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チョンキンマンションのボスは知っている、を読んだ。

HONZのノンフィクション選書集で拝見し、手にした1冊。

文化人類学者の著者が、重慶大厦で独自のコミュニティを形成し逞しく生きていくタンザニアの出稼ぎブローカー”カラマ”に密着。彼らの独特のビジネ観、相互扶助の価値観を読み解いてゆく。

前半はカラマの超テキトーな性格に呆れつつ、彼らの波瀾万丈な人生を紹介。後半は文化人類学と社会学的な考察から鋭く迫る。

「ついで」が構築するセーフティネットは、厳密な互酬性や義務と責任を問わず人々がそれぞれの「ついで」でできることをする「開かれた互酬性」を基盤とすることで国境を超えて相互扶助を促進しているということ。

見知らぬ誰かの助力を容易く得ることができる、各種デジタルプラットフォームの利便性は認めつつ、個人評価の数値可視化が、参加者のレーティングを促進させ、結果的に窮屈な社会になるのでは(実際になりつつあるのでは)と著者は警鐘を鳴らしているように感じた。

たとえばメルカリを利用した後に、相手の評価を「良かった・悪かった」の二択で求められるのはなぜだろう。ギヴアンドテイクの範囲がより明確に、個対個に収斂し、白黒をつけたがるのは確かに気になる。そこには「絶対に損をしたくない」という欲求と、許容意識の矮小化が顕在化しており、未知の領域に未知性を残したまま介入することへの明らかな恐怖と、不利益を被る可能性のある存在を積極的に排除したいという願望が見え隠れする。

自分が知らない誰かの為に何かをすれば、知らない誰かが自分の為に何かをしてくれる。そんな不確実性の許される社会的な信頼貯金の仕組みが、タンザニアの人々の中には生生しく息づいていることに驚いた。

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