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SS/おもいでのおれ② →喜多村千弦


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埃っぽい。ここ映画同好会だっけか、なんかの部室。人いない事多いからってつい昼寝してたら、同じゼミで顔は知ってるけど前告られたけど好みじゃない男に押さえ込まれた。あー抵抗して怪我すんのやだな、何とか穏便に…そんな事思ってたら急に開いたドア。俺の上に乗っかってたその男がいきなり引き剥がされた。

「それ、俺のなんで」

唐突だな。その青年に一瞥され、男が戦意喪失してるのが伝わってくる。背が高くて黒い髪無造作にまとめてて、何よりその切れ長の大きな目。それが部屋の中と俺達を交互に見やる。すっげこんな美形一回会ったら絶対忘れないって。でも見たことない…ひょっとして1年かな?

「立てる?ここ出るよ」

青年は俺の手引っ張って起こして、茫然と立ちすくむ男を見据える。

「お前、伊達さんと付き合ってんのか」
「そう “伊達さん” と」
「うそつけ。見たことないぞお前なんか」

次の瞬間、青年の腕が俺を引き寄せ、あっという間に唇を塞がれる。ま、待て待て待ってねえお願い…まっ…♡…… 誰かにキスされてこんな焦ったの初めてかも知れない、ていうか、こいつのキスはぶっきらぼうでじゃれてくる子犬みたいなのに、触れ合ったとこから鋭い牙で食いちぎられるような、危機的状況に似た感覚が背筋を走る。え猛獣?気付いたらすっかり骨抜きにされて、こいつに支えられて立ってるのがやっととか。

「ね?付き合ってんのよ俺ら」
「そんなん信じられねえって。てか下の名前は言えるのかよ」
「…まさむね?」

男は暫くの間青年を睨み付けていたが、やがて悔しそうに項垂る。そして乱暴に戸を開け部室を出て行った。

「いきなりすいませんでした。ああでもしないと難しいかなって」
「…うん、ごめんな逆に。でもよく知ってたねぇ俺の名前…」
「ああ、伊達っていったら “まさむね” かなって」
「…そっか。てか、度胸あんねぇお前」

せっかくだからさ飯奢らせて?そしたら、そんなつもりじゃなかったし。無事でよかったですね。その返し。こんな高身長で髪ツヤッツヤで、すげ綺麗。そんで「俺」に何の興味も示さないあたり。正直どストライクなんだよね。そういうのを振り向かせるのが好きなんで、俄然謎のやる気湧いてくるわ俺。

「…じゃあお願い。飯一緒してほしいん」
「アハハ…んじゃ、喜んで」

そういや抱き締められたまんま。目の前、丁度胸元に耳当てると動悸が全くの正常値。あんなキス俺に食らわせといてしかもゼロ距離で、逆にすげえなと思う。しかもこれ後輩だよねウチの。ところでお前さ、キスすげえ迫力あってなんか慣れてない?ああ、俺ん家のパ…父さんかなりスキンシップ過多なんで。

「先輩のさ “まさむね” って、あの武将とおんなじ?」
「一字違うん。 “みやび” て書くんよ」
「…ふーん…先輩らしいね、なんか」

じゃ飯食いにいきますか。うっわこのシチュでその顔で言うか爽やかだなぁおい。ところでお前なんていうお名前なの?

喜多村千弦。よろしく「雅宗先輩」。


冷静に俺を扱ってくれるやつ大好き。ますます大好物の予感しかしない。あ、キスの気持ちいとこ、また増えた!




伊達雅宗

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佐久間イヌネコ病院

でも付き合うとかはしないって
年頃かねえ


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