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『鏡の国のアリス』ヴォーパルの剣について

「ヴォーパル」の意味

「ジャバウォックの詩」に出てくるvorpalという単語についての私説を述べます。

第3連ではvorpal sword、第5連ではvorpal bladeとありますから、形容詞扱い。

子音のvやpがいかにも強そうな響きなので、怪物退治の物語に合わせて「伝説の剣」とか「鋭い刃」とか訳したくなります。
特に破裂音のpとか、クリティカルヒットが高確率で出そうな感じですよね。

既説ではカバン語と捉えることが多く、私も「vernal+hopeful」や「vow+hope+bridal」などを検討してみたのですが、結局別の技法のパズルではないかと考え始めました。

BRIDAL→VORPALという変形です。

まず、BRIDALを直線的な書体にします。

そうすると「B」の文字は、三角形を縦に2つ並べたような図形。

上の三角形に含まれるのは「V」の文字。
下の三角形は丸めて「O」に。
3文字目の「I」を右下に移動させて「D」の下にくっつければ「P」に変わります。

ハイ、BRIDALがVORPALになりました。

文字を絵に見立てて行う言葉遊びは
『不思議の国のアリス』のOWL→QUIZや
『鏡の国のアリス』のgoat→gnat等があり、マザーグースにも絵描き歌がありますから、類例無しというわけではありません。

以前の記事で述べたように、ジャバウォックの詩の第2連~第6連は謎々詩になっており、怪物ジャバウォックはクリスマスプディング(Snap-dragon-flyの描写がヒント)、ヴォーパルの剣(ヴォーパルの刃)はこれを切り分けるナイフを表しています。

また、『鏡の国のアリス』の物語全体では、プラムプディングが3回登場し、3つ合わせて英国式ウェディングケーキになるのでした。

「ヴォーパルの剣」はクリスマスプディングを切り分けるナイフであり、ウェディングケーキを切り分けるナイフでもあるのです。

従ってvorpal bladeがbridal bladeであっても筋は通るのですが、vorpalがbridalの意味を帯びるのはあくまで物語全体のスケールでの話であることを考えると、「ジャバウォックの詩」の本文中ではvorpalを「ヴォーパル」と訳しておくのが無難かもしれませんね。

私がゲームデザイナーだったら「ヴォーパルの刃」は女性専用の武器にすると思います。


『ジャバウォックの詩』異型の考察

家庭内雑誌『ミッシュマッシュ』(1855)所収の"A Stanza of Angro-Saxon Poetry"は、『鏡の国のアリス』の"Jabberwocky"第1連(第7連)と細部の表記が異なっています。

また『鏡の国のアリス』の初版ではwabeがwadeと誤って?印刷されていました。
後の版では訂正されましたが、回収はなし。

BRYLLYGとbrillig
SLYTHYとslithy
GYMBLEとgimble
YEとthe(YEのYはÞに由来→th)
wadeとwabe

これらを並べてみると、ジャバウォックの詩を解読するためのヒントになっているような気もします。
カバン語より駄洒落の方が主体ですからね。

"A Stanza of Anglo-Saxon Poetry"
TWAS BRYLLYG, AND THE SLYTHY TOVES
DID GYRE AND GYMBLE IN YE WABE:
ALL MIMSY WERE YE BOROGOVES;
AND YE MOME RATHS OUTGRABE.
 ↓
"Jabberwocky"第1連(第7連)
'Twas brillig, and the slithy toves
Did gyre and gimble in the wabe;
All mimsy were the borogoves,
And the mome raths outgrabe.
 ↓
"Ways and Means"(私の回答)
'Twas a brilliant lay that wove the
disguised gamble in a way.
All mimicry means were borrowed of the
anthem, or rather out-of-the-way.

ジャバウォックの詩は『鏡の国のアリス』の序文ではthe poem "Jabberwocky"となっていますが、『スナーク狩り』の方の序文ではthe lay of the Jabberwockです。
このlayもslithyのsli-がlayであることを示す「異型によるヒント」かもしれません。


家庭内雑誌『ミッシュマッシュ』

しかし、気になるのは『ミッシュマッシュ』の年号です。

1855年といえばAlice Liddellはまだ3歳。
「川遊び」の1862年より7年も前。

"Ways and Means"の2行目に出てくるdisguised gambleが『地下の国のアリス』(1864)や『不思議の国のアリス』(1865)のポーカーとブラックジャックを指していると考えられるのに、いくら何でも早過ぎます。

一方で、3行目~4行目のAll mimicry means were borrowed of the anthemは、「全ての言葉遊びの技法はマザーグースなどの古典から借りた」という解釈で問題なさそう。

それに、1行目のlayが『アリス』以外の物語というのも考えにくいですよね。

実は今回のBRIDAL→VORPALという回答も"A Stanza of Anglo-Saxon Poetry"の書体を眺めているうちに思いついたわけで。

となると、詩の異型に加えて書体そのものもヒントになっていたということでしょうか。

これは"A Stanza of Anglo-Saxon Poetry"を元に"Jabberwocky"第1連が作られたというより、むしろ逆のような気が・・・。

うーむ。

一応、仮説を書き付けておきます。

"A Stanza of Anglo-saxon poetry"のページは『鏡の国のアリス』(1871)の執筆中または出版後に『ミッシュマッシュ』に挿入されたものなのではないでしょうか。

「雑誌」とはいってもスクラップブック形式だったようなので、作業自体はさほど難しくなかったはず。

もしもキャロルが「パズルは解いて欲しい。だが、自分で直接答を言うべきではない」と考えていたのだとしたら、「16年前」の雑誌にこっそり異型の詩を紛れ込ませる(御丁寧に註釈まで付けて)という回りくどい方法を取っていたとしてもおかしくはありません。

おかしくはありませんが・・・。

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