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バッテリー上がり

暑い暑い
暑すぎて
力が出ない
いや
そうじゃなくて
君のせいでしょ
君は朝から上の空
職場に着いても
しばらくぼんやりしてたでしょ
ミラーでどうにか髪整えて
鍵刺したまま行っちゃったでしょ
おかげでカンカン照りの中
こらえて段々冥途ゆき
もうちょっと早く気づいたら
もうちょっと君に力があったら
へたばんなくて済んだのに
僕は路傍のバイクになった
君はまた
鍵刺したまま行っちゃった

そのうちに、
wwwwwwwwwwwwww
道端の草に包まれた。
wwwwwwwwwwwwww
ああこれは君がよく眺めてた廃墟写真。
退廃美を纏った僕を君は見てくれるだろうか。
wwwwwwwwwwwwww

wwwwwww
あれから何年経ったのか、傍らに気配を感じる。
もはや僕のたてがみとなった、草の隙間から見上げれば、首のない女。
腕を振り回して何かを伝えたがっている。
wwwwwww

私はバイク入道の一人娘
父さんのバイクで
勝手に出かけたのがばれて
外出禁止食らったところを
家出をして来ちゃったの
私とあなた
これからずっと
地平線を
追いかけ
追いこし
どこまでも

wwwwwww
これはいい加減どこかへ行きたい僕の創作だ。
女は周りにはびこる薮を、鉈で薙ぎ払っているだけだった。
wwwwwww

女はどうにか僕に刺さる鍵を見つけて、シートを開けた。
その中のヘルメットを取り出した。
僕は女がヘルメットを見つけた時に、息を飲んだのがわかったんだ。
それは喜びだ。
ヘルメットを被っていれば首なしとは分からない。
女は新鮮な重みを楽しむかのように、右や左と頭を振ったり、両手で頭の感触をぺたぺたといつまでも確認していた。
そうして立ち去りかける。
あ、とすぐに引き返し、鍵を回しアクセルを回す。
僕はもちろん何も言えない。
どの道、スタンドを外さないとエンジンはかからないんだ。バッテリーも上がってるしね。
やっぱりねと肩をすくめて、首なしでなくなった女はどこかへ行ってしまった。

ヘルメットを付けて生きてゆくなら、バイク付きの方がいいだろうに、なんて思ったけど、営業するのも君に気が引けて、やらなかったんだよ。

また何年経ったか分からない。
僕はほとんど眠っていた。
もし。
もし。
と軽く車体を揺らされて、見ると女が立っている。
この辺りを管理する仙女だと言ってきた。
一体なんの用なんだと考えていたら、仙女は僕の考えが読めるらしい。
この一帯を庭園にするので立ち退けないかと言ってきた。
なので僕はこうなった顛末を伝えたんだ。
そうしたら仙女は申し訳なさそうに、決まりなので、選択をしてもらわなければならないんだけど。
と言って、

安いバッテリー
高いバッテリー
金の君
銀の君

の四択を出してきて選べと言う。
バッテリーは魅力的だ。
しかし君が居ないことにはどこへも行けない。
君が二択なのは大変困った。
仙女に色違いの違いはあるのかと聞いてみた。
仙女は時間だと言った。
時間?更に聞きたかったが、次の仕事があるから早くと圧をかけてくる。
それでも選べずにいると、仙女はまた来るからそれまでに決めておけと言って、どこかへ行ってしまった。
傍らに転がっている四択を、どうしたものかと考えていると、金の君がむっくり起き上がる。
とりあえずバッテリー交換しましょうか。
そう言ってシート下の工具を漁っている。
金の君にも考えは通じるのだろうか。
金の君は高いバッテリーの方を取って、交換に夢中で通じているのかよく分からない。

ああなんだ
僕はバイクじゃなかった
金のたてがみを持つ天馬だったのだ
バッテリーが上がってしまったばっかりに
うっかり自分をバイクだと思い込んでいた

これは久しぶりの電気が流れ込んできて、つい考えてしまった僕の妄想だ。
金の君は、スタンドに寄りかかりっぱなしだった僕を、地面と垂直にしスタンドを仕舞い、ブレーキレバーを握りながらアクセルをひねる。
プルルルルン
久しぶりに聴く自分のエンジン音は少し変な感じがする。
もっと勇ましかった気がしてたから、金の君に対して照れくさい気分になった。

金の君はまた僕をスタンドに寄りかからせて、銀の君を拾い上げる。
動かない銀の君は軽そうだ。
金の君は銀の君を頭にくるりと巻いた。
それは銀のヘルメットとなった。
本当はリアケースにもう一つヘルメットが入ってたんだけど。

金の君と僕は出発した。
途中仙女が運転する軽トラとすれ違った。
気付いた仙女は軽トラを止めて、窓から体を乗り出して、腕を上げながら何かを叫んでいた。
大丈夫あいつは境界線を越えられない。
金の君は言う。
でも君は選ばなくちゃならないよ。
選ばれないと私たちも越えられないんだ。
久しぶりの走行にハイになっていた僕は歌う。

金銀キラキラ君が好き
いざいざゆこう
どこまでも
さんさん太陽金の君
しぃんとお月さん銀の君
リアにはメットがもうひとつ
もひとつ足して
夕焼け朝焼けタンデムだ

金の君は大笑い。
ゲラゲラ笑いながら両足を広げるもんだから、僕はちょっとふらついて、危うくあぜ道を逸れて、わけのわからない溝に落ちるとこだったんだよ。

さようなら元の君。

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