佐伯剛

2003年4月 風の旅人を創刊。2015年10月の第50号まで制作発行。 2016年1…

佐伯剛

2003年4月 風の旅人を創刊。2015年10月の第50号まで制作発行。 2016年10月より、「日本の古層」というプロジェクトを開始。 2020年4月から、毎年一冊、「 Sacred world 日本の古層」シリーズを制作発行。

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    日本文化、日本の歴史、日本神話などの底辺に流れるコスモロジーについて

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おのずから、しからしむ道

 伏見稲荷大社は、外国人旅行客の人気ナンバーワンの場所だそうで、連日、ものすごい人だかり。  境内には、「伏見稲荷は祈りの場です」という言葉が掲示されているが、果たして、どれだけの人が、祈るために、この場所に来ているのか?  しかし、聖所というのは、古代から二種類の場所があった。  一つは、正真正銘の祈りの場であり、厳粛な神事が行われ、巫が憑依して神の声を降すような場所。  そしてもう一つは、この伏見稲荷大社や、江戸時代の伊勢神宮のような場所で、様々な地域から、物見遊山で大勢

    • 五大の響きと、写真。

       連日、京都市内をピンホールカメラで撮影し続けている。  京都の観光名所に群がる人たちは、いろいろな会話をかわしながら、人とぶつからないように巧みに左右に進路を変えながら歩いていて、その場にはすごいエネルギーが渦巻いている。  私は、その場に三脚を立てて、長い時間立ち続けているので、一人ひとりの顔は覚えていなくても、そのエネルギーを、記憶化することになる。  写真というのは、「真実の瞬間を捉える」などというキャッチフレーズがつけられた時代もあったが、真実のリアリティを、もう少

      • 細江英公さんが、超新星爆発のように、その生涯を終えられた

         「薔薇刑」、「鎌鼬」、「胡蝶の夢」、「抱擁」、「男と女」、自分の書棚にこれらの写真集が置かれている幸運な人は、今、改めて見つめ直しているかもしれない。  戦後日本の写真表現界が生んだ大きな大きな星、細江英公さんが、超新星爆発のように、その生涯を終えられた。しかし、宇宙に飛び放った星のかけらから、きっと新たな大きな星が生まれてくることだろう。細江さんの命は、途絶えたわけではなく、これからも、その命を継ぐ誰かによって、続いていく。  写真家という枠を超えて、芸術家という名がふさ

        • 京都がなぜ千年の都になったのか。

          前回の記事で、平安京が、四神相応ではなく、京田辺の甘南備山を軸にして、その真北に朱雀通りや大極殿が来るように設計されたということを書いた。  このことで明らかにしなければいけないのは、なぜ京田辺の甘南備山が軸になったかということだ。  桓武天皇というのは、第26代継体天皇のことを強く意識していており、京田辺は、継体天皇が2番名に宮を築いた筒城宮の地で、甘南備山は、古代から京田辺の聖山でありランドマークだった。   桓武天皇は、歴代天皇のうち唯一、公の場で即位式を行ったが、その

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        記事

          京都の歴史と、京都の現実

          猛暑の東京を歩き回ってピンホール写真を撮り続けていた余韻を引きずったまま、京都に移動してすぐに歩き回った祇園界隈は、2014年から2019年くらい前までの5年間、住んでいたところだった。  その当時、airbnbをやりながら、毎日のように海外からやってくるゲストを迎えていた。  京都で最も賑やかな場所での暮らしは、最初の頃はわりと楽しかったが、すぐに飽きてしまった。家を出ると観光客ばかりの状況になってしまったこともあり、現在の拠点である桂川流域に移動したが、こちらは自然の景色

          京都の歴史と、京都の現実

          かんながらの道

          今年発行するつもりの「日本の古層Vol.5 かんながら」は、7月くらいには、ほぼ完成していたのだけれど、今年の猛暑で本なんか読む人はいないんではないかと思い、少し寝かせて、もう少し涼しくなってから印刷すればいいと思っていた。  しかし、8月に入って東京に来てから、何か不思議な縁の働きがあったのか、猛然と東京の撮影を行い続けた。異様な暑さにもかかわらず、都心に出る時には必ずリュックサックに三脚とピンホールカメラを入れて、用事の前後には、街の中を歩き回った。東京は広大な宇宙なので

          かんながらの道

          荘子の説く道と、東京での暮らし。

          私が東京に暮らし始めたのは、海外放浪から戻ってきた22歳の時で、成田空港に到着してすぐ戸越銀座に向かい、駅のそばの不動産屋で、家賃1万6000円の北向きの4畳半、風呂無し、トイレ共同のアパートを見つけて、その日から入居した。(戸越銀座が都心に近いわりにはアパート代が安く、商店街も大きくて生活に便利という情報は事前に得ていた)。  手持ち金が10万円しかなかったので、敷金礼金と1ヶ月の家賃で80,000円くらいまでが条件。そして、その日のうちに入居できる物件というのが理想だった

          荘子の説く道と、東京での暮らし。

          天を指す人工物に惹かれる心

          東京に何かしらの用事で出かける時は、必ず、ピンホールカメラと三脚を持って、用事の前後、歩き回って撮影するようにしている。  ダラダラと歩くのではなく、撮影する意思を持って歩いていると、暑い中、重い荷物を持っていても、あまり疲れを感じない。  ピンホールカメラなので、狙った獲物を撃つ(shoot)ことはできないので、場の空気を取り込むような感覚で、三脚を設置して針穴を開放している。  今のところ、東京の撮影をよく行っている写真家のように、ディティールを切り取るという感覚ではなく

