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けん
2023年9月19日 06:36
秋の匂いがした。白っぽい青空には、盛りを終えた入道雲がポツポツと取り残されている。少し肌寒い。 僕たちは、まだ明けきっていない暗い朝日の中をゆっくりと歩いていた。朝露に濡れたコンクリートには、黄色や赤に変色した落ち葉が所狭しと落ちている。 ー秋は嫌いよ、寂しいわ。 そのように言った鏡子の顔は、朝焼けの光のせいで暗いコントラストができている。 ぼくは秋について考える。手始めにキノコについて
2023年3月18日 23:41
夜風がとても心地よかった。春の夜空にはハラハラと星が輝いていた。星々の間には赤く点滅する孤独な光が高速で移動している。飛行機だ。それがぼくの額のずっと先を通過する時、「ゴーッ」というくぐもった轟が、ぼくを覆う夜空の天蓋を細かく振動させていた。 ぼくははるか上空を通過する飛行機を見ると、少しのあいだじっと眺めるという奇妙な癖があった。そして、ぼくは飛行機に乗る彼らの一人一人について想う。
2023年3月18日 23:40
卒業する先輩方に捧ぐ ぼくは川の流れを見ていた。川の流れは多くの落ち葉をも流していた。顔を持たない多くの落ち葉がぼくの下を通過し、またその全ての落ち葉が二度と戻ってくることはなかった。 ギイギイ、ギイギイ。何を想う?ああ、寂しいのだ。ぼくは水面に揺らぐぼく自身の影を見つめる。川の水は月の光に照らされてわずかに白く濁っている。 その時だった。水面に白く光る幾つかの何かがうつった。それは小
2023年3月9日 13:34
風が吹いていた。 オレンジの木から親指の爪くらいの大きさの茶色く腐食した小さなオレンジが落ちるのを目撃した。 「ボトッ」というくぐもった音と共に僕はしばらくのあいだ動けなくなってしまった。 なぜなら、周りでそれを見ていた血色の良い無数のオレンジたちは、春の柔らかい日差しの中でイキイキとその身体を曝け出していたからだ。 落下したオレンジは誰にも気づかれずにコンクリートの隅にに打ち捨
2023年2月20日 18:48
電車の車窓から夕陽がみえた氷河のような白い雲に陽光が反射してきれいだったこの氷河がぜんぶ溶けてみんなめちゃくちゃにしちゃうような大洪水を起こしてしまえばいいだがしばらくすると雲は暗い鈍色となって霧散してしまったそこでぼくは、また明日も少しずつ生きていこうと思った
2023年2月19日 00:00
夜遅くに家に帰るといつも父が起きていて、よく食事を用意してくれる。ぼくにはその愛情が鬱陶しかった。きっと母でも同じように思っていただろう。なぜならべつに父が特別嫌いというわけではないのだから。 11時を過ぎて帰宅し、リビングでゆっくりしていると、父は「おかえり」と声をかけてきて、続いて必ず「ご飯は?」と聞く。ぼくは冷徹に「いらない」と答えたい。どうしても鬱陶しい、この面倒臭さを今すぐに払い除
2023年2月6日 18:19
また熱が出た。今年に入って3回目。脳みそがオブラートで包まれているように、なにものにも近づけず、ただ移り変わる空の色をあてもなく眺めている。気づけば、外が暗くなり、街灯がひとつ、白く冷たい光をアスファルトにむけている。その光は暗闇の中で孤独に弱々しく点滅している。嗚呼、これが目眩ならばいいのに。
2023年2月1日 04:02
蟻が泥沼に堕ちた蟻は安らぎを求めてもがく泥沼はやがて蟻の足を硬い土塊で固めそうして頭から腹袋までを溶かすやがて残ったのは硬直した足だけとなった。
2023年1月19日 14:20
夕陽の映る海面が翡翠色の波を立てていた砂浜には忘却の孤城が波にさらわれ崩れてゆく波は肌で触れれば暖かく、丘には琥珀色のすすきが夕凪の涼風になびいて心地よかった。丘の上には赤と白の灯台が独り静かに砂浜の音楽を聴いていた。
2023年1月17日 15:56
まっ白な雪の中に指で文字を刻んだ。明日にも消えちゃいそうな震えた文章を書いたよ。なぜなら僕の想いは誰にも届きそうにないから。雪のように積もる想いも寒さに震えた感情も何もかも踏み潰されて凍りついてしまった。凍った僕の心は春を待ち、叫んでいる。
2023年1月13日 19:41
泡沫に飲まれる沈没船 波に崩れ、深海を静かに漂う。木片は腐り果て、粒子となってやがて海水となった。かつて船だった場所は水底の砂地に窪みを残しやがて窪みから鮮やかな海月が生まれた。海月は水底で唯一の光源となっていつまでも漂っている。
2023年1月11日 19:09
夜闇に浮かぶ 光の胞子粒寄せ合えば 肌暖かく六花の盛る 蝦夷のカラマツ淡く揺蕩う 一筋の気霜藻岩山から夜景を望みながら 1/11
2023年1月7日 16:37
世界を照らす太陽よ なぜ沈む あまねくものを 生成したにも関わらず あまねくものを 育んだにも関わらず 我らを見捨て なぜ沈む 世界はすでに 真の闇に包まれているのに西日差す夕方の車窓から 1/7
2023年1月4日 23:16
揺蕩う鬼火に誘われて遮断機を乗り越えた単調な警報音赤く点滅する警告灯甲高いソプラノが鳴る不協和音 耳鳴り泥濘と混ざり 吐瀉に溶ける