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短編小説。

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#小説

ヒロイン。

ヒロイン。

憂鬱な冬の朝。
カーテンの外を見ると、ほんのり道路が白い。
起きるだけでも嫌なこの季節。
布団から出て、眠い目を擦りながら、服を着替える。
今日も何一つ変わらない1日が始まる。

いくら外に出たくなくても、僕には大学をサボらない理由があった。
そう、君に会えるから。

今日みたいに骨まで凍りそうなそんな日に僕は君を見つけた。
「おはよう~!ねぇねぇ!雪すごいきれいじゃない!?」
少し離れた席の方で

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I wanna be with...

I wanna be with...

ねぇ、あなたは今どこにいるの。
どこで何をして、今という時を過ごしているの―。

別の人の彼女になった。
あなたとは、まるでタイプの違う大人な人。
「じゃあ、今日も行ってくるよ」
「うん、いってらっしゃい」
あなたとは喧嘩ばかりの日々だったけれど、すごく余裕があって、口喧嘩すらすることがない。そんな優しい人。

「ねぇ、私のこと好き?」
「え?あぁ」
あなたといたときはこんな会話ばかりだった。

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本当はね。

せっかくの日曜日なのに今日もバイトに出てきている。
「あと2時間…」
バイトってなんでこんなに時間すぎるの遅いんだろう。
私が見ない間に誰かが時計の針止めたりしてるんじゃないかってくらい時間が進まない。早く帰ってベッドに飛び込みたい。
「いらっしゃいませぇ」
あ、待って。やばいやばい。
何を急に焦っているんだって?
だって「あの人」が来たから。
私が最近気になってる「あの人」が。
彼がレジの死角に

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Goodbye My Love

Goodbye My Love

あなたのことを想うたびに、世界が輝いて見えた。
あなたを好きになって世界が彩やかになった気がした。
いつかあなたの隣を歩くような存在に。
そんな夢が度々私を満たしていた。

***

いつも通りの時間に目覚ましが鳴る。
もう5分だけ…と思いながらも重たい体を起こして、今日の予定を頭の中で思い浮かべる。
「あぁ…動くかぁ」
かすれた声でそう呟い

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ヒカリノマチ

ヒカリノマチ

「さぁ、帰ろうか」
「ん!ちょっと寄り道して帰ろうよ」
コンビニで買い物を終えて、君といつもの帰り道を歩く。
特別近道でもなく、特別舗装されて綺麗でもないこの道でも、君と歩く道ならそれでいいと思えた。
橋から見える川の流れは今日も穏やかで、日差しを反射してキラキラと輝いている。
まるで君といる毎日のようだなんて思って、柄にもないなと笑った。

レジ袋をふらふらさせながら、2人で手を繋いで歩く。

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きみとぼくの白昼夢。(下)

きみとぼくの白昼夢。(下)

前編はこちらから。

“赤い糸”が切れてしまっても日常は続いていく。

君を失って1年が経とうとしていた。

君がいないことに絶望感を抱いていた僕だが、人間というのは残酷な生き物だ。

もう既に君の知らない僕に少しずつ変わっていっていた。

***

見たい映画ができた。
最近話題の興行収入が億を突破した作品だ。
特に誰のファンとかではないが

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きみとぼくの白昼夢。(上)

きみとぼくの白昼夢。(上)

2人を繋ぐ“赤い糸”が切れる音が聞こえた。

2人の時間が、君が他の誰かと出会う時間になっていった。

2人の日々は色褪せていった。

悪い夢を見ているようだった。
早く覚めてくれ。そう願うばかりだった。
でも夢じゃなかった。

僕は君を失った。

***

いつも通りの時間に目を覚ます。
君のもので溢れかえる部屋を見渡す。
君は

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ヘイコウセカイ。

ヘイコウセカイ。

君は先に寝てしまった。
すごく幸せそうな寝顔だ。
「ねぇ、どんな夢見てるの?」
返ってくるはずのない問いかけを君に投げかけた。
「ごめんね」
聞こえるはずのない謝罪。

「好きな人がさ、できちゃったんだ」

***

いつも通り「またね」と手を振って、君が部屋を出て行ったあと、僕は洗面所に向かった。
並んでいる青と黄色の歯ブラシに目を向ける

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雨上がりに想う君。

雨上がりに想う君。

部屋を出て一人で歩いた。
君との思い出をかき消すように、ただ何も考えず。
外はさっきまで雨が降っていて、雨上がりの独特な匂いが立ちこめている。
「雨上がりの匂いってね、ぺトリコールって言うんだよ!ギリシャ語で“石のエッセンス”って意味なんだって!」
得意げに話す君の姿が浮かんだ。
もうその姿を見ることは叶わない。

***

ケーキ屋の前を

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わたがし。

わたがし。

「ねぇ!」
女の子をデートに誘うなんて人生で初めてだった。経験が少なすぎるせいで、ただ呼ぶだけの声がものすごく大きくなってしまった。
「…なに?」
ほらみたことか。でかい声に反応した君は、すごく怪訝な表情をしている。
「あの…その…」
頑張れ、自分。言うんだ。誘うんだろ、お前の目の前の女の子を。
「僕と…夏祭り一緒に行ってくれない…?」
恐る恐る君の方を見る。
「なんだ、そんなことか。いいよ。特に

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君とカメラと花火。

君とカメラと花火。

終わった。
全てを失った気分だ。
大好きなカメラにも触りたくないくらい、喪失感にかられていた。

シャッターを切る。
そんな一瞬さえも君に使えばよかったと思えるほど大切だった君は、僕のカメラには映らないくらい遠い存在になってしまった。

***

外でなにやら大きな音がする。
「あぁ今日花火だったか」
それまではなにも頭になかったのに、急に切

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逃した魚。

逃した魚。

終わりは唐突にやってきた。
私たちが築き上げてきたはずの2年半は、あなたの一言であっけなく幕を閉じた。

***

「あのさ、別れようか」
言葉が出なかった。頭が真っ白になるとはこのことだろう。
「なんで急に?」
できるだけ重くしないようにと、笑顔を作ったつもりだけど、上手く笑えているだろうか。
「好きな人ができたんだ」
言葉が

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しあわせ。

しあわせ。

「いや!すごいだろ!」
「あははは!なにそれ!」
今日も他愛もない話で盛り上がる。あなたの隣で笑っていられるだけで幸せだった。
「あれ?次の授業なんだっけ?」
「…」
「ん?ねぇ、聞いてる?」
返事が返ってこなかったから、ふとあなたの方に目を向けた。

そこには、教室の端で女の子と笑い合う“あの子”を見つめる君がいた。

あぁ。そうか。
本当は分かってた。あなたがどれだけ“あの子”が好きなのかも。

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ワンルーム

ワンルーム

「今年の夏は、一緒に花火見に行こうか」
「いいね!行こう!」
―あの時の君の笑顔を、君との約束を、僕は果たすことができなかった。

***

僕の春は終わった。
これから始まる暑いこの季節を、君と迎えることは叶わなかった。
「もう…会うこともないのか」
君1人がいないだけなのに、部屋がものすごく広く感じた。

窓を開けた。窓

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