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short story

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日本酒の名前を題材に、ショート物語を書いています。 内容は日本酒とは全く関係ありません。
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記事一覧

【short story】雪だるま

【short story】雪だるま

 わたしは生まれてから18年間、実物の雪を見たことがない。
 どんな感触なんだろう?
 柔らかそうだな。とっても冷たいんだろうな。

 クラスメイトのキタウミくんは、小学生の頃、北海道から、雪の降らないこの地域に越してきたそうだ。

「あっちじゃ、毎日のように雪だるまを作ってたよ」

「雪だるまかぁー、作ってみたいなー」

「それじゃ今度さ、卒業旅行、みんなで北海道行こうよ」

「行きたい! あぁ

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【short story】死神

【short story】死神

「死神! このノートを使った者は、どうなる運命なんだ?」

「どうにもならないさ。1つ言えるとすれば……」

「なんだ!?」

「みなさんに、この作品を見ていただける」

【short story】水神

【short story】水神

 男は、大きくて深い海に、おのを落とした。
 すると、そこから顔を覗かせたのは、水の神さま。

「あなたが落としたのは、この金のおのか? それとも、この銀のおのか?」

 男は、正直に答えた。
「いいえ。私が落としたおのは、サッカー選手のおのです」

「元日本代表のか?」

「はい。元フェイエノールトの小野伸二です」

【short story】萬坊(マンボウ)

【short story】萬坊(マンボウ)

『ワン! ワン!』

「マンボウ、またご飯?」

 ウチの愛犬マンボウは、食欲旺盛だ。
 ドッグフードを食べたあとにも関わらず、わたしたち人間の食事まで食べようとする。
 犬にとって、濃い味付けのしてある人間の食事は、体に良くないと聞く。

 きちんと、しつけをしなければならない。
 次またねだってきたら、キツく叱って分からせよう。

 言ってる側からマンボウは、食事をねだってきた。
 わたしは無

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【short story】KISS of LEGEND

【short story】KISS of LEGEND

 学校が早く終わり、わたしは、そのままサケ子の家に行った。
 女子中学生が2人集まれば、ゴロゴロと床に寝そべってお菓子を食べるだけ。
「恋ばな」に「恋ばな」を繰り返し、終わったかと思えばまた「恋ばな」が始まる。わたしたちはそういう生き物なのだ。

「ねぇ、『伝説のキス』って知ってる?」
 まだキスをしたことがないわたしは興味津々に、サケ子の質問に質問を返す。

「え、どんなの? なんなの?」

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【short story】百春

【short story】百春

 両親は、『100歳まで元気に生きるように』と願いを込めて、春に生まれた少年に、「百春」と名付けた。
 そうして、いまは亡き両親の願いを背負った百春は、長い年月を生き抜いている。

「おじいちゃん、お誕生日おめでとう。100歳まで元気でいてね!」
 この日、百春90歳の誕生日会で、孫は声を掛けた。

 現役時代は、高等学校の数学教師として、『鬼の百春』と恐れられていた彼も、老いには勝てない。
 物

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【short story】風香

【short story】風香

 風香が家を出て行ったのは、昨日のこと。いまさら気付いたのだけれど、昨日は彼女の30回目の誕生日だった。

 朝まで飲んで帰ってきた二人の部屋には、「さようなら」とだけ書かれた置き手紙と、すっかり酔いの覚めた僕だけが残された。

 悲しみに暮れ、街をさまよっていると、やわらかな香りとすれ違う。

 あわてて振り返ると、風になびく長い髪。後ろ姿。たしかに、風香だった。

 やわらかな香りは、風に乗っ

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