SS/おもいでのおれ①　→佐久間鬼丸

「でね、馬の癖にはふなゆすりっていうのがあって…」
「うんうん」

今日お寺に遊びに行ったら、鬼丸くんは月刊誌の付録についてた「馬のひみつ」を解説してくれた。よくクラスにいるような勝手に一人で説明しちゃうタイプじゃなくて、一生懸命コールアンドレスポンスするような感じ。興味のあるなしは別として、鬼丸くんの話はとてもわかりやすく、でもなんだかよくわかんない、けどわくわくする。説明した後には「哺乳綱奇蹄目」の載った図鑑で「馬」のページを見せてくれる。ロバもシマウマも仲間なんだそうだ。俺がびっくりしてると、とても嬉しそうな顔をする。
鬼丸くんは俺より7つ下。来年から小学生だね、そういうとちょっと浮かない表情になる。友達出来るから大丈夫。すると鬼丸くんは決まって言うんだ。

「ママちゃんがいるから、友達はいいや」

鬼丸くんは人見知りだけど、色んな子と仲良く出来る性格なので、俺は特に心配はしてない。でも鬼丸くんのことを悪く言ったり、仲間はずれにする奴は少なからずいたから、そんなときはよく俺が出張って鬼丸くんを庇う。そのうち高学年になったりしたら言葉だけじゃ通じなくなっちゃうかもな。今はまだいいけれど。

「鬼丸くんは俺が護ってあげるね」

ふたりで笑って、そのうちクジャクのジャックが真っ白な尾羽根を目一杯広げてやって来る。俺達に見せてくれてるのかな、そう言うと鬼丸くんがこっそり耳打ちしてくる。

「ジャックは、大好きだって言ってるんだよ」
「誰を？」
「俺か、ママちゃんのこと」

あれが、どちらに向けての求愛のダンスなのか結局分からずじまいだったけど、今ならジャックの気持ちが分かる気がする。大好きな人には一番いいとこ見せたいもん。男なら。

俺の一番いいとこ。
世界一ラブリーでハッピーなアバターを、君のために造ってあげられるとこ、かな。

真々部千秋

ーーーーーーーーーーーーーー
佐久間イヌネコ病院
リイコ脱走→公園一周
人参持って　無事帰還