桂三実

落語家の桂三実です。 1993年5月1日生まれ。愛知県出身です。

桂三実

落語家の桂三実です。 1993年5月1日生まれ。愛知県出身です。

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  • 最近のあの子の可愛かったとこ

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それは決してそり立っていたのではなく僕たちを包み込んでくれていたんだ

僕はその子に恋をした。 僕はその子とデートをした。 僕はその子と手を繋いだ。 僕はその子をギュッと抱きしめた。 僕はその子とくだらないことで笑い合った。 僕はその子と知らない場所へ行ったりした。 僕はその子と夜の公園でバドミントンをしたあと星を眺めた。 僕はその子のことが好きだった。 僕はその子とキスをする勇気が出ないでいた。 僕はその子の家に遊びに行った。 その子の家は立派な一軒家だった。 僕は庭に広がる光景を見て呆気に取られた。 その子の家の庭には

    • バッティングセンター

      うん、わかったわかった。 君が野球経験者でアホほど打つのはもうわかった。 うん、わかったわかった。 君が自分が思ったよりも打てなくてこっちもリアクションに困ってお互い異様な空気が漂っているのはもうわかった。 うん、わかったわかった。 私が初めてだから最初は空振りとかしても笑いが起きて盛り上がったけど流石に打てなさすぎてなんか徐々に盛り下がってるのはもうわかった。 わかったわかった。 バッティングセンターで25球は多すぎる。 お願いです。 どうか全ての盛り上がりがピー

      • こっそり

        あーあ…また見ちゃった。 私の旦那は清水寺で今年の漢字を書く大役を担っている。 素直に尊敬している。 ただちょっとモヤモヤすることがある。 もうかれこれ何年も連続で、発表する前に家で漢字を先に知ってしまうことだ。 なんでリビングで練習するの? 日本中が注目する大事な役目だから失敗は許されないのは分かるけど、練習するならこっそりやってほしい。 私もみんなと同じようにドキドキしたいのに。 気を遣って”今年の漢字は何?”と聞かないのも一々疲れる。 聞いてもどうせ教えない

        • 最近のあの子の可愛かったとこ 18こめ

          あの子と回転寿司を食べに行った。  土曜の夜ということで多くのお客さんが順番を待っていた。 それも想定していたことなので店を変えるという選択肢はなく、あの子は迷わず名前を記入しに行った。 記入を終えたあの子が戻ってきた。 「うんとさ、偽名使って”長澤まさみ”って書いてきた」 「え」 「みんなびっくりするかな」 「そりゃするでしょ」 「だよね。あー楽しみ」 絶対にみんな長澤まさみじゃなかったことに対して落胆するじゃん。 そもそも長澤まさみは回転寿司行かないだろ。

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        それは決してそり立っていたのではなく僕たちを包み込んでくれていたんだ

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        • 最近のあの子の可愛かったとこ
          18本

        記事

          カレー

          「ママぁ、カレー余っちゃったね」 「そうだね。じゃあ一晩寝かして明日の朝に食べるか幼稚園のお弁当にしようかな」 「一晩寝かすって?」 「そう。寝てる間に冷蔵庫に入れておいたら今日とはちょっと違うおいしさになるんだよ」 「ふーん。それを一晩寝かすって言うの?」 「そうよ」 「なんか楽しみ!」 で、朝。 「ママおはよう」 「おはよう、リンちゃん」 「あっ!」 冷蔵庫まで駆け寄るリンちゃん。 「ちょっとリンちゃん、どうしたのそんないきなり冷蔵庫開けて?」

          日帰り

          僕の彼女は日帰りしたがる。 旅行も絶対に日帰りできる場所にしか行かない。 それは子供のときからそうらしい。 だから修学旅行には一度も行ったことがない。 遠足はある。 なぜなら遠足は日帰りできるけど修学旅行は日帰りできないから。 高校の修学旅行先がオーストラリアだったことに対して、なんとか熊本に変更できないかと校長まで直談判した。 大学の卒業論文も日帰りについて書いた。 日帰りしたがる理由を聞いても 「もし教えたら橘さんに何されるか分からない」 とだけしか答えてくれない。

          靴下

          オーストラリアで迎える初めてのクリスマスイヴ。 12月のオーストラリアは夏だ。とにかく暑い。 去年の12月マフラーをしていた自分が考えられない。 ベッドでは4歳になる一人娘の美羽がサンタさん宛の手紙とその横に靴下を置いてすやすや寝ている。 美羽、 プレゼント入れてもらう靴下、別にくるぶし丈じゃなくてもいいのよ。

          ホームランボール

          彼女と交際をはじめてまもなく4年になる。 僕より3つ下の24歳。旅行代理店で働いている。 これといった喧嘩もしたことはなく同棲はしてないが適度に会い、いい距離感で関係が続いている。 ただ、そんな彼女にずっとついている嘘がある。 彼女と2回目に会ったときについてしまった嘘。 野球が好きで子供の頃はジャイアンツファンの父親によく球場に連れていってもらいその影響でジャイアンツファンになったという彼女の話を聞き、そんな彼女に少しでも気に入られたい一心で、 ”子供のときに松

