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東北の新たな食文化を醸す。地元屈指の生産者と料理人が集う「KAMOSUBA Co-RESTAURANT 開幕祭」レポート

東北の豊かな自然は、この地で生まれ育った僕の誇りだ。幼い頃から口にしてきた、米、野菜、山や海の恵み。僕にとってはどれも当たり前のものだったが、大人になり、地域の外で「東北〇〇県産」を目にして初めてその価値に気が付いた。

そう、東北の食材は「おいしい」のだ

しかし、一つひとつの「おいしい」が点在していては、より多くの人に価値を広めるのは難しいだろう。

そんな地域課題を感じている時、先輩経営者の氏家さんが「東北の食文化の発展・醸成を応援したい」と言い出した。「KAMOSUBA」というコラボレストランを仙台市広瀬通につくり、そのスタートをきるイベントとして「KAMOSUBA Co-RESTAURANT 開幕祭」を実施した。東北各地の生産者猟師料理人など「食材」のプロフェッショナルが一堂に会し、新たな食文化の醸成を目指すイベントだ。

宮城県の工務店、株式会社あいホームを営む僕は「食材」については門外漢だが、ふるさとの味を全国に広めたいという一心で、その総合プロデュースを引き受けた。

多くの人がイメージするであろう、いわゆる”食フェス”とはひと味違う、新たなイベントの中身をお見せしたい。


「生き物」が「食べ物」に変わる瞬間─鹿捌きを生披露

開幕祭のコンセプトは「Farmer’s LIVEキッチン」。完成した料理を提供するだけでは、参加者の感想は「おいしい料理」にとどまってしまう。通常のレストランならそれでいいだろう。

しかし、今回の主役は「食材」だ。「おいしい食材」と印象付けるためには、食材がおいしい料理に変わっていくプロセスを届けることが重要だと考えた。


イベント開始前の0次会では、ジビエ事業「Antler Crafts(アントラー・クラフツ)」を運営する食猟師の小野寺望さんが、参加者の目の前で鹿捌きを披露した。

小野寺さんより、おいしい部位やオススメの調理法を紹介。
鹿を捌くスピードに驚嘆の声があがるシーンも見られた。

小野寺さんが語っていた中で印象に残った言葉がある。

「(今まさに)生き物が食ベ物に変わる瞬間(に立ち会っている)」と。鹿肉は、僕たちにとっては「食べ物」だ。だが、人間の手によって「食べ物」となる前は「生き物」としてその命を燃やしていた。

当たり前の事実を、あえてその場で言葉にした小野寺さんからは、生き物に対する強い感謝の念が感じられた。

イベントに手段を限定しない「KAMOSUBA」のかたち

会場を移し、開幕祭が本格スタート。冒頭、「KAMOSUBA」プロジェクトの発起人で、会場の提供者でもある氏家正裕さんより、この活動にかける想いと今後の展望を語った。

「個店、料理人、生産者や食材、伝統的食文化。東北各地に点在している魅力ある食。それらの点が出会い、混ざり合い発酵することで、ふわりふわりと新しい文化が醸し出されます」。

氏家社長のKAMOSUBAにかける想い。

「KAMOSUBA」プロジェクトは単発のイベント開催にとどまらず、あらゆるアプローチ方法で「新たな食文化の醸成」を目指す活動だ。今回のような生産者と料理人によるコラボイベントの開催に加え、トークセッションワークショップなどの開催、全国POPUP CAFEの招致飲食スタートアップ企業の応援などを通して「食」に関わるヒト・モノ・コトをつなぎ、化学反応を起こそうと企んでいる。

「KAMOSUBA」のロゴには、地元の食文化を発展させたいという僕たちの想いがつまっている。
当日は、僕たちの想いに共感し、協賛してくれた東北企業の方々も参加。仲間たちと共に、新たな場の誕生を祝った。

パネルディスカッションで「食」を語らない理由

僕がファシリテーターを務めたパネルディスカッションでは、「あえて『食』の話はしない」ことをテーマに掲げた。これには理由がある。

僕は、今回参加してくれた生産者の食材がより多くの人から愛されるようになってほしい。では、食材について多くを語ればその魅力が伝わるのか。必ずしもそうではないというのが僕の持論だ。

これは、僕が住宅を販売していて得た教訓だ。家の性能を語っても、それがお客様にとって「家を買う決め手」になるケースは意外と少ない。「何を買うか」以上に「誰から買うか」を重視しているお客様が多いことにある時気が付いた。

生産者のみなさんの人柄を伝える。

だから、パネルディスカッションは生産者の「人となり」を伝える場にしたかった。

大崎市岩出山に本拠を置くよっちゃん農場の高橋博之さん、道代さんご夫妻からは「夫婦の馴れ初め」。先ほど鹿捌きで登場した小野寺さんからは「Facebookを利用するなかで感じた自身の変化」。名取市でせり農家を営む三浦農園の三浦隆弘さんからは「食べ歩きでよく行くお店」など人柄が表れるエピソードを語った。

生産者と料理人のコラボで生まれた絶品料理の数々

イベント後半、この日の目玉である食材の調理がスタート。料理とドリンクを半立食形式で味わいながら交流を楽しんだ。

0次会で捌かれた鹿を小野寺さんが調理。仙台市のローカルラウンジ「Echoes(エコーズ)」のシェフである蜂屋克利さんらが、参加者の目の前で、新鮮な農作物を次々と絶品料理へと変えていった

「Echoes」蜂屋さん&「こうめ」佐々木さん。

今回のコラボで生み出された特別メニューは以下の通りだ。

  • 春セリの豆腐と帆立

  • 木の芽のクレープ よっちゃんなんばん
    (鹿と玉レタスとたけのこ花山椒)

  • 鹿とこしあぶらたけのこ春巻き

  • 鹿とたけのこ包み ふきのとうみそ

  • 鹿の塩スープ セリとたけのこ よっちゃん農場

  • 丸新さんのお蕎麦

福島県郡山市の日本料理店「丸新」の熊倉誠さん、熊倉駿さんより、締めのお蕎麦が特別に振る舞われた。

「選りすぐりのFINE WINE&推し蔵の日本酒を楽しんでもらう」をコンセプトにセレクトされたドリンクもずらりと並んだ。

仙台市のナチュラルワイン専門店「enoteca oltre(エノテカ・オルトレ)」を経営する野宮敦志さんセレクトの品々。
料理人の方からは「自分のお店で料理を提供するのとはまた違うかたちで、地域を代表する食材を広める場があって良かった」との声が。

「KAMOSUBA」を構成するのは、生産者や料理人だけではない。このプロジェクトの仲間を集めるにあたって、ロゴをはじめとしたクリエイティブの制作を担ったチームも交流会に参加。ゲストの方にもマイクが渡るよう進行し、全員にスポットライトが当たる場づくりを意識した。

群馬みなかみ温泉 仙寿庵オーナー久保さんの感想。

イベントの最後、あえて一本締めはしなかった。「KAMOSUBA」は一度きりの「おいしい」「面白い」で終わる企画ではない。今後さらに進化させていくという決意を胸に、次に続くかたちで閉幕させた。

この熱狂こそ、地域を盛り上げることを確信。

決まったメニューもオーナーシェフも存在しない「KAMOSUBA」。食材の頂点を知る者たちが集えば、東北の食文化はもっと大きく進化していくはずだ。

◆ 「KAMOSUBA」について
Instagram:@kamosuba_corestaurant
https://www.instagram.com/kamosuba_corestaurant

原案/伊藤謙・細井美里、編集/三代知香

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