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SS/おもいでのおれ⑥ →雲母春己

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結城卓と付き合いだしてから、小越優羽は初めて結城の友人を交えて会った。
それが雲母春己。

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卓と付き合うようになって、初めて外で待ち合わせた時。卓の隣にはハルさんが座っていたんだ。そりゃいろんなことが頭を過ぎった。すごい綺麗な…え誰?元カレ?今カレ?ご家族?結局そのどれでもなかったんだけど、ハルさんは動揺する俺を見て、優雅に立ち上がって会釈をした。

「優羽くん?初めまして。僕は卓くんのお友達なんですよ」
「この子、ハルちゃん。このあたりでお仕事だったから、一緒にご飯食べようってなったの」
「…えっと卓、ハルさんも、俺邪魔じゃ…」
「いていいに決まってるでしょ!てかちゃんと待ち合わせしたじゃん!」

卓が席を移動して、俺の隣に陣取る。狭。そんなくっついたらご飯食べづらいよ。食べづらいなら俺があーんしてやるし!怒ってんのか泣いてんのかわかんない顔で卓が捲し立てる。そういえば俺、この「結城卓」がどんな性格なのかとか、何も知らないまま…っちゃったんだよね。初対面で。

「ンフ。仲良しですね、結城さん」
「もうさ卓にしようよ…ハルちゃん」
「すみませんどうしても昔の癖で」

ハルさんはじゃれる卓を見てとても嬉しそう。でも変だな、どことなく淋しそうにも見える。ハルさんの指先がアイスコーヒーのストローを繰る。長くてすらっとした指だ。爪もピカピカで健康な色。すごく背が高いのに気圧されることもなく、細くて向こう側が透けてしまいそう。でも全然儚げに見えないのは、かっちりした眼鏡の、レンズに遮られた奥。切れ長の大きな目に深い存在感があるからだ。「厳しい」でもなく「拒否」とも違う。どこか冷静で、底知れない何かを感じる。
ああ、これ、俺は知っている気がする。

「庭」だ。何度も足を運んであちこちに手を入れて、思うように整えることが出来た木々の枝振りは、向き合うごとにどこかしら優しい懐かしい雰囲気を湛える。つまりは「庭」の中に、入ることを許される。
ハルさんの感じ。まるで初見の「庭」そのものだ。

「ハルさん、どんなお花が好き?俺、庭師なんです」

まずは歩み寄る。自分を無にして出方を見る。ハルさんは少し戸惑いながら、首を傾げ考えている。

「…そうですね、香りの良いお花…」

一生懸命言葉を選んで、自分には敵意がないことを伝えようとしているのだろう。大丈夫。ハルさんに敵意がないのは分かる。でも俺がどういう人間なのかを理解したい、感じ取りたいと思ってるんだよね。

「じゃあこんど、俺のおすすめのお花。ハルさんにプレゼントしますね?」

その時は卓に渡しときますから。俺は卓の手を緩く握った。大人しく話を聞いていた卓は、嬉しそうに笑ってその手を握り返す。

「…ね優羽、ハルちゃん見てどんな感じする?」
「うん、そうだな…あっあんな感じの…」

指差したのは丁度、ウィンドゥの向こう側。フラワーショップの店先、ショーケースの中に並ぶ花束。その中でも、目立たないように後ろ側に、でもその大輪の形の美しさの際立つ、少々変わった黒赤カラーのバラ。

「あれは…ハイブリッドティー種てやつなんだけど、その中のね」

「ブラックティー」あの色と香りが、なんか、ハルさんみたいなんだ。そう呟いたら、僕のほうこそ、よろしくお願いしますね?優羽くん。ハルさんの目がゆっくりと見開かれて、そして安心したように微笑んだ。
あ、やっと庭に入れてくれたな、そう思ったんだ。この人も、心の中に「庭」を持ってるんだ。この感じ。


ヒトであってヒトでない。類は友を呼ぶんだね。





小越優羽

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佐久間イヌネコ病院

シューマイ凝ると
ギョーザに変化するんよ(どくがん竜)


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