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ルイス・キャロルの「アリス」考察

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『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』および関連作品の考察。 作中のパズルを解く記事が中心です。
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#鏡の国のアリス

「10/6」の謎

「10/6」の謎

『不思議の国のアリス』第7章のお茶会の場面で帽子屋がかぶっている帽子には、"In this style 10/6"と書かれた札が付いています。
「10/6」の中で、6だけがやや高めに配置された特徴的なデザイン。
註釈等によると、当時の帽子の売り方で「10シリング6ペンス」という価格を示しているのだとか。

ただ、妙に具体的な数字ということもあり、作者が何かしらの仕掛けを施しているようにも思われます

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誰かが何かを

誰かが何かを

『鏡の国のアリス』第1章、鏡文字で書かれた物語詩「ジャバウォッキー」を読み終えた直後のアリスの台詞。
これには「ジャバウォッキー」を読むためのヒントが含まれています。

It seems very pretty
第1連1行目のbrilligの発音がprettyと似ていることから、解読には駄洒落も必要ですよというヒントでしょう。

but It is rather hard to understan

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『鏡の国のアリス』白の子猫の名前

『鏡の国のアリス』白の子猫の名前

『鏡の国のアリス』に登場する2匹の子猫のうち白い方の名はSnowdrop。『不思議の国のアリス』に登場したDinahの娘です。

ジョージ・マクドナルドの娘が飼っていた猫の名に由来するというのが定説で、ガードナーの『註釈付きアリス』シリーズなど多くの資料に記載されています。

今回はこの名前についての私説。

実は最近、ヴィクトリア女王が自らの結婚式で使った花束がスノードロップだけで作ったものだと

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『鏡の国のアリス』もう1つのカラスの謎々

『鏡の国のアリス』もう1つのカラスの謎々

(前回の続き)

『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』に姉妹編のパズルがいくつかあることは過去記事で述べましたが、『不思議の国のアリス』第7章で出題される「カラスと書き物机の謎々」に対応するもう1つの「カラスの謎々」が『鏡の国のアリス』第4章に隠れていたことに気付きました。



『鏡の国のアリス』第4章でアリスと双子兄弟の前に現れる巨大な鳥。

トゥイードルダムは「カラスだ!」と叫んでい

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『鏡の国のアリス』ヴォーパルの剣について

「ヴォーパル」の意味「ジャバウォックの詩」に出てくるvorpalという単語についての私説を述べます。

第3連ではvorpal sword、第5連ではvorpal bladeとありますから、形容詞扱い。

子音のvやpがいかにも強そうな響きなので、怪物退治の物語に合わせて「伝説の剣」とか「鋭い刃」とか訳したくなります。
特に破裂音のpとか、クリティカルヒットが高確率で出そうな感じですよね。

既説

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『鏡の国のアリス』逆さの箱と「桑の木回ろう」

『フィドルディディーの謎』の続きなので、未読の方はそちらを先に御覧下さい。

逆さの箱白の騎士は初登場時、おかしな形の樅の小箱を逆さに肩にくくりつけています。
箱の蓋は開きっ放し。
原文はa queer-shaped little deal boxです。(dealはここでは「樅」でしょう)

白の騎士はこれを「clothesとsandwichesを入れておくための箱だ」と説明します。

①deal

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『アリス』の謎解きレポートを終えて

ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』について、9月9日からnoteに書いていたレポートが終了しました。

「世界一有名な未解決の謎々」とも称される帽子屋の謎々への回答から始めて、1日約1話のペースで70話、よく続いたものです。

来年の2021年が『鏡の国』刊行150年ということで見切り発車気味にスタートしたのですが、予想外に新たな発見が多くて嬉しい悲鳴状態となりました。

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『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』エピローグ

『不思議の国のアリス』が求愛の暗号書、『鏡の国のアリス』が求婚の暗号書だという私の仮説はほぼ説明しました。

「キャロルはアリスに恋愛感情などは抱いていなかった」と主張する方もいるのですが、多くのパズルが相互に繋がって一つの結論に収束していくように見えるのは、決して偶然ではないと思います。

『不思議の国のアリス』の表紙は豚になった赤ん坊を抱いたアリス。
『鏡の国のアリス』の表紙はアリスと話してい

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『不思議の国のアリス』『鏡の国のアリス』Tips

今回はここまでで書いてなかった小ネタ集を思い出せる範囲で。

公爵夫人の贈り物の件公爵夫人がアリスへの贈り物として語る長い教訓。
これは二重否定やseem, mightなどを絡めた冗談ではないでしょうか。
not(not A)=Aならnot(not(not(not A)))=A、ということで「その気になればいくらでも長くできる」のかも。

英語における二重否定が文法的に「誤り」とされるのは少し前の

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『鏡の国のアリス』のチェス問題⑩(手順のルーツ)

「フィドルディディーの謎」の続きです。

詩のメイン部分(再掲)①Says the fly, says he,
②"Will you marry me,
③And live with me,
④Sweet bumble bee?"

⑤Says the bee, says she,
⑥"I'll live under your wing,
⑦And you'll never know
⑧That

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『鏡の国のアリス』フィドルディディーの謎

第9章の女王たちの試験の場面で、赤の女王が「fiddle-de-deeをフランス語で言うと?」と問います。

fiddle-de-deeで始まるマザーグースがハエとハチが結婚する話なので「結婚」を暗示しているのだろうという程度に考えていたのですが、もっと深い仕掛けがありました。

(今回の関連記事として、「マザーグースの忘れられた謎々⑨」も参照して下さい)

詩文まず、fiddle--de-dee

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『鏡の国のアリス』赤の女王の年齢は

赤の女王についての追加項目です。

『鏡の国のアリス』第9章の女王たちの試験の場面で、赤の女王がアリスに言う台詞、「この国ではたいてい昼も夜も一度に2つか3つある」は、チェス回答手順と詩の関係を示していると考えられます。
(1手=複数行とか数手=1行とか)

しかし、「私が貴女の5倍お金持ちで5倍賢いのと同じ」の方は、赤の女王が未来のアリスとすると「年齢が5倍」という意味ではないでしょうか。
(原

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『鏡の国のアリス』夢を見たのは誰

「赤の女王の正体は」からの続き。

『鏡の国のアリス』第12章のタイトルであるWhich dreamed it?への私の回答です。

この文は「夢を見たのはどちら」と訳されていることも多く、赤の王の夢かアリスの夢かという二者択一と捉えがちですが、whichで始まる疑問文は二者択一だけでなく3つ以上の中から1つを選ぶ場合にも使いますね。

赤の女王の正体が「未来から過去へ進む大人アリス」であることは

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『鏡の国のアリス』赤の女王の正体は

第9章のアリスの台詞
「イングランドの歴史上一度に1人より多くの女王がいたことなんてない」

3人いるクイーンのうち、1人がアリス、白のクイーンがヴィクトリア女王とすると、赤のクイーンは一体何者なのでしょうか。

第9章Queen Aliceの宴会は
アリスが来る前から始まっていました。
ならば宴会の主催者は?

宴会で給仕に命令を出していたのは赤の女王。その後アリスも給仕に命令を出します。

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