          天を指す人工物に惹かれる心

          東京の中に潜む古代性

            今思えば、東京の中に潜む古代性や懐かしさに対して、小説作品にまで昇華させていたのは日野啓三さんだった。  1970年代から80年代にかけて、日野さんは半蔵門近くに住み、深夜、皇居周辺を歩き回りながらコンクリートの冷え冷えとした感覚の向こうに、何かしら懐かしさを感じ取りながら、その懐かしさと呼応するように神経を研ぎ澄ませて、向こうからやってくる声に耳をすませていた。  当時の日野さんの小説は、長い海外放浪から帰ってきた私の心の深いところをとらえた。他の小説家の小説に倦んで

          東京の中に潜む古代性

          未来につながる記憶に潜り込む写真

          先日、中藤毅彦の新作写真集「「DOWN ON THE STREET」について文章を書いたが、彼は、2018年に「White Noise」という自らの思い入れの強さが特に反映された写真集を作っている。  この本は、彼が尊敬する写真家の川田 喜久治さんの歴史的傑作である『地図』という写真集に触発されて、この写真集を彼なりに自分の血肉として本という形にしたものだ。  川田さんの『地図』は、戦後しばらく経った頃の日本において、当時の情勢に太平洋戦争の原爆の記憶を重ねて作り上げている

          未来につながる記憶に潜り込む写真

          古事記の冒頭の神々が意味するのは、宇宙の根本原理(続き)

          クラゲの話から広がって、さらなる続きを。  地域ごとに異なる神々を信仰していた古代日本において、一つの国としてまとまる時代的必然性が生じた時、普遍的宗教の仏教の理念が取り入れられた。  古事記の冒頭、アメツチはじめの時に登場するアメノミナカヌシは、仏教における「空の思想」を象徴し、その後に続くタカミムスビとカミムスビは、同じく仏教の「因と縁」を象徴する。この3柱の神が造化三神、すなわち、宇宙における万物生成の原理を示している。  そしてこの3神の後に、葦の若芽が成長するような

          古事記の冒頭の神々が意味するのは、宇宙の根本原理(続き)

          古事記の冒頭の神々が意味するのは、宇宙の根本原理。

          八景島シーパラダイスに行った。意外と強く心を惹かれたのは、クラゲたち。  海でクラゲを見つけると、気持ち悪くて逃げてしまい、じっくりと観察することはないけれど、水族館では、色々な種類のクラゲをじっくりと見ることができる。この原始の生物は、5億年以上前から地球に生存し、その姿形は、その当時から変わっていないそう。  クラゲは、身体の95%ほどが「水」で、神経は全身に張り巡らされているが、心臓はなく、脳もない。なのに、獲物が触手に触れるなどの刺激を受けると、触手に並んでいる刺胞か

          古事記の冒頭の神々が意味するのは、宇宙の根本原理。

          世界共通の「現代」を前向きに生き抜く力

          私は40歳になるまで写真界とは無関係だったのに、2003年、突然、風の旅人というグラフィック雑誌の制作を始め、2015年10月まで50冊を制作した。  創刊当時の執筆者は、白川静さん、川田順造さん、河合雅雄さん、日高敏隆さん、養老孟司、松井孝典さんといった歴史、人文、生命、生物、宇宙、科学といった文理の違いを問わない世界の探求者だったので、彼らの深遠なる言葉と均衡を保てる写真かどうかだけが重要だったから、写真界の基礎知識など必要なかった。  そもそも、どんな表現や思想評論や学

          世界共通の「現代」を前向きに生き抜く力

          すべてのものを、神秘的なものも、死も、すべて生のうちに見ること。

          「彼岸に目を向けることなく、すべてを、神に関することも、死も、すべてこの地上のこととして考え、すべてをこの地上の生のうちに見ること。  すべてのものを、神秘的なものも、死も、すべて生のうちに見ること。  すべてのものを価値に上下のないものとしてこの生のうちに見るとき、そのとき、ひとつひとつのものがそれぞれ意味を持つようになる。」  ライナー・マリア・リルケ  先月、京都の龍安寺近くにある指月林に源氏物語の女房語りを聞きに行った時、指月林の中に、志村ふくみさん関係の資料が幾

          すべてのものを、神秘的なものも、死も、すべて生のうちに見ること。

          日本という国の宿命

           ペルセウス座流星群が極大を迎えた8月12日深夜、北海道では低緯度オーロラが観測され、流星群とオーロラの共演が見られたと話題になった。  確かに美しいのだが、なんだか不吉な気配もある。  測量工学の世界的権威としても知られる村井俊治(東京大学名誉教授)さんが、かなり以前から、「地震予測」の研究を続けておられ、その方法として、次の4つのポイントに着目している。 1. 地殻が変動する 2. 低周波の音が伝わる 3. 低周波の電波が出る 4. 電離圏に乱れが起きる  地震の専門家と

          日本という国の宿命

          狭い舞台空間を広大な時空に変成する小池博史のブリコラージュ力。

          感想を書いているうちに長くなる。複合的で多面的で多層的に大事なことなので手短に書くことは不可能。だから仕方がない。  一昨日、小池博史の脚本・構成・演出による舞台、「Breath Triple」を体験するために、猛暑のなか、木場まで行った。  劇場を出た後、しばし暑さも吹き飛ぶ清々しい気分。  それにしても、小池さんの創造力と、エネルギーにはいつも驚かされる。今までにない体験をさせられることを、ある程度は想定したうえで出かけているのだが、その想定の範疇を超えるものを見せられる

          狭い舞台空間を広大な時空に変成する小池博史のブリコラージュ力。