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小中学生の目に映る社会課題~スタートアップJr.アワード②中学生の部

前回の記事に続き「スタートアップJr.アワード」決勝大会のプレゼンを見た感想を綴りたいと思います。

2回目は「中学生の部」から、印象に残ったプレゼンをご紹介します。

タバコの煙に悩みながら通学する日々

まずは、受動喫煙の問題に着目した中学2年生のNさん。
毎日、自転車で通学しているNさんは、その道中で遭遇する路上喫煙の煙に悩まされていました。

そこでNさんは路上喫煙をなくすアイデアを考えるのですが、そのプロセスが非常にすぐれています。決して声高に「路上喫煙、反対!」と叫んだり、喫煙者を悪者にするのではなく、路上喫煙が起こる背景を冷静に分析するところからスタート。喫煙者にも、非喫煙者にも寄り添ったソリューションを考案したのでした。

まずNさんは受動喫煙の現状を下記のようにリサーチ。

●屋内の原則禁煙化によって屋外での喫煙が増加
●電子タバコの普及とともに広がる「電子タバコなら無害」という誤解
●喫煙所に入れる人数が少ないため、多くの人が周辺で喫煙

次に、喫煙者たちのインサイトも調査しました。

●喫煙所が遠い(仕方なく職場の周辺などで喫煙)
●ニオイが混ざる(喫煙所では他の銘柄のニオイが気になる)
●快適な喫煙所がない(喫煙所では長居を防ぐためイスがない)

そして、これらを総合的に解決し、喫煙者と非喫煙者が共存できる社会づくりのためのアイデアとして「スモーCar」を考案。巡回バスやタクシーを喫煙者用に改造し、受動喫煙を防ぎながら喫煙者のニーズを満たそうという試みです。

ドリンクの提供や、テーブルで仕事をしながら吸えるようなアイデアも盛り込み、未成年で、かつ受動喫煙に悩まされながらも喫煙者に寄り添っている姿がとても印象的でした。

反対側の立場にいる人の行動を変えたいときは、攻撃や批判をするのではなく、相手に寄り添った方が効果的。そんなことを改めて教えてくれるプレゼンでした。


マンネリ化する避難訓練

次にご紹介するのは、日本の防災意識を上げるプロジェクトを提案した中学3年の2人組。この2人が着目したのは、学校での避難訓練でした。

おそらく誰もが学校で避難訓練を経験したと思いますが、特に何の疑問も抱かずに「今日は避難訓練か~」という感じで取り組んできた人が大半ではないでしょうか。

しかし、この2人は違いました。毎回、同じような話を聞かされ、みんなダラダラと移動するだけのマンネリ化した避難訓練に、「これ意味あるのかな?」と危機感を抱いたのです。

そして2人はこの危機感を検証するため、日本の災害の多さや家庭での防災準備率などのデータをリサーチします。さらには、避難訓練に対する意識についてクラスメートたちにも調査を実施。「正直、面倒くさい」という意見が多数を占める結果に。

「これだけ自然災害が多い国なのに防災意識が低いなんて・・・」
そして2人は、地域のスーパーマーケットをハブとした防災意識向上プロジェクトを考案します。

スーパーが被災体験者の体験談を発信する拠点となり、利用者へ意識づけ。子どもたちへ定期的にチラシや防災情報をプリントしたクリアファイルを配布し、日常的に防災を意識するきっかけを提供。地域全体で防災意識が高まり、スーパーも住民との接点が増える、というWin-Winの施策です。

アイデア自体もすぐれているのですが、このプレゼンが教えてくれるのは、「当たり前のようにやっていることに疑問を持つこと」の大切さです。

「親や先生に言われたから」「規則だから」というだけで、何気なくやっていることがあれば、時々「これって意味ある?」と疑ってみましょう。思わぬ発見があるかもしれません。

買い物難民と空き家問題

最後に紹介するのは、空き家を活用した小さいコンビニを提案した中学3年のTさん。このアイデアが生まれるきっかけとなったのは、祖父が抱える困りごとでした。

Tさんの祖父は高齢のため車はもう運転できず、最寄りのコンビニへ買い物に行くには歩いて20分もかかるそうです。いわゆる「買い物難民」です。この話を聞いて「いつでも買い物に行けるのは当たり前じゃない」と痛感したTさんは、解決の糸口を探ろうと広範なリサーチを行います。

まずTさんが発見したのは、コンビニ出店に対する法律の規制。Tさんたちが住む家は「第一種低層住居専用地域」にあり、近くにコンビニが出店できない、という問題がありました。

そこから、市内の都市計画やコンビニの数、最近になって規制緩和されたこと、しかし条件が厳しく出店が進んでいない現状など、課題の背景を次々とひも解いていきます。

調べを進めていく中で、Tさんは別の社会課題を意識するようになります。それが「空き家」でした。そして空き家問題についても、背景にあるさまざまな事情をリサーチ。その結果、「所有者の思いも叶えつつ、地域で活用させる必要性がある」と強く感じたそうです。

そして生まれたのが、「買い物難民」を救いながら「空き家問題」を解決する「空き家コンビニ」なのでした。住宅街に点在する空き家を活用して、高齢者が特に必要とする日用品を販売する、というアイデアです。

ここでもTさんはリサーチ力を存分に発揮。先述の「第一種低層住居専用地域」でも、50㎡以下で日用品を販売するなどの条件であればコンビニを出店できることを知り、アイデアが具体化したのです。

このプレゼンは2つの大切なことを教えてくれた気がします。

ひとつは、身近な人の困りごとを親身になって考えることが、新しいビジネスや取り組みにつながる、ということ。身近な人の困りごとは、実は社会全体の困りごとだったりするんですね。

もうひとつは、複数の社会課題を組み合わせると、まとめて解決できる可能性があること。Tさんの場合、「買い物難民」の解決策を考える中で「空き家」という別の課題に出会い、2つを組み合わせることでソリューションを生み出しました。

このような解決策は割と効果的で、実際の例としては「物流業界のドライバー不足」と「地方の公共交通の財政難」という2つの課題を組み合わせ、路線バスで荷物を運ぶ取り組みなどがあります。

数多くの社会課題が複雑に絡み合い、「課題先進国」とも呼ばれる日本では、複数の課題を組み合わせて新しいソリューションを生むという考え方が重要になってくると思います。そのヒントになるようなプレゼンでした。


中学生の部は全部で5人の登壇者がいましたが、残り2人のプレゼンも非常に興味深いものでした。

●生徒が全員帰った夜の学校を、大人の生涯学習やコミュニティ活動のスペースとして活用する
●学校の「クラス」を廃止し、興味のある授業を選択して受けられる単位制にすることで不登校・いじめ・教師の過度な負担などの問題を解決

今回、決勝大会でプレゼンを行った10組はもちろん、参加した子どもたち全員がすばらしい経験を積んだことと思います。その中から、いずれ世界を変えるような起業家がたくさん生まれるのを願っています。


「小学生の部」の記事はこちら


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