚えたり、バイトしてたりしたんよ」

付き合ってたやつからのラーニング。バイトしてたケーキ屋さんのパティシエもいたからお菓子得意なんだ、とか言うし。何でもかんでも涼しい顔で自分のものにしちゃうタイプか。プレイヤースキルが高くないと出来ない技だ。って、優羽が言ってた。

タコ唐美味しい。そんで付け合わせの…何だろうこれ、新ショウガが揚げてあるうっわ美味し。そんでパスタも短くしてあって食べやすい。すぐるんは日本酒すき?答えてないけどなんか日本酒も出てきたよ。ガラスの可愛い酒器。あ、金魚♡

「こんどはさ優羽くんも来て欲しいん。俺張り切るよ更に」
「伊達くん、ちっさいの好きなんだね」
「ちっさいのも、大っきいのも、俺、皆好きよ?」

人懐こい、とはまた違うけど、前に鬼丸たちが「あの人はパーソナルスペースがバグってる」口揃えて言ってた。伊達くんって、一旦懐に入っちゃうと、もう乗っかるわくっつくわチューしてくるわ…何も気にしなくなる。おかげでこっちも。こんな風に距離詰めてこられたらあのハルちゃんも墜ちるわ。あの子はグイグイ系に免疫ないらしいのと、何より「人のものにされる」のを嫌う。ひょっとしてその辺が、この伊達くんとの共通項なのかな。

頼むから、泣かしてくれるなよ。陳腐な言葉なんかで片付けたくないけど、大事な友人を託すのなら、いいかげんな奴は御免なんだ。ただそんなのは俺の勝手な言い分でしかない、それも分かった上で。
人を好きになって、上手くいかなくて疲れた顔して、それでも僕は大丈夫です、だなんてもう言わせたくない。あの子に一人は似合わない。ハルちゃんにはお腹がよじれるくらいに、誰かの傍らでこの先もずっと笑ってて欲しいんだ。

だから、伊達くん。あんたなら大丈夫かもしれないな。これは俺の勘だけど、伊達くんは奔放だから、愛されることには慣れてる。でもきっと、愛することには不慣れなんじゃないかなって感じるんだ。ハルちゃんを懐に入れた時から、ずっとその「不慣れな思い」を抱えて生きてく。それを選んだ。

だからきっと今まで以上に臆病になっちゃうよ?自分でもびっくりするくらいに、暗闇を怖がる子供みたいに、自分の中に、いもしない敵を作り出しては戦うしかなくなる。ほんと、笑っちゃう。


分かるんだよね。
俺も、おんなじだから。


結城卓

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佐久間イヌネコ病院

魔神、謎のメモ
「もう少し増やしたい」




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