          ホームランボール

          最近のあの子の可愛かったとこ 17こめ

          あの子と動物園に行くことになった。 嘘みたいな快晴。 大人になってから動物園なんてめっきり行かなくなったので久しぶりのことで気分が高揚していた。 でも向かってる途中、些細なことで喧嘩とまではいかないけど言い合いになり険悪なムードになってしまった。 会話が減りどこかギクシャクしたまま動物園に到着した。 入り口には動物たちの顔はめパネルがあった。 真ん中にどーんとでっかくライオン。右隣がゾウ。左斜め上のやや高いとこにキリン。子供用だろうかちょっと下の方にフラミンゴ。

          最近のあの子の可愛かったとこ 17こめ

          履いてく 履いてかない

          多分 ラグビー部 履いてかない 将棋部 履いてく 西郷隆盛 履いてかない ジャイアン 意外に履いてく ジョン・レノン 履いてく   堂本光一 履いてく 堂本剛 履いてかない コナンの目暮警部 履いてく 矢沢永吉のファン 履いてかない ジャイアン 意外に履いてく THE NORTH FACEのTシャツ着てる人 履いてく SupremeのTシャツ着てる人 履いてかない 祭りのときだけ地元に帰ってくる人 履いてかない 月見バーガー月見バーガーうるさい人 

          履いてく 履いてかない

          恐らく人生で最初で最後に「ひょえ?」って言った

          受験モードのピリピリした教室の空気感に嫌気がさし学校をサボった。 今頃3限目だろうか。 両親は仕事に出てるので昼食が用意あるわけもなくコンビニへ向かった。 距離をショートカットしようといつものように公園の中を斜めに通ろうとした矢先、ブランコに座っているその人の存在に気が付いた。 榎本はるかだ。 高校で唯一3年間同じクラスの生徒が榎本。 遅刻は当たり前、朝から登校しても決まって早退。休むことも日常茶飯事。 教室では常に一人で、3年になってから彼女が誰かと話しているのを見たこ

          恐らく人生で最初で最後に「ひょえ?」って言った

          私には気になっている男性がいて。 知人の紹介で知り合った3つ年上の原田さん。 これまで食事に2回、美術館に1回行ったんだけど、正直いいなって思ってて。 でもそんな原田さんの好きになれないところが一つあって。 それは読書好きの原田さんが、読み終えた本を帯がついた状態でInstagramに写真を載せていること。 彼は読んだ本を読書記録としてInstagramに載せている。 角度や照明は特になんとも思わないけど、帯がついていることが私は好きではなくて。かなり。うんかなり。

          最近のあの子の可愛かったとこ 16こめ

          「”憂鬱”の”鬱”って漢字、いつまで経っても覚えられないんだよね」 あの子が言った。サービスエリアでソフトクリームを食べながら。 僕は恐らく歴史上初めてソフトクリームを食べながら憂鬱の鬱のことを考えた人を見ている。 もしかしたら僕と一緒に居るこの時間が憂鬱だったもんだからそんなこと思ったんじゃないかと不安になった。 「本とかで出てくる度に空書きしちゃうんだよね」 空書きしてるあの子を想像してみたら、想像したあの子の姿というよりはあまりにも鮮明に想像できたということに笑っ

          最近のあの子の可愛かったとこ 16こめ

          ブルー

          またベランダに干していた私の下着が無くなっている。 おそらくアーマー男の仕業だろう。 アーマー男。私の下着を幾度となく盗む下着泥棒。 一度犯行現場を目撃したことがあるのだが、全身アンダーアーマーの服を身に纏っていたことからアーマー男と呼ぶようにした。 最初こそ落ち込んだが、ここ最近これといった刺激がなかった私は2回目に盗まれたときにはなぜかワクワクしていた。 はっきりとした理由は分からない。 でも確実に興奮していた。 それからの私は下着泥棒されているというよりは下着泥棒

          読んでるこっちも正解知らんから結局合ってんのか分からない

          あいつなんやったかなぁ 『トムとジェリー』にたまに出てくるジェリーの親戚みたいなやつ 従兄弟か、叔父さんかそんなん 確か緑かなんかのシルクハット被っててん 服は青色かなんかのあいつ なんやったかなぁ 規格外に強かってん あと5分以内に思い出さないと命が危ないねんけど 待てよ そもそも名前知ってたか 
必死に思い出そうとしてるけど知らんかもしれん なんで知ってるって言うてもうたんやろ 同じくたまに出てくるブルドッグの名前はスパイクやねん それはなんか覚えてんねん なんでそれ

          読んでるこっちも正解知らんから結局合ってんのか分からない

          最近のあの子の可愛かったとこ 15こめ

          「やっと調子出てきたかも」 今頃調子が出たのか。 あの子とカラオケに来てはや1時間。 そのうち僕が歌ったのはたったの一曲。 56分23秒はあの子が歌っている。 あの子が歌ってるときにこっそりその曲の時間を調べて3分37秒だと知ったのではっきりとそう言い切れる。 僕は最初はタンバリンで盛り上げていたが次第に虚しくなりタンバリンを置いた。 「使わないなら私が使うねー」 と、あの子は右手にマイク、左手にタンバリンを持ち自分の肘や腰に当てて軽快に鳴らしはじめた。 次の曲の

          最近のあの子の可愛かったとこ 15こめ