【short story】雪だるま
わたしは生まれてから18年間、実物の雪を見たことがない。
どんな感触なんだろう?
柔らかそうだな。とっても冷たいんだろうな。
クラスメイトのキタウミくんは、小学生の頃、北海道から、雪の降らないこの地域に越してきたそうだ。
「あっちじゃ、毎日のように雪だるまを作ってたよ」
「雪だるまかぁー、作ってみたいなー」
「それじゃ今度さ、卒業旅行、みんなで北海道行こうよ」
「行きたい! あぁ、だけど、飛行機に乗ったことないし、恐いかな。それに……」
「それに?」
「ううん。なんでもない」
卒業旅行だもんね。『みんなで』だね……
結局、北海道までの旅費は高すぎるとの理由で、卒業旅行は、隣の県にある遊園地へ行った。
―――――
「キタウミくん。東京の大学へ行っても元気でね!」
「もちろんさ。ミナミも夢に向かって頑張れよ」
卒業式が終わった。もうキタウミくんや、他のクラスメイトとはお別れだ。
「あ、そうそう。ミナミ! 卒業おめでとう!」
キタウミくんは、卒業証書を渡す先生の真似をして、両手で雪だるまの形をした発泡スチロールの箱を差し出した。
わたしは、両手で受け取る。一礼。
「フタが付いてるだろ? 開けてみて」
中には、箱いっぱいの雪が入っていた。
「え? なんで?」
「雪だるまの宅急便。北海道行けなかったからさ、雪だけでもと思って。全国どこへでも雪を届けてくれるサービスがあるんだ」
「これを、わたしに?」
「うん。ミナミも俺も大学生になってお金が貯まったらさ。今度こそは北海道行こうな……2人で」
頬をつたった涙が、手元の雪にこぼれて、少し解けた。
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