見出し画像

smashing! なつのよとたわむれ

佐久間鬼丸獣医師と喜多村千弦動物看護士が働いている佐久間イヌネコ病院。明日土曜日は午前中のみの診察。


「たまには銭湯もいいねえ…」
「あそこの食堂はさ本格的にも程があるよね」
「うん、この辺でダントツだもんな」

それは昼すぎのこと。
毎日続く蒸し暑さ。犬のリイコを洗ってやろうと喜多村は風呂に入り、彼との遊びが白熱、勢い余ってシャワー栓を破壊してしまった。よって今日から暫くは銭湯へ。修理のおっちゃんが週明けしか空きがないとかで、喜多村と佐久間は商店街の裏手、馴染みのウミノ湯へ通うことになったのだ。

今日も銭湯の主人「マミたま」こと羽海野真弓と入浴後楽しく呑み、お勧めの魚介(今日は岩牡蠣とトビウオ)を堪能し、終い湯ギリまで居座った。二人が銭湯を出た頃、商店街はもう人気も少なく、アーケードには二人の下駄の音がカラコロと響くのみ。

並んで歩く佐久間の手を、喜多村がそっと握る。人が少ないと普段よりも更に堂々とできるな。涼やかな目元でくしゃっと笑いながら、喜多村は佐久間の髪に口づける。恋人繋ぎなんてこの時期暑いっちゃ暑いが、夜半を過ぎているせいか夜風も心地よく、浴衣代わりの甚平も手伝って涼しく感じる。

こんな時間の交差点、でもとりあえず信号は守る。不意に喜多村が軽いキスを仕掛ける。人目忍んで触れ合わせた唇は、夜風で少しだけ冷たくて。青信号、手を引かれるまま民家の続くその先、薄暗い路地裏で再び合わさる。いつもならひどく照れて逃げを打つ佐久間は、酔いもしない酒のせいもあるのかされるがままで、今時珍しくチカチカと瞬く白熱電球が、佐久間の視界の先、喜多村の目の奥で揺らめく。いつもみたいに、けれど少し余裕を無くしたキスは、佐久間の脚の間に入り込む身体を密着させるだけでは足りなくなる。

「…珍しいね、鬼丸がこんなん」
「……千弦相手なら普通だ」
「ね、俺とさ…」

雅宗先輩どっちがキスうまい?喜多村の低く囁くその響きに、佐久間の喉が鳴る。巻き付けた腕、脚を絡め距離を更に詰めて。喜多村の喉仏を軽く噛んで佐久間が呟く。

よく覚えてない、からさ…

息を荒げ押しつけられる喜多村の昂ぶりに、佐久間はきつく目を閉じる。こんな路地裏でこんなことしてて、誰かに見つかりでもしたら。そんな危機感も今はただの煽りにしかならない。


抑えられない熱を抱えた、そんな、夏の夜。





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?