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『独白』

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記事一覧

秋季

 秋の匂いがした。白っぽい青空には、盛りを終えた入道雲がポツポツと取り残されている。少し肌寒い。
 僕たちは、まだ明けきっていない暗い朝日の中をゆっくりと歩いていた。朝露に濡れたコンクリートには、黄色や赤に変色した落ち葉が所狭しと落ちている。
 ー秋は嫌いよ、寂しいわ。
 そのように言った鏡子の顔は、朝焼けの光のせいで暗いコントラストができている。
 ぼくは秋について考える。手始めにキノコについて

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夜空の幽霊船

 夜風がとても心地よかった。春の夜空にはハラハラと星が輝いていた。星々の間には赤く点滅する孤独な光が高速で移動している。飛行機だ。それがぼくの額のずっと先を通過する時、「ゴーッ」というくぐもった轟が、ぼくを覆う夜空の天蓋を細かく振動させていた。

 ぼくははるか上空を通過する飛行機を見ると、少しのあいだじっと眺めるという奇妙な癖があった。そして、ぼくは飛行機に乗る彼らの一人一人について想う。

 

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卒業する先輩方に捧ぐ

 ぼくは川の流れを見ていた。川の流れは多くの落ち葉をも流していた。顔を持たない多くの落ち葉がぼくの下を通過し、またその全ての落ち葉が二度と戻ってくることはなかった。

 ギイギイ、ギイギイ。何を想う?ああ、寂しいのだ。ぼくは水面に揺らぐぼく自身の影を見つめる。川の水は月の光に照らされてわずかに白く濁っている。

 その時だった。水面に白く光る幾つかの何かがうつった。それは小

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 風が吹いていた。

 オレンジの木から親指の爪くらいの大きさの茶色く腐食した小さなオレンジが落ちるのを目撃した。

 「ボトッ」というくぐもった音と共に僕はしばらくのあいだ動けなくなってしまった。

 なぜなら、周りでそれを見ていた血色の良い無数のオレンジたちは、春の柔らかい日差しの中でイキイキとその身体を曝け出していたからだ。

 落下したオレンジは誰にも気づかれずにコンクリートの隅にに打ち捨

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はじめの一歩から

電車の車窓から夕陽がみえた

氷河のような白い雲に

陽光が反射してきれいだった

この氷河がぜんぶ溶けて

みんなめちゃくちゃにしちゃうような

大洪水を起こしてしまえばいい

だがしばらくすると

雲は暗い鈍色となって霧散してしまった

そこでぼくは、また明日も少しずつ生きていこうと思った

怪物

 夜遅くに家に帰るといつも父が起きていて、よく食事を用意してくれる。ぼくにはその愛情が鬱陶しかった。きっと母でも同じように思っていただろう。なぜならべつに父が特別嫌いというわけではないのだから。

 11時を過ぎて帰宅し、リビングでゆっくりしていると、父は「おかえり」と声をかけてきて、続いて必ず「ご飯は?」と聞く。ぼくは冷徹に「いらない」と答えたい。どうしても鬱陶しい、この面倒臭さを今すぐに払い除

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街灯

また熱が出た。今年に入って3回目。

脳みそがオブラートで包まれているように、なにものにも近づけず、ただ移り変わる空の色をあてもなく眺めている。

気づけば、外が暗くなり、街灯がひとつ、白く冷たい光をアスファルトにむけている。その光は暗闇の中で孤独に弱々しく点滅している。

嗚呼、これが目眩ならばいいのに。

眠れない夜に

蟻が泥沼に堕ちた

蟻は安らぎを求めてもがく

泥沼はやがて蟻の足を硬い土塊で固め

そうして頭から腹袋までを溶かす

やがて残ったのは硬直した足だけとなった。

夕陽の映る海面が

翡翠色の波を立てていた

砂浜には忘却の孤城が

波にさらわれ崩れてゆく

波は肌で触れれば暖かく、

丘には琥珀色のすすきが

夕凪の涼風になびいて心地よかった。

丘の上には赤と白の灯台が

独り静かに砂浜の音楽を聴いていた。

掻き消された想い

まっ白な雪の中に指で文字を刻んだ。

明日にも消えちゃいそうな

震えた文章を書いたよ。

なぜなら僕の想いは

誰にも届きそうにないから。

雪のように積もる想いも

寒さに震えた感情も

何もかも踏み潰されて凍りついてしまった。

凍った僕の心は春を待ち、叫んでいる。

素晴らしき思い出

泡沫に飲まれる沈没船
 
波に崩れ、深海を静かに漂う。

木片は腐り果て、粒子となって

やがて海水となった。

かつて船だった場所は

水底の砂地に窪みを残し

やがて窪みから鮮やかな海月が生まれた。

海月は水底で唯一の光源となって

いつまでも漂っている。

札幌紀行詩

夜闇に浮かぶ 光の胞子

粒寄せ合えば 肌暖かく

六花の盛る 蝦夷のカラマツ

淡く揺蕩う 一筋の気霜

藻岩山から夜景を望みながら 1/11

斜陽

 世界を照らす太陽よ

 なぜ沈む

 あまねくものを

 生成したにも関わらず

 あまねくものを

 育んだにも関わらず

 我らを見捨て

 なぜ沈む

 世界はすでに

 真の闇に包まれているのに

西日差す夕方の車窓から 1/7

 

 

 

夜の踏切

揺蕩う鬼火に誘われて

遮断機を乗り越えた

単調な警報音

赤く点滅する警告灯

甲高いソプラノが鳴る

不協和音 耳鳴り

泥濘と混ざり 吐瀉に溶ける