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smashing! おれとしつけとほんのうと

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働く佐久間イヌネコ病院。本日は水曜につき午後は休診。


梅雨が明けた。近年稀に見るでっかい雷とゲリラ的豪雨を乗り越え、漸く喜多村の大好きな夏がやってきたのだった
病院の屋上。せめて直射日光は避けてくれと佐久間に言われている喜多村はハンギングパラソルの下、それでも上半身裸で悠々とベンチに横たわっていた。湿気も少なく爽やかで、太陽の光だけがじりじりと照りつけるこんな日は、更に夏大好きに拍車がかかる。

今日はペット用のちっさいプールをリイコにと出してやり、同じくパラソルの下、リイコをプールに入れてやる。足先だけ中に浸してくる喜多村に少しだけ迷惑そうに、それでも水遊びは気に入ったと見えて、リイコは延々と水の中を掘って(?)いる。何かの漫画でもあったけどさ、なんでワンちゃんて延々プールの底を掘り続けるんだろ。

「千弦、ご飯にしよ」

屋上といえば飯。そんな暗黙の了解。だいぶ絆創膏の減った佐久間の顔面。先日の夜。商店街裏でのアオカン未遂時、足を滑らせた喜多村を庇い自販機に激突して負傷。あとは鼻の頭とほっぺただけ。痛々しいその傷跡も、喜多村の献身的看護によりほとんど残らないくらいに回復してくれた。鼻折れなくてよかったほんと。

今日は冷やしうどん。佐久間の実家のほうだと「ころうどん」とも言う。大きなガラスのボールには大量の五島うどん。佐久間特製あごだしつゆ。辛味大根おろし。そして二人の好きな九条葱をたっぷり。ささみ揚げた鶏天も。

「あとでスイカもあるよっ伊達さんがくれたやつ。設楽んとこの」
「設楽んとこのばあちゃんのやつな!あんな甘くて旨いのに、農家じゃないってとこがすごいわ」

ベンチに並んで、うどんを黙々と食べる。茹でただけのうどんとささみをリイコのごはんボウルにも入れてやると、ちょっとづつ味わうみたいに嬉しそうに食べた。

いい具合の暑さになってきた。喜多村がパラソルの端から太陽を仰いだ。食器を片付けようと佐久間が席を立つ。喜多村は長々とベンチに横になった。無駄な肉のない綺麗な腹筋だけど、お腹いっぱいの時はぽこっと出ちゃうんね。佐久間がそっと腹を撫でると「いやぁん♡」なんかあの人思い出すわ的な高い声上げて笑った。
喜多村の項から胸元に光る汗。気持ちよさそうに閉じられた瞼の彫りの深い影。見とれていた佐久間がふと我に返り、慌てて食器を手に階下へと急ぐ。後ろからびしゃびしゃのリイコが付いていってて、うわお前ちょっと待って拭くから待って!佐久間の声が空しく響く。

うん…あの焦って目をそらす仕草が俺は一番好きだな。フンッと鼻息を荒げ、喜多村は佐久間の後を追い内階段を下る。きっと今リイコ拭くタオル探して洗面所にいる。そんな佐久間を後ろから羽交い締めにして、いっそ昼だけど風呂場にもつれこんでやろうかな。有無を言わせずシャワー全開でぶっかけたら即諦めちゃうだろうから。そんで言うんだろうな。

(妄想)「 千弦はしかたないなあ…♡」
(ガチ)「あーもお千弦はあああ!あかんてリイコ先リイコ先やって!風邪ひいてまうがんあいつ!」

あ、妄想とかなり違った。出鼻挫かれても気にしない。だってまだ持ちネタあるもん。全く動じない喜多村の襟足を掴み、佐久間が鼻先間近で囁く。

「…待て、が出来たらご褒美な」

エロなんとかが降臨する予感だけどご主人の命令は絶対。喜多村は厳しく引き締まった顔とは真逆なアゲアゲなチソチソそのまま、「待て」の解除のその時を今か今かと待ちわびるのだった。



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