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『鏡の国のアリス』もう1つのカラスの謎々

(前回の続き)

『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』に姉妹編のパズルがいくつかあることは過去記事で述べましたが、『不思議の国のアリス』第7章で出題される「カラスと書き物机の謎々」に対応するもう1つの「カラスの謎々」が『鏡の国のアリス』第4章に隠れていたことに気付きました。

『鏡の国のアリス』第4章でアリスと双子兄弟の前に現れる巨大な鳥。

トゥイードルダムは「カラスcrowだ!」と叫んでいましたが、チェス解答手順や本文の文言等から正体は小夜啼鳥nightingaleだと推定されます。
(このnightingaleはチェス手順ではナイトの駒であり、1手⇔1年の対応ではフローレンス・ナイチンゲールを暗示しています)

アリスが「夜が来たのかと思った」と感想を洩らしたこの鳥が、隠れた謎々になっていたのです。

"Why is a raven like a writing-desk?"
カラスravenと書き物机はなぜ似ている?
→Like a table.
Because…
A raven sounds like a table.
A writing-desk looks like a table.
→どちらも「テーブル」に似ている。

"Why is a crow like a nightingale?"
カラスcrowと小夜啼鳥はなぜ似ている?
→Like a night.
Because…
A crow looks like a night.
A nightingale sounds like a night.
→どちらも「夜」に似ている。

カラスravenカラスcrowを並べてみせることで「似ている理由」の一方が視覚、もう一方が聴覚だということを示す。
対になったパズルが、帽子屋の謎々のヒントになる仕掛けだったのですね。
writing-deskとnightingaleの駄洒落がちと苦しい気もしますが(笑)

ちなみに、直前の第3章では
Bread-and-butter-flyが
"Twinkle, Twinkle,little bat"
の謎々のヒント、
Snap-dragon-flyが
"Jabberwocky"の謎々のヒント、
Rocking-horse-flyが
「チェス解答手順」のヒント、
…として登場しています。

作者キャロルにしてみれば、どれも「ほぼ答」みたいなものなのでしょうが、今回のカラスのヒントも含めて分かりにくいことこの上ない。
まあ、いつものことですけどね♪

ところで『鏡の国』第4章でアリスが思い浮かべる詩は、原詩のbyがdownに、bigがblackに置き換わっています。

(原詩)
Tweedledum and Tweedledee
  Agreed to have a battle,
For Tweedledum said Tweedledee
 Had spoiled his nice new rattle.

Just them flew down a monstrous crow,
 As big as tar-barrel,
Which frightened both the heroes so,
 They quite forgot their quarrel.

flew down→flew byはともかく、
as big as→as black asはタール樽というよりは「夜」を連想させます。

ルイス・キャロルは「子どもは、ほんの少しの文言の違いにも敏感に気付きます」という趣旨の発言をしていますが、このbigからblackへの変更も今回の謎々のヒントとしての意味合いがあったのかもしれません。

『鏡の国』の世界は、マザーグースの謎々詩の世界でもあります。

Mistress Mary
Tweedledum and Tweedledee
Fiddle-de-dee
Humpty Dumpty
Lion and Unicorn
Little Nancy Etticoat

一部は私の『忘れられたマザーグースの謎々』の記事で謎々と主張しているだけなので、もしかすると英語圏の人も気付いていないかもしれませんね。

まだまだ見落としがありそう。
新しい発見があったらまた書きます。